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BIA機器を初めて購入する方へのガイド

これまで、体型を評価する指標といえば身長や体重、そこから求められるBMIが主流でした。しかし昨今、からだを構成する成分である、体成分を見ることで自身の健康や体型を評価しようという考え方が広まってきています。

体成分を測定する方法はいくつかありますが、生体電気インピーダンス分析法(BIA)という測定方法を用いた機器を使用して筋肉量・体脂肪率などを測定する方法が一般的な方法の1つとなりつつあります。BIA機器は、測定時間の短さや測定から結果が出るまでの速さ・利便性・正確性のどこをとっても不足はありません。
しかし、BIA機器の購入に要する費用は機器によってまちまちです。
BIA機器は人体に微弱な電流を流し、その電流が体水分を流れる際に発生する電気抵抗(インピーダンス)を測定することから始まります。測定されたインピーダンスをもとに体水分量を算出し、筋肉量・体脂肪量等の体成分を求めていますが、この測定原理は全てのBIA機器で同じです

同じ方法を使用しているのに、BIA機器の値段に幅があるのはなぜでしょうか?

今回は、BIA機器を購入する際に、確認すべき重要な事項を説明します。

周波数を確認する

BIA機器は体成分を測定するために、最低1種類の周波数を持つ電流(交流)を使用します。BIA機器が初めて商業化された際、その機器が50kHzの単周波数電流を使用していたことから、現在もいくつかのBIA機器はこの名残で単周数での測定を行っています。
しかし、50kHzの単周波だけでは各体成分を求める基礎となる体水分量を正確に計測することが難しく、精度を補うために統計補正を使用するようになりました。
統計補正とは、言い換えれば傾向の平均値です。例えば、高齢になるにつれ筋肉量は減少する、女性の方が男性に比べて体脂肪量が多いなどの一般的な傾向を、体成分を求める式に組み込むということです。
そうすると、筋肉量が多いご高齢の方や女性で体脂肪量が少ない方など、一般的な傾向と一致しない方において誤差が生じてしまいます。
また、健常者・高齢者・小児・性別・病歴など対象者によって使用する統計値は異なるため、全ての人には適応できないという点から、問題視されていました。
”この問題を乗り越えるためには、単周波数ではなく複数の周波数を使用する必要がある。” という見解を多くの研究者が認識していくようになり、1996年InBodyが初めて多周波数で測定できる技術を搭載したBIA機器の開発に成功しました。

BIA機器の購入を検討する際は、使われている周波数の数を確認してみてください。単周波数よりも多周波数を用いたBIA機器の方が正確であることに間違いはありません。

多周波数測定が正確な理由


電流が人体に流れることで、BIA機器は電気抵抗値(インピーダンス)を測定できる、という測定原理をご説明しました。つまり、BIA機器は測定されたインピーダンスから何よりも先に体水分量を算出しています。
低周波数の電流は、細胞膜を通過するのに十分なエネルギーがないため、細胞の周りを沿うように流れるという性質があります。一方、高周波数の電流は細胞膜をよく通過するため、細胞の中や外関係なく、体水分全体を流れるという性質があります。
このように、周波数毎に細胞膜を通過する程度の差があることを利用し、様々な周波数の電流を人体に流すことで、「細胞外水分量」「細胞内水分量」「細胞外水分比(ECW/TBW)」「体水分量」をより正確に算出することができるようになります。
このような水分情報を正確に測定してからはじめて、筋肉量・体脂肪量などの体成分が正確に算出できるようになる、というわけです。

体成分を正確に測定できているのかどうか、という点で確認したいのは、大元である体水分量を正確に測定できているのか、というポイント。
つまり、様々な周波数が使われている多周波数での測定が精度のカギを握っているということです。

測定結果の項目を確認する


BIA機器が提供している測定結果の項目は機器によって様々です。
体脂肪率のみを提供しているものもあれば、40以上の包括的な結果項目を提供しているものもあります。
体脂肪率は、健康状態や体型評価の指標として確かに扱いやすい指標の1つです。一般家庭に出回っているBIA機器は体脂肪率を表示できるものが多いですが、実は体脂肪率は変動しやすい項目なので、体脂肪率だけに頼ることは危険です。
なぜ体脂肪率が変動しやすいのかは、BIA機器の測定原理に理由があります。
BIA機器が測定できるのは体水分なので、電流が流れない部分(衣類・直前に摂取した食べ物など)は体脂肪として換算されるためです。

体脂肪率の他に活用できる項目として、代表的なものを3つご紹介します。検討しているBIA機器でこれらの項目が提供されているか、確認してみてください。

骨格筋量
筋肉量の中でも、自分の意志で動かせ、筋繊維による横紋を持っている筋肉のみを意味します。四肢の筋肉は骨格筋のみで構成されている反面、体幹の筋肉には内臓筋・心臓筋も混在します。そのため、当項目は全身筋肉量から、推定される内臓筋・心臓筋の量を除いた値でもあります。
近年ではサルコペニアの評価で骨格筋指数(Skeletal Muscle Index: SMI)がよく使われているので、自身の筋肉量が十分に足りているのか、サルコペニアやサルコペニア肥満ではないかなども簡単に確認できます。
※SMIは四肢の骨格筋量を身長(m)の二乗で割った値です。アジアのワーキンググループ(AWGS)では、男性7.0kg/㎡未満、女性5.7kg/㎡未満をサルコペニアの診断基準と定めています。

体水分均衡
より高精度なBIA機器では多周波数測定により水分情報の詳細が提供されているので、体水分量の総量だけでなく、細胞内・外の水分バランスも確認することができます。InBodyでは細胞外水分比(ECW/TBW)という項目により、水分均衡が適切かどうかを調べることができます。
健康な体における体水分量(TBW)に対する細胞外水分量(ECW)の割合は常に0.380前後の一定な数値を維持します。しかし、浮腫を伴う疾患(腎不全・心不全・肝硬変・糖尿病など)がある場合、主に細胞外水分量が増える形でこの数値が高くなり、加齢・サルコペニアなど栄養状態が悪化した場合は、細胞内水分量(ICW)が減少する形でこの数値が高くなります。
ECW/TBWは浮腫みの指標でありながら、栄養状態や疾患の重症度を示す指標として広く使用されており、一般的に0.400を超えると高い、水分バランスが崩れている、と評価します。

位相角
位相角は電流が体水分に沿って流れる際に発生する抵抗(レジスタンス)と、細胞膜を通過する際に発生する抵抗(リアクタンス)の位相差です。つまり、位相角は細胞膜の健康度・細胞の構造的な安定度合いを反映します。
位相角に標準値は定められていませんが、位相角0°は細胞の破壊を意味するので、位相角が低いほど細胞の健康状態・機能が低下していることを意味します。
位相角は体格と比例するので、性別・⼈種別でも値は異なり、加齢によって低下していく傾向があるため、年代によっても異なってきます。透析患者を対象に位相角で栄養評価を行った研究では、4°以下で栄養不良、5°以上で栄養良好を示したと報告しています1)。

測定時に必要な情報が何なのかを確認する

全てのBIA機器で、測定時に必要な最低限の情報は “体重” です。BIA機器に体重測定機能が付いていないとしても、測定者は自身の体重を手動で入力する必要があります。BIA機器とは別のスケールで体重だけを測定する場合は、入力ミスがないように心がけてください。
実際の体重と入力した値が離れていくほど、体成分の各値も実際の値とは離れていきますが、体重-除脂肪量で求められる体脂肪量は特に影響を受けることになります。従って、手動で体重を入力する際は、数日前に量った値や予想体重などを使用せずに、体成分測定の直前に量ったものを使用してください。

身長も全てのBIA機器に共通した必要情報です。各部位で計測されたインピーダンスから体水分量を算出するには、からだの各部位の長さが必要になります。この長さは身長に対する比例式で推定されて使用されているため、身長入力を間違ってしまうと全ての測定値に影響が出てしまいます。
体重と身長は統計補正によって結果を調整するための予測変数ではなく、インピーダンスと同様に体成分を理解するための重要な枠組みです。

“年齢” と ”性別” も入力を求められるBIA機器が多いくあります。
30代と80代では、30代の方が筋肉量は多い、男性と女性では男性の方が体脂肪率は低いなどの統計データに基づいて、実際の測定値を調整するためです。統計補正を使用したBIA機器の問題点は、先ほど 周波数を確認する の項でも説明しましたが、全ての人には適応できないという点です。
このようなBIA機器を使用している場合、体を鍛えている高齢者・フィットネスに通っている女性は、統計補正の影響で筋肉量が過小評価されているかもしれません。
統計補正を使用している機器であるかを調べるには、敢えて自分の性別ではない方の性別を入力して測定してみてください。本当の性別で測定した結果と比べて、筋肉量や体脂肪率が大きく変わっている場合は、統計補正を使用している機器となります。

何が測定され、何が測定されないのかを確認する

BIA機器は、電流が流れる部分のみのインピーダンスを測定できます。つまり、電流が流れない体の残り部分は推定で算出されているということです。

多くの一般家庭用BIA機器は、両脚間に流れるインピーダンスを使用しているもの(上半身は推定)か、両腕間に流れるインピーダンスを使用しているもの(体幹と下半身は推定)です。
このようなBIA機器は上半身と下半身の体格のバランスが崩れていないということが前提になります。下半身がとても発達したサッカー選手が両腕間でのみ測定するBIA機器を使用してしまうと、下肢及び全体の筋肉量は過小評価されてしまいます。

また、右手の甲と右足の甲に電極を付けて片半身に沿って電流を流すBIA機器もあります。こちらは電極を付けていない方の半身が推定値となり、
左右の均衡が崩れていないということが前提となります。テニス選手の利き腕発達度合いや、透析患者のシャント肢・非シャント肢の左右差などを調べることは難しくなります。

しかし、全身測定のBIA機器だからと安心してはいけません。全身を1つの円柱として測定するBIA機器と、右腕・左腕・体幹・右脚・左脚の5つの部位に分けて測定する機器があるためです。同じ全身測定でも、部位毎でそれぞれ測定を行っているか否かで、測定結果の精度は変わってきます。
※部位別測定のメリットなど詳細は、InBodyトピックの 「部位別測定のガイド」 を参考にしてください。

終わりに

InBodyは部位別直接多周波数測定法(DSM-BIA)を使用した機器なので、上記確認事項全てをクリアにすることができます。

結果は統計値を使用した統計補正を行わずに、両腕・体幹・両脚の5つの部位をそれぞれ測定して分析するようにプログラムされています。
多周波数を部位毎でそれぞれ流しているので、測定時間が約15秒から約100秒と要しますが、測定結果は最も正確と言われるDEXA法とほとんど一致しています。
これからBIA機器を購入する人は、これらの確認事項をぜひチェックしてみてください。

BIA機器を値段の側面だけで判断したがために、買った後に後悔したなんてことがないように。


参考文献
1.    慢性維持透析患者の栄養評価に対するPhase Angleの一考察, 増田ら, 公益社団法人 日本臨床工学技士会会誌 (2019)65

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