見出し画像

♯07【北インド古典音楽盤文庫4】 扉が開く CLASSICALS/SONG AND INSTRUMENTAL

「ラーガ」は作ったとは言わない、発見したと言う。
その始まりがいつであったのか定かではない。
はるかなる時を、親から子へ、師から弟子へと手渡されるように伝えられてきたラーガ。
それがレコードの発明によって万人にアクセス可能になったのが現代である。

インド古典音楽は通常、1曲1時間からそれ以上、短いものでおよそ15分。 
したがって、CDはインド古典音楽の記録に適した長さを持ち、ラーガの流れを中断せずに録音できるという利点がある。
しかしながら、レコードから流れるインド古典音楽はやはり美しく、そしてエモーショナルだ。

当時、レコードに録音となると、音楽家は力がみなぎったのではないだろうか?
これまで、演奏会だけで歌われてきたラーガ、演奏されてきたラーガの真価が、広い地域に、大多数の人々に問われるのだ。世界中に広がるとは思いもしなかっただろうが、自分のためなどという小さな問題ではなかったはずだ。

ガラナ(流派)への想い、師への想い、仲間への想い、様々な想いを背負って録音したと思う。
共に厳しい練習を積み重ねてきた同門の仲間はもちろん、家族や友人も祈ったに違いない。そういう時代だったとレコードを聴いて感じられる。

20世紀前半、78回転SP盤の録音時間は片面わずか4~5分。
20世紀半ばに作られた33回転LPレコードにしても、録音時間は片面20分~23分。
通常1曲1時間を超えるほどの歌を演奏を切り取り、または凝縮し、その制約の中で、彼らはできる限り歌への想いを伝えた。

極秘とされて、代々受け継がれてきたラーガを録音するのである。バンディッシュ(ラーガの基本となる作曲された旋律)はすぐ盗まれてしまうだろう。
独自のガラナに伝えられてきた秘伝を守るため、録音を拒む音楽家も数多くいたと聞く。

しかし、ガラナの誇りと責任、ラーガに対する情熱、努力、祈り、献身、愛、湧き上がる想いは、真似することができない。

彼らは、歌に、演奏に、言葉に、一音に、魂を込めたのだ。

そして、録音は一度きり、即興ゆえインド古典音楽は録り直しができない。
スピードも決まっていないし、何よりも、情感に歪みが生じてしまう。

何代も受け継がれてきた歌を、演奏を、繰り返し繰り返し気の遠くなるような時間をかけて練習し、更に水準を上げ、SP盤の時代は片面たった4~5分、LPレコードでさえわずか20分前後に刻むのである。

故にインド古典音楽のレコードは、何年たっても何十年たっても輝きを失わない。

このレコードはMEGAPHONE RECORDが製作した78回転SP盤の音源を、1975年に33回転LPレコードに再録音し、再発行したものです。
録音時間は短いし、正確な録音年代もすべては分かりませんでしたが、ミュージシャンは勿論の事、レコード制作に関わった関係者のすべての方々に敬意を表します。

*1932年、インドのThe Gramophone Co.Ltd.は「プライベート レコーダー」として知られる制度を導入し、地元の民間企業が契約に基づいてグラモフォン株式会社が作成した録音にアクセスして、これらの録音を地元の自社レーベルで発行させる事を奨励した。
これらの「プライベート レコーダー」の中で、鹿のマークの「メガフォンレコード」を備えたメガフォンカンパニーは、最も重要であったと書かれている。(The 78rpm Record Labels of India/Michael Kinnear著)

*「エタワ」ガラナ ディスコグラフィー(マイケル キニア著)によると、エナヤット・カーン(1894-1938)がシタール演奏した「ラーガ カマージ」(B面3曲目)と「ラーガ ヴァイロン」(B面4曲目)は、1934年の録音と思われる。
*また、エナヤット・カーンの息子のヴィラヤット・カーン(1928-2004)が演奏した「ラーガ ダルバーリカナラ」(B面5曲目6曲目)は、1940年の録音と思われるが、ヴィラヤットわずか12歳の時である。

いいなと思ったら応援しよう!