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女性アスリートが陥りやすい体の不調と対処法

女性アスリート特有の健康課題と言われているものに「利用可能エネルギー不足」「視床下部性無月経」「骨粗鬆症」の三つがあります。

これらは女性アスリートの三主徴と言われ、相互に関連しながら進行していきます。

アスリートがこれらの問題を認識して自分で対策することは勿論ですが、指導者・チームスタッフ・家族など周囲の理解とサポートも必要です。

今回は女性アスリートが陥りやすい三主徴と、その対処法についてお話します。


私たちは生きるために必要なエネルギーを食事から摂取しています。

加えて、スポーツ活動を行うと相当なエネルギーが消費されるため、より多くのエネルギーを食事から確保する必要があります。

しかし、食事からのエネルギー摂取量が少ない状態でスポーツ活動を行うと、活動に必要なエネルギーは本来生命維持で使用するエネルギーから補われます。

このような「利用可能エネルギー不足」は人体の様々な機能に障害を引き起こし、アスリートのコンディショニングにも悪影響を与えてしまいます。

その例の一つが、女性ホルモンの分泌異常です。

女性ホルモンの役割

女性ホルモンにはエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の2種類があり、いずれも卵巣で作られています。

これらは月経や妊娠をコントロールしたり、肌や髪を美しく保ったり、骨を丈夫にしたり、自律神経を安定させたりと様々な役割を持っています。

男性も女性ホルモンを持っていますが、分泌される量に違いがあるため男女で身体の違いが顕著に現れます。

女性ホルモンの分泌は、脳の視床下部と下垂体、卵巣によって調整されています。

女性に起こる月経は、成長期に十分成長し、健康に生きていくために十分なエネルギーを蓄積するシステムができたというサインですが、脳の視床下部から出される信号により女性ホルモンが分泌されることで正常に機能します。

つまり、女性ホルモンの分泌が何らかの理由で低下してしまうと、月経異常や無月経に繋がってしまいます。

無月経までのプロセスをもう少し詳しく説明します。

女性の正常なホルモン分泌には一定量の体脂肪が不可欠ですが、スポーツ活動による消費エネルギーが過剰になったり、コンディショニングの一環による無理なダイエットでエネルギー不足の状態が続いたりすると、体脂肪率が低下して体脂肪から分泌されるレプチン(肥満防止物質)というホルモンが抑えられます。

レプチンの分泌が低下すると、脳の視床下部からの女性ホルモン分泌にも異常が起こり月経を止めてしまいます。

この状態が視床下部性無月経です。

女性は一般的に体脂肪率15%で約半数が無月経、10%以下でほとんどが無月経になると言われています。 

▲  InBodyが定める女性体脂肪率標準範囲は18.0-28.0%で、この範囲を下回ると無月経になるリスクも高くなることが分かる

無月経は骨粗鬆症への入り口

女性ホルモンの分泌は月経だけにはたらきかける訳ではなく、骨の健康にも関連しています。

女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が低下すると、骨にカルシウムが吸収されなくなってしまい、骨量維持のはたらきが低下してしまいます。

無月経は既に骨に影響が出始めている段階で、骨密度の低下から骨粗鬆症を発症するリスクが高まります。

閉経後の女性が骨粗鬆症になりやすいといわれるのも女性ホルモンのはたらきが弱まるためですが、無月経はまさに閉経後の女性の身体と同じような状態なのです。

アスリートが骨粗鬆症になると疲労骨折などの怪我にも繋がり、競技パフォーマンスにも影響が出てしまいます。

疲労骨折は骨密度の低下によって骨が運動ストレスに耐えられない状態であり、繰り返し加わった力によって骨にヒビが入っている状態のため、骨折部位に激痛が走ります。

疲労骨折のヒビが進行して完全な骨折になる場合もあります。

月経を適齢時期に迎えられるよう、体の成長を促すためには成長ホルモンが必要です。

身長と体重が増えた後に骨は太く強くなるので、骨の成長にとっても身長が伸びる時期(10歳から15歳)が大切です。

つまりこの時期の過度なダイエットは特にNGと言えます。

コンディションを良好に保つために

女性アスリートの三主徴の治療にはエネルギー不足の改善が必要不可欠です。

消費エネルギーと摂取エネルギーのバランスがしっかり取れているか、栄養バランスに偏りがないか、アスリートに必要な栄養素を摂取できているか、食事内容も確認する必要があります。

摂取エネルギーが足りていないことが分かっていても “体重の増加が怖くて摂取量を増やせない” “競技の特性上体重を増やすことができない” などの場合は、例えば1食のご飯の量を1口ずつ増やし、体重が増えないことを確認しながらさらに1口ずつ増やすというサイクルを繰り返してみましょう。

ご飯の量を増やしたタイミングから2週間程度体重が増えないことを確認したら次のステップに進みます。

そうすると、2口→茶碗半分→茶碗1杯→茶碗1杯半→茶碗2杯と、長い時間をかけて徐々に体重を増やさず毎食しっかりご飯を食べられるようになり、エネルギー不足が改善されます。

ただ、エネルギー不足が深刻で女性アスリートの三主徴の症状が現れている場合、体重や体脂肪がそもそも適正に足りていないことも考えられるため、コーチや専門家に目標体重や目標体成分の見直しも含めて相談するようにしましょう。

また、アスリートだけに関わらず健康的な体を維持するためには、バランスの良い食事を心掛ける必要があります。

バランスの良い食事構成は、(主食)+(主菜)+(副菜×2)+(果物)+(牛乳・乳製品) の組み合わせです。

主食は、ご飯・パン・麺類などエネルギー源となる炭水化物が豊富な料理です。

主菜は肉類・魚類・卵類・大豆製品が使われているメインのおかずで、身体を作るもとになるタンパク質が豊富な料理です。

副菜は野菜・芋類・きのこ類・海藻類などを主原料とする料理で、身体のコンディションを整えるビタミン、ミネラル、食物繊維が豊富な料理です。

毎食をバランスの良い食事構成にすることで、五大栄養素(炭水化物・タンパク質・脂質・ビタミン・ミネラル)をしっかり摂ることができます。

そして、ビタミンとミネラルの中にも、特にアスリートが必要な栄養素がいくつかあります。

※五大栄養素に関する詳細は2020年10月~2021年2月のトピックをご覧ください。

➤ビタミン

ビタミンB1は、糖質をエネルギーに変えたり、神経・筋肉・心臓の機能を正常に保つ働きがあり、牛肉・大豆・卵・そばなどに多く含まれています。

ビタミンB2は、運動中に脂質をエネルギーに変える働きがあり、鰻・納豆・サンマなどに多く含まれています。

ビタミンB6は、タンパク質から筋肉や血液を作り出す働きがあり、レバー・カツオ・マグロ・鮭・バナナ・アボカドなどに多く含まれています。

また、月経前の不快な症状を和らげる働きもあるので女性アスリートは特に摂取してほしい栄養素です。
ビタミンDは、カルシウムの吸収を助け骨や歯を強くしたり、自然免疫を強化したりする働きがあり、サンマ・きくらげ・しいたけなどに多く含まれています。

➤ミネラル

亜鉛は、細胞分裂に必要不可欠な栄養素で怪我や傷からの回復力を高める働きがあり、魚介類(特に牡蠣)・赤身の肉に多く含まれています。

また、女性ホルモンの合成や分泌にも関わっており、月経前症候群を緩和する働きもあります。

マグネシウムはカルシウムと共に、神経と筋肉を収縮・弛緩させて頭痛や便秘の改善に役立ち、魚介類・海藻・ナッツ・バナナなどに多く含まれています。

鉄は、活動に必要な酸素を全身に運搬する働きがあり、豚肉・牛肉・レバー・ほうれん草・ひじきなどに多く含まれています。

カロリーの高い油は摂取してはいけないのか

油、脂質と聞くと体に悪いものというイメージがあるかもしれません。

しかし、脂質が不足すると筋膜炎などの健康障害が現れます。

脂質はエネルギーを効率良く摂取できるため、活動量が多いアスリートはエネルギー不足にならないためにも脂質を有効活用する必要があります。

また、油は髪・爪・肌に良い影響を与えるので女性にとっては美容面にも良く、油を全く取らないオイルカットはNGです。

減量期やダイエット中の場合は、良い油を選択したり調理に使用する油を控えたりするようにしましょう。

良い油とは、オリーブオイル・ごま油・えごま油・魚由来の油などです。

魚に含まれるDHAやEPAには女性ホルモンを整える働きや、便秘の予防・改善効果もあります。

一方、ファストフードなどで使われているトランス脂肪酸という人工的な合成油は動脈硬化や心臓疾患のリスクが懸念されます。

ファストフードの他には、マーガリンを多く使ったパンやお菓子にもトランス脂肪酸が多く含まれており、これらの食品はなるべく避ける方が良いでしょう。

終わりに

アスリートは運動で身体や技術を鍛えることだけが大事なのではなく、食事も良いパフォーマンスにとって必要なトレーニングです。

女性アスリートの三主徴は、選手生命にも大きな影響を及ぼす兆候であり、適切な栄養管理から予防することが重要です。

食事制限によって体重が落ちることで一時的にパフォーマンスが良くなることもありますが、慢性的なエネルギー不足は肉体的・精神的な負担が大きいため故障にも繋がりやすく、長く競技生活を続けていく上で適していません。

減量のための行き過ぎた食事制限や過度なトレーニングは控えて、食事量とトレーニング量のバランスを取るように心掛けましょう。

参考文献
1.    「女性アスリートのためのe-learning」 女性スポーツ研究センター


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