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Mongolia mongoLia

体が刻む鼓動は 永遠でも無限でもない
ドウルッドゥドゥ ドゥゥ ドドルッドドルルゥイウ
 Dododuduuaduduia dodoluuruiaattu
ドドッゥゥイゥ アア
モンゴルの草原は 果てのない静けさの中にあり
魂が 安まる場所だった

考えずとも 答は其処にあると感じる
足搔きは無用で すべては用意されている
答えは 中心に在り
草原は青く 山脈は遠く
かすかに開いた口元から ハミングが零れ出て
唇を動かさないまま 響かせる音色に
しばし釘付けになりながら 慌てて手綱を握り直す

球体に暮らしているのだと 実感する円い空
濃々濃紺にじんわり滲み 浮かぶ
煌めく金平糖の狭間をたゆたう 幾千の微小な欠片
抑え難いときめきと安らぎ 時間が止まったかのやうな安寧の中
降るような星々に抱かれ 三日月のまばゆさに目が眩む
**
あれに乗って 帰っちまうんだろう
軽く示した先の飛行物体は ゆるやかに何処かへ消えていった
また戻るか いつ
問いかけの先 未来は何時だって不確か
牛はすきか 得意かどちらだったのか
いまとなっては解らないけれど あの瞳の奥が気になって

先を往きながら 時折あちらにこちらに
視線を遣る 少年と交わす言葉は低く
ぱっと何か摑んだ手を 振り返りながら開く
現れた虫に瞬間仰け反り きらきら飛んでいく様はうつくしかった
ひょいと馬上から消えたと思うと 術のように戻っていて
次に無造作に渡されたのは 紫の小花
咄嗟に受け取った可憐な姿は やわらかな呼吸の色
見逃さなかった子らの口が ヒュウっと音をたてた
もう前を向いた後ろ姿に 囃し声は届いたのか
*
炎暑に滴る汗 残るは草原の香
マヂカルは終わらない 人生の姉さま兄さま
歩みは何処までも続いて 思い掛けないご縁が
次なる出逢いを生み 新たな笑顔につながっていく
麗しい方 嬉しい言葉に微笑み
滋味に富んだ知恵を 銀の小匙で掬ってもらった
人々の想い 自然の理
生きとし生けるものの源は 繋ぎ紡がれてゆく
*
渡した布きれを さくりと巻き
口を噤んだままだった男 無邪気に笑んでいたのに
脇からつつかれようと 沈黙は破られなくて
*
腹から背にかけて貼られた 見覚えのある白さにぷんとする匂い
ここにも富山の薬売りが 根付いていて
荒くれを抑えたとき痛めたのだろう もう平気だという仕草

硬い車のシート 吹きすさぶ寒風
ごつごつした手のぬくもり 熱い背中
ふっくらと頭まで包み 急に耳元から立上った
青い草の香に 野性の衝動を見る
余裕なくせり上がるものを 必死に抑え込む

ゲルの扉をくぐると くべられた木片と夕に拾いし馬糞の影
温かな空気を送り出すストウブの前後で 穏やかな時がくるまる
あかく燃えていた 男たちの横顔と
短い会話 ひそやかに固く繋がれた指先

穏やかな眠りを 祈っている
(2014.07) 写真:遥かなる地で https://note.com/indigorhu/n/ne67ad2061213


Erat, est, fuit あった、ある、あるであろう....🌛