わたしの記憶の中のウシ

 すでに亡くなっているが、わたしから見た父方の祖父母は生前、畜産業を営んでいて、幼い頃、よく牛舎に行って牛たちに牧草を食べさせていたものである。一度だけ、生まれて間もない、ようやく乳離れ?した子牛に牧草をやろうとしたら、手を噛まれたことがある。まだわたしも幼かったから手も小さかったし、牛もまだ幼かったからけがをすることもなく事は済んだのだが、それからしばらくして、また父方の祖父母の家に行くことになった。わたしの手を噛んだ子牛が競りにかけられ、出荷されることになったから見に来い、というのだ。その計らいが、精肉業に従事する父のものか、祖父母のものかはわからないが、幼いわたしにはめちゃくちゃ大きくなったように見えたその子牛は運搬用のトラックに乗せられ、旅立っていった。
 「うしさん、またね〜」と手を振ったのは未だに覚えている。よほど特殊な事情でもない限り、生きて会えることもないだろうに。幼い頃のわたしはそんなことも知らず、牛を見送った。
 高校受験で自称進学校から工業高校へ進路変更したわたしはものづくりの道を進むことになり、父とは正反対の道を歩むことになるのだが、それはまた別の話。
 なんでこんな話をするのかというと、コロナ陽性で自宅療養となったわたしは暇を持て余して寝るかYouTubeを見るかの繰り返しの生活になっているのだが、たまたま畜産業をされている方の動画が流れてきた。

 出荷間近だという牛の蹄を切って削ってする動画だったのだが、言われてみれば牛だって生き物なんだし爪くらい伸びるよな……と思って色々動画を漁っていたら、55ヶ月以上肥育した牛が出荷から屠畜されて、500kg以上の枝肉(普通の但馬牛は350kg程度らしい)になって、脱骨という骨を抜いて大まかな肉の部位に分けられていく様子を見て、なんだか感動してしまった。グロいとかそういうの全然感じなくて、なんかもう神秘的なのね。残念ながらわたしのような生活保護と障害年金と作業所の工賃でかろうじて生きているニンゲンには手の届かない高級品なのだが…… 一度は食べてみたいわね。

 部屋で寝てるのもそろそろ飽きてきてしまったわ。みんなコロナには気をつけましょうね。

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