外敵を察知するTLR(トル様受容体)

今日は免疫学のお話です。

免疫学の分野においては20年前からエポックメイキングな発見があったんですね。

動物の体内における食細胞(マクロファージ等)は、無作為になんでも周りにある者を食べるイメージがありますよね。しかし、そうすると、味方のものも食べつくしてしまうのでは?という疑問もわきますよね。

その点は、ご安心を。どうやらじっさいの食細胞は、原則的に外敵、つまり病原体だけを食べるみたいなのです。ということは知られていました。しかし、その理由は長らく不明でした。
そこで、1997年、フランスのホフマン博士がとあるショウジョウバエに関する実験で免疫額に関する新発見をしました。

ショウジョウバエの体内のある物質が、危険察知センサーとなって、カビからの感染を防いでいることが示されたのです。
その実験では、食細胞の方ではなく、動物の体中にあるそれぞれの細胞の中に、外敵と味方を区別するセンサーがついているということが分かったのです。これは画期的な発見でした。
この時見つけられたのが、toll-like-receptor(トル様受容体/読み:「とるようじゅようたい」)という物質で、これは「センサー」の役割を果たす物質なんですね。TLRって略されて呼ばれます。

このトル様受容体(通称TLR)という危険察知センサーは、はじめは昆虫から見つりました。そして、翌年1997年のアメリカのチームがヒトの遺伝子上にトル様受容体の存在を発見し、ヒトやマウスをふくめた哺乳類においても見つかるようになりました。そして、続く実験や研究の結果(※1)、ヒトの体内でも重要な役割を担っていることが分かったんですねー。これがここ20年の最新の免疫学の研究で分かってきたことなんだそうです。

これらトル様受容体(TLR)には9種類がわかっていて、それぞれ、TLR1、TLR2、…TLR9という風に名前がついています。
一つ一つのトル様受容体(TLR)は、それぞれ検知する対象が異なるのです。

細菌感染を察知する → TLR1、TLR2、TLR4、TLR5、TLR6、TLR9

【詳細】
(右はそれぞれのトル様受容体(TLR)が認識する物質(リガンド))
TLR1/2 三本鎖リポタンパク質
TLR2/6 二本鎖リポタンパク質
TLR5 フラジェリン
TLR2 ペプチドグリカンリポタイコ酸
TLR4 リポ多糖
TLR9 DNA


ウィルス感染(核酸)を察知する → TLR3、TLR7、TLR8、TLR9

【詳細】
(右はそれぞれのトル様受容体(TLR)が認識する物質(リガンド))
TLR3 二本鎖RNA
TLR7/8 一本鎖RNA
TLR9 DNA

こんな感じですねー。
とりあえず今日は、『トル様受容体(TLR)』という名前だけ覚えて帰ってくださればあとはおっけーです❕

(参考文献)新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで (ブルーバックス) 新書 – 2014/12/19 審良 静男 (著), 黒崎 知博 (著)


Toll 様受容体の機能
〔生化学 第81巻 第3号,pp. 156―164,2009〕
http://www.jbsoc.or.jp/seika/wp-content/uploads/2013/11/81-03-04.pdf


※1 …… 上に紹介した、「新しい免疫入門」の著者、審良 静男氏もマウスにおけるトル様受容体の役割を解明した研究者のうちの一人なんだそうです。ということは、「新しい免疫入門」は、入門書というだけでなく、研究者本人が自分の専門分野の研究結果について解説している書籍でもありますね。


余談ですが、 BNT162b2という薬剤が、このTLR4(センサー)、TLR7/8、の働きを阻害するのでは?というレポートも出てるんですねー。
2021年の5月に出された論文です。(下記のリンクは原文、英語)
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.05.03.21256520v1

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