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釣り人イナトス:オリジン

 大学進学とともに徳島から大阪へ移住して5〜6年経った社会人2年目のいま。あまりの自分の不甲斐なさと釣りの難しさに、思わずこんなノートを書き始めてしまっている。

 就職を機に東大阪から福島区へ引っ越し、去年の夏に友達と近くの川(淀川)で初のチニングとやらに挑戦し、悪魔的ビギナーズラックで40cmくらいのキビレを釣り上げてしまった日から、俺の苦難は始まった。犬が全速力で走り抜けてるのかと錯覚するほどの強い引きと、それをねじ伏せて釣り上げることができた事実、キビレの顔面の迫力、釣り上げてなおビチビチ暴れる魚の生命力が、竿を通して手のひらに伝わる。その瞬間の全ての要素が俺の感じたことのない脳みそのどっかちっちゃい部分から、ありえないほどの高揚と快感を吹き出させた。それと同時に、こんなことを思ってしまった。
「魚ってこんな簡単に釣れるんかい!!」
今まで全く釣りをして来なかったかというとそうでもないのだが、俺の中の釣りといえばテトラポッドの隙間にサバの切り身をつけた糸を垂らしてカサゴが食ってくるのを待つだけのシンプルなものだった。そんな俺でも、でかいキビレをフッキングやら仕掛けやら何も考えずに釣り上げてしまったことが、釣りって簡単やんけという思考に至らせてしまったのだ。

 昔、釣り好きの友達がこんなことを呟いていた。
「魚が釣れた瞬間はSEXの100倍気持ちいい」
嘘だと思っていた。まさにその通りだった。こんな簡単にあんな快感を味わえるのならばと、その日からすっかり釣りにハマってしまった。形から入るタイプの俺は、色んなギアを少しずつ買い集め、週末になると一人で淀川へ釣りをしに行った。
そして9ヶ月が経った。なんと、釣りにハマったあの日以来、まだ1匹も魚を釣れていないのである。一体どういうことなのだ。今よりも明らかに無知で技術もないあの初日の俺がでかいキビレを釣り上げ、9ヶ月試行錯誤した今の俺が全く釣れていないのはどういうことなのだ。「シーズンが終わったから魚の食いつきが渋いだけ」なんて言葉は何度も自分に言い聞かせた。たが"9ヶ月ボウズ"という嘘のような現実が俺の前に立ちはだかっている。9ヶ月間アタリのただ一つさえないのだ。どんな言い訳をしても説明がつかない不運か、センスの無さか?もう辞めた方がいいんじゃないか?金が減っていくだけじゃないか。Youtubeで釣り動画もたくさん見てきた。それでも根本的にやり方を間違えているのか?いや、現に何のやり方も知らなかった初日に俺は釣れたじゃないか。どんなに悩み、何度釣りを辞めようとしても、初めに釣れてしまったという事実が俺を縛り続けている。

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