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鈴木貴男選手インタビュー③ 「鈴木貴男にとってサーブとは? ボレーとは? ストロークとは?足を動かすとは?」

この記事は鈴木貴男選手へのロングインタビューの第3弾です。


稲本 鈴木選手にとってずばりサーブとは?と聞かれるとどういう風に答えますか?

鈴木プロ そうですね。試合をする上では一番最初に打てるショットですので、ほんとに重要なのは、みんなも認識してると思います。フォームづくりだったり、グリップだったりとか、テクニックはもちろん必要なんですけど、結局は自分のゲームスタイルを作る上でどういうサーブを打ちたいの?とか、どういうサービスゲームをして1ゲームないし1セットゲームを試合で勝ち切りたいの?っていうことの明確さがやっぱり欲しいと思います。そこを忘れてこう打てばいいとか、ここに入ればいいとか、こう回転かければいいみたいな、そういうのがちょっと際立ちすぎると本質からちょっとずれちゃうのかなあっていうのは思いますね。

稲本 なるほど。例えば、鈴木選手だとファーストサーブはもうしっかり攻撃的に行って、デュースサイドとかだったらどこを狙ってどう打って、その次のボレーぐらいまではもうイメージを完全につくってるっていう感じなんですか?

鈴木プロ 僕が思うに一番重要なのが、何ゲーム目でもいいんですけど、ゲームの一番最初に打つサーブのコースです。単純に言ったらセンター、ボディー、ワイドってもうこの3つ以外ほぼないです。まあボディーでちょっとフォア気味、バック気味っていうのはあったとしても、この3つの中から1つをまず選ばなきゃいけない。で、それに次がどういう回転で打つか、どの球種にするかっていうことを決めなければいけない。で、それに伴って、じゃあスピードをどれぐらいにしようか、いわゆる加減ですよね。自分の打つ加減もそうだけども、飛ばすボールのスピードをどうしようかっていうところが一番重要だと思います。その入り方によって、次のポイントをどうするかが決まります。そうするとデータがちょっと入ってきて、3ポイント目4ポイント目でどうするかって。で、ゲームが進めば進むほどそのデータがすごく多いので、そこで駆け引きをしていきますね。うまくいってることを続ける場合もあれば、これもう多分この感じだと最後までうまくいくであろうから、変にうまくいってることを続けるよりもちょっと相手にえさ撒きじゃないですけど、ちょっとワイドも打てるよとか、ちょっとこういう球種もあるよとか、サーブ&ボレーできるよとか。ちょっとそういう相手を惑わすではないですけども、少しでも的を絞らせないようにする。僕の考えは5-3か5-4、もしくは6-5、タイブレークのところにいったときに、リターン側が、最後相手がどこ打ってくるんだろうなっていうぐらいちょっと迷ってほしいんですよね。そのために1ポイント目をどう入るかっていうことなので、ちょっと野球のバッターとピッチャーの関係の1球目何で入るっていうのに似てると思います。

稲本 もうちょっと具体的に聞きたいんですけど、例えば本村剛一さんと対戦したときとかって、どういう感じでイメージするんですか? いきなりセンタードーンって行こうとか……。

鈴木プロ 誰とやるんだとしても、まず僕の中では可能な限り強気な選択をすること。選択っていうのは、例えばセンター行きたい、いやワイドもいいな、いやでもボディーも意外と効くなあなんて、絶対迷う部分があるので。そこでオッケー、じゃあたとえ相手が読んでたとしても自分で強気で行ける選択を、強気で行けるような選択を可能な限り最初のほうにずっとやり続けたい。それじゃないと、もう最初からなんか相手のことばっかり考えてあそこ打たれたらこうだなとか、ここ打たれらたらこうだななんて考えてると、永遠と打つ場所決まらない。結局弱気で行ったところでポイントを取られると、確率の悪い選択(強気の選択というかちょっと無謀に近い)を最終的にさせられてしまうので、もう強気の選択をするようにしています。よしもうセンターいく、でもワイド行きたいなと思ったら、オッケーセンターで行こう。で、リターンエース取られたとしても、意外とリターンエース取られた所を連続で行きますね。

稲本 逃げないんですね。

鈴木プロ 逃げないです。例えば本村さんとやってて、1ポイント目ワイドサーブ打って、すごいリターンがクロスに返されたってなったら、もう3ポイント目は確実にもう1回そこ行きますね。もう一発やって、もう一発待ってたら、それはもう相手のほうがよっぽどそのゲームの中では読みがいいのと……。

稲本 なるほど。それって他の選手はどうなんだろう。 鈴木さんはコーチ業とかもしてていろんな選手と触れ合ってると思うんですけど、やっぱりサーブ&ボレーヤー的な考えなんですかね? ストローカーとかもそうやって強気に持っていくもんなんですか?

鈴木プロ まあ、僕は絶対弱気になるんですよ。もういくらタイブレークが好きだからって言ったって、タイブレーク行ったらやっぱり1ポイントの重みっていうのはすごいから弱気になりやすい。弱気になることをある意味想定しているというか、弱気になったときに少しでも自分の得意なサーブ、僕の場合はやっぱり一番の大きな武器としてサーブを考えていたので、やっぱりそこで弱気になるとボレーももう置きにいくんですよ。置きにいった後のサーブ&ボレーっていうのはもう完全に置きにいったボレーになって、パッシングショットが優位になる。もしくはステイバックしてもアプローチも弱気になるし、ストロークも弱気になるし……。だったらもうダブルフォルトしていいとは言わないけど、自分が一番信頼しているサーブでやっぱり勝負すること。だからイタリア人のコーチにはずっと、良いサーブ持ってんだからサーブを使えって言われましたね。持ってるものは使えと。相手が幾らいいリターナーだからっていって、自分の持ち味であるものを怖がる必要はないというか。

稲本 なるほど。

鈴木プロ やっぱりすごい駆け引きのシビアな世界なので、その試合だけを勝つことだけじゃなくてやっぱりプロとして生き残っていくことを考えると、ストローカーだろうがサーブ&ボレーだろうがなんだろうが、やっぱり得意なものを強気でいけるって、自分が信じれるものを出す練習をしとかなきゃいけないですよね。

稲本 なるほど。

鈴木プロ 日本人って意外と相手の裏をかくことが好きで、相手がこうしてきたからとか、別にせこいわけじゃないしずるいわけじゃないけど、そういう考えって僕もやっぱりどっかで持ってると思ってるので、そういう思いがやっぱり出てきちゃう可能性があるから、それを極力ださないように工夫していました。後手後手になると良くないって思ってるんですよ。後手に回ったところで、やっぱり海外の選手は、パワーがあってスピードがあって威圧感でプレーしてくる選手が多いからそこに対して、オッケーじゃあ相手のサーブをじっくり返してゆっくりスライスでやってなんて言ってる間にエース取られちゃうわけだから(笑) だったらもう真っ向勝負でガチンコで当たって、逆にそこで相手に対して、えっこんなアジア人のおっきくないやつがこんな俺に真っ向勝負してくるの?って思わせることのほうが僕は大事かなと。

稲本 そのリターンエース取られた所にもう一度持っていくっていうのはなかなか聞けない話だなって感じですね。

鈴木プロ いろんな選手がいるので正解はないですが、もうリターンエース取られた所は行かないとか(笑) でもそんなこと言ってると、僕のプレースタイル上、前に行ってるわけだから、サービスエースも取れる反面リターンエースもやっぱりサイドにいいリターン来たら取れないですから。だからそういうことを考えると、PK戦みたいなところもあるし、しっかりと勝負していくしかないです。

稲本 僕はレベル全く違いますけど、僕もサーブ&ボレーを結構してたんですよ。セカンドは出れなかったんですけど、フォアハンドが僕は打てないのでサーブ&ボレーは結構使っていました。でもなんかさっきのリターンエース取られた所に持っていくとか言われると、テニスやりたくなりますね(笑)

鈴木プロ そこでなかなか僕の経験上2回連続いって2回ともリターンエースっていうのはもう9割方ないですね。相手も逆に待ってないです。自分でリターンエース取ったのにまさかもう一回ないだろうっていうのは。何ゲームか進んでから同じことはあったとしても、1ポイント挟んでもう一回っていうのはなかなかないですね。

稲本 セカンドサーブとかってどうなんですか? 同じような感じなんですか? 強気に強気にっていう……。

鈴木プロ そうですね。もうセカンドサーブこそもうやっぱりフォルトしたらポイントを失うので、それこそちょっとした感覚のずれだったり、あとは思った所よりもちょっと内側に入ってしまっていいリターンを返されるなんていうことはファーストサーブ以上にあるので。ただその分回転量をちょっと多くしてスピードは明らかにファーストサーブよりは遅くしますけど、あんまり考え方の基本はそんなに変わらないですね。

稲本 なるほど。

鈴木プロ もうダブルフォルトする覚悟はもちろんある中で、その中でどうせ僕のスタイルからいうと、そこでセカンドサーブだからってひるんでストロークしたところで、10回やって2本、3本、3分の1ぐらいしか結局取れない。それだったら、もうサーブ&ボレーで強気のセカンドサーブで行って相手と勝負してやれっていう方がいいですね。

稲本 なるほど。以前見たYouTubeの動画でピート・サンプラスのセカンドサーブのことをすごい褒めてた記憶があるんですが、やっぱりすごかったですか?

鈴木プロ そうですね。

稲本 「僕の中で一番のセカンドサーブはフェデラーじゃなくてサンプラスだ」って言ってました。やっぱりすごいんですか?

鈴木プロ もうサーブのトータルの精度から、あの2人はプレースタイルそのものがちょっと違うのであれですけど、まあサンプラスのサーブ力っていうのは断トツですね。フェデラーはストロークができるからこそのサーブであると思うし、逆にサンプラスはサーブで勝負するっていうのがすごく全面に出てるので、彼なんかもダブルファーストっぽく打ってることもすごく多かったから、実際に1回だけですけど練習する機会があって、サンプラスと言えどもセカンドサーブは、ファーストよりかは明らかに遅いんですけど、こっちに飛んでくるエネルギーっていうんですか? ボールの重さっていうのはファーストよりもある意味重かったですね。

稲本 なるほど。セカンドでもサーブダッシュしてた最後の時代の人ですよね。

鈴木プロ そうですね。大きいほうですけど決して2メーターあるわけじゃないですし、やっぱりあの強気のセカンドサーブもファーストサーブもあるからこそやっぱりいいボレーができるんだろうし、そういう考え方を持ってるからブレークポイントでも思い切って狙いにいくし、リターンゲームになれば、ゲームを読んで大事な場面では思い切ってランニングショットを打ったりだとかで取れるっていう……。結局僕の場合は、サーブの調子がどうっていうよりもサーブで強気でちゃんといけてるときのほうが明らかにストロークもアプローチもボレーも、あと動きも、あと考え方も全部いい方向に進みますね。


「鈴木貴男にとってボレーとは?」

稲本 なるほど。じゃあ、次、ボレーとはって聞かれるとどういう感じでしょうか?

鈴木プロ 好きで始めたことなので。好きなこととかっこいいなって思うことでネットプレーを始めたので、もうどんな状況になってもネットプレーは楽しいなっていう、僕の中では。前回も言ったと思うんですけど、抜かれても全然オッケーって思っています。なんで抜かれたかっていうことをきちっと自分では考えます。例えばアプローチが甘かったとかボレーが甘かった、もしくは相手がすごくいい読みをしてたとかいろんな要素がありますけど、そういうのを瞬時に考えはしますけど、決して抜かれたからもうネット行かないとかはないです。抜かれれば抜かれるほど前に行きたくなりますね。

稲本 なるほど。抜かれれば抜かれるほど、おもしろい(笑) 僕の中の鈴木貴男のイメージは、(飛びついてるところの写真がすごく多くて)よく飛びついてる感じがあるんですよね。プラス、1回僕江坂でデ杯の合宿やってる時に練習を見させてもらって、多分二十歳とかそれぐらいの頃だと思うんですけど、ボレストをしてて、鈴木さんがボレストから最後ラリーを切る感じでパチンって決めたんですけど、ワンバウンドでボールがフェンスに直撃したんですね、フォアボレーで。僕とかはそんな圧を出してボレーをしたことがなかったので、あんな強い圧でボレーしろって言ったらできるんだみたいな発見というか、感動がありました。自分にはあんな圧でボレーしていないなと気づかされました。結局僕はその後スペインに留学してやっぱり同じようなことをアドバイスされるんですね。お前のボレーだったらもう弾かれて、スペインにいたらボレーなんて1球もできないと。もう振り倒せと、練習の中ではスイングしまくれって言われたんですけど。その辺ボレーをやる上で僕はなんかああいうパワフルなスイングをするボレーってどこで身に付けたんかな?っていう。

鈴木プロ 最初に僕は松岡修造さんのネットプレーを見る機会、練習を一緒にすることが若い頃18とか19ぐらいの時に多くて、松岡さんのボレーを真似してたんですけど、やっぱりコンパクトではあるんですけど決まらない。いわゆる威力がないっていうことがだんだん分かってきて。で、やっぱりヨーロッパのクレーコート行ってるとある程度いいボレーを打っても追いつかれるじゃないですか。だからそんな経験もあって、で、岩渕聡さんと一緒にセイコー・スーパー・テニスかな? 最後の年だったんですけど、ワイルドカードでをブルスでもらって、世界のトップの選手たちとダブルスをやったり、あとはジャパンオープンでもやったりしてて、彼らがポーチに出てくる、もしくはボレーを打つときに結構スイングするんですよ、フォアボレーを。で、えっ?と思って。そういうのって僕の中では反則じゃないの?っていう(笑) なんで世界のトップがそんなことするの?っていう衝撃を受けて、で、じゃあいいじゃん、俺もやってもみたいな。で、その後ですよね、パトリック・ラフターだとか、まあティム・ヘンマンなんかもシンプルではあるけども、フォアボレーはある程度スイングをしないと逆に意味がない。バックボレーはどちらかというと、回転を多くかけたり角度をつけたりっていうテクニックの部分が僕は大きいですけど。逆にバックでスピードを出すっていうのはすごい僕は難しいので、だったらフォアボレーは、腰の高さか胸ぐらいある程度低くても厚めで当ててやっちゃえばいいじゃんって思ってやり始めましたね。よく僕のボレーなんかはスイングが大きいとか、フォロースルーが長いとかいろんな捉え方ありますけど、一般的な感覚でずっと来てたら多分やらなかったでしょうね、そういうボレーは。もうこの世界で生きる、という覚悟がそういうボレーを作っていきました。鈴木貴男だからじゃなくて、僕だって最初からそれをやったわけじゃないので、そういうシチュエーションになったりそういうことが必要だと思ったら、僕は多いにやってもいいと思うんですよね。ラフターなんてほんとにスイングしてフォアボレー打ちますし、ハイボレーなんかも上から下っていうよりも上から上っていうイメージがあるから(笑) しかも世界のトップの選手だったわけで、だったらいいじゃん、(フォアボレーはしっかりスイングして)やり続けようよっていうのでずっときてますね。

稲本 なるほど。飛びついても振っていくみたいな感じ?

鈴木プロ そうですね。逆に飛びついたからこそ振らないと自分の体勢がそんなに良くはない。良くはないけども、一瞬の力って飛びつくときって出せると思うんですね。変に固く行くと、スイングスピードがなくなって、相手が外に追い出されててただ触ってそこに落とせばいいだけだったらいいんですけど、やっぱりこうある程度スイングして、もう相手が追いついてたとしても相手が振り遅れるぐらいの威力をちょっと優先するっていうのが、僕はフォアボレーでやっぱり必要。だからそれとともに握り方もちょっと厚めにしましたからね、フォアボレーは。

稲本 日本で教えてもらうボレーっていうのと違う感覚をヨーロッパの選手は持ってますよね。もうはたき倒すじゃないけど、ローボレーだから膝曲げてスライスでとかじゃなくて、そこからでもコツンって当ててくるし。だから鈴木選手が全豪でフェデラーとやって、チップ&チャージからローボレーを決めたやつ。あの一番観客も盛り上がった。あれもローボレーでドライブボレーみたいなそんな感じですもんね。あれも結構低い所で振っていってるみたいな?

鈴木プロ そうですね。だから僕の考え方では、もちろんアンダースピンをかけるっていうことがボレーだったり、あとはスライスっていうのは必要なのは分かってるんですけど、でもなんで全部そうじゃないといけないのかという疑問を持つことは大切だと思います。それになんの疑問も持たないことが僕は良くないことだと思うんですよ。両方やってみていろいろ試した結果、いややっぱりアンダースピンのほうがいいよね、自分はって思うんだったらそれはいいんですけど

稲本 そうですよね。

鈴木プロ だったら別にフォアの低い所をちょっと持ち上げてというかうまく引っ掛けるというか、もうそっちのほうが力が入るし、厳しい所狙わなくていいから、そのほうが僕からするとリスクが低いんですよね。

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稲本 最後に、ストロークとは?って聞かれると。

鈴木プロ そうですね。僕からするとストロークは楽しいんですけど、いろんなパターンがあるし、ストロークの打つタイミングなんてのもいろいろありますから。特にクレーコートなんか行くとほんとおもしろいんですけど、なかなかしんどいですね、僕のテニスの中では(笑) でも一番多分うまくなったのがストロークじゃないですか? プロになって。

稲本 そうなんですね。

鈴木プロ 一番上達したと思います。知識的・理論的にもそうだし、別にストロークだけを練習していたわけじゃないけど、クレーコートで結構イタリアの所で磨いたというか、ストロークがある程度できればネットプレーにも行きやすくなるし、それでミスが減れば今度逆に相手が前へ出てくるんじゃないかっていうことでパッシングショットの練習なんかも結構多くやりましたね。僕のテニスの中でいうと一番プライオリティーは低いですけどね(笑)


鈴木プロ 自分のプレースタイルに合わせたストロークっていうのかな? ストローカーのストロークではないですね。完全に鈴木貴男がサーブ&ボレーしたりチップ&チャージしたりネットプレーをするためにどういうストロークを持っていたらネットに行きやすいのか考えて練習します。いわゆるアプローチをするとか、あとはボレーカットするとか、そういうところのためのストロークっていう感じですね。

稲本 単純にイメージでネットが得意な片手打ちのネットプレーヤーってバックハンドのフラットドライブは得意みたいな、ステファン・エドバーグとか? なんかそういうイメージあるんですけど、そういうのってあるんですか? バックとフォアどっちが得意だったとか。

鈴木プロ バックのほうが多分ぶれにくいのはありますね。あとやっぱりスライスの感覚がバックのほうがやっぱりいいですから、まあバックのスライスが自分の中ではストロークでは一番安定しているというか、やりたいことをやれるので、それがあっただけでもストローク戦ではちょっと粘ることができたり、何か相手にいやらしさを出させるっていうことができたから良かったですね。だからバックのスライスがなかったら多分僕はネットプレーはできなかったでしょうね。

稲本 それってやっぱり持って生まれた骨格とか感覚がやっぱり関係すると思いますか? それとも後天的なものでネットプレーが好きになったからそうなったのか。

鈴木プロ やっぱりジュニアの頃から見てたのと、やっぱり自分が最初に言った、かっこいいなって思う。やっぱりネットに出やすいのはバックのスライスで出るのが一番僕は安心するし、一番ネットプレーヤー、ネットに行くぞっていうのを表せるところなので、ジュニアの時早め、もしくはプレースタイルがかなり確立される中学生、高校生ぐらいの時にはある程度やってないと上手くなれないかもしれません。ネットプレーの所ってうまいとか下手とかセンスがあるないじゃなくて、雰囲気をつくれるかだと思うんですよ。

稲本 なるほど。

鈴木プロ ストロークしてても、ちょっとでも浅かったらネットに行きますよっていう雰囲気を出せるストローカーと、いやもうフォアで絶対決めますみたいな、浮いてきても落としてフォアで決めますみたいな雰囲気が出ると、その時点で相手はプレッシャーが一気になくなってしまうので。行くよっていうメッセージをどれだけ相手に与えられるかが大切だと思います。

稲本 なるほど。僕の例えはあれかもしれないですけど、僕はスライスが一番まだできる方なんですよ。まあレベルは全然違いますけど、スライスだけは感覚があるし、球は伸びる。スペインまで行ってフォアめっちゃ練習したのに、回転しかかかるようにならなくて、厚い当たりにならないみたいな。これって先天的な持ってる肉体とか手首とかそういうのもある程度関係するのか、どうなのかなっていう。

鈴木プロ 僕もかなりストロークのスピン系も練習はすごいしましたけど、しょせん自分が打っててすごい得意って思えない以上はどれだけ練習しても大事なときには多分あんまり効果を成さない。だから僕はもう大事なときにはネットプレーで勝負するっていうのがある意味決め手だというか、それがあったので、じゃあそれ以外のときに必要なときのためのストロークっていう考えにしてましたね。そこからなんかフォアでどんどんやってってなると、それがうまくなっちゃうと行かなくなるんですよ、前に。

稲本 なるほど。

鈴木プロ そうすると、自分の考えもまた変えなきゃいけないし、多分勝てるサーフェスが急に変わっちゃったりだとか、やっぱり割合(ネットに出る)っていうのはジュニアの頃からあんまり変わらない。クレーコートになったらちょっとは少なくなるけど、最終的にはネットで勝負したいっていうのはどのサーフェスでも僕は思ってたので。

稲本 やっぱりネットに出るためのストロークっていうことですよね。

鈴木プロ そうですね。まあネットプレイが好きなんでね。好きなとこで勝負しないとちょっと勝ってもあんまりおもしろくないというか、納得しない。

稲本 今回の話ってそこが一番みんなに僕が伝えたいなっていうところですかね。

鈴木プロ そうですね。まあ、負けてもいいとは全然言いませんけど、テニスって勝つか負けるしかないわけだから、負けたとしても自分が胸張ってコートを出られるとか、よしっ今日は相手のほうがすごかった、こういう所が良かったから仕方ないって割り切ってクラブに帰って練習するときに、前向きになれるような戦い方を試合でやんないと続けられないって思います。一回一回この人に負けたからこの練習をして、あの人に負けたからこの練習してとか、今日はバックが調子悪かったからバックを練習してなんてことをやってたら、もうそんなの続かない。じゃあ何をしたいの?あなたはっていう風になるので。僕なんかは勝っても負けてもやるべきことは結局ネットプレーでどうするかっていうところだし、ストロークやるんだったらそのネットプレーをするためにフォアどうする? 少しスピン多くかけたりだとか、タイミングを早くしてネットに出るのをちょっと身に付けるとかっていうそういった何かオプションの練習になるから、自分もやってる練習が明確だし、明確だっていうことは試合に行ってもそれをやろうとすると思うので、変に迷わないと思うんですよね。

稲本 素晴らしい。自分の好きなものっていうのを見つけていくっていうのはジュニアたちみんなにやってほしいなって僕は個人的にすごい思いましたね。

鈴木プロ そうですね。


「鈴木貴男にとって足を動かすとは?」

稲本 次、足を動かすとは?って聞かれたときの考えを聞いてみたいです。

鈴木プロ そうですね。最初から的確なフットワークを持ってて、必要最小限で動いてる、例えばフェデラーなんかもそうかもしれないけど、最初からそういうものを身に付けていたわけじゃないと思います。無駄というか、最初は細かくたくさん動かして、通らなきゃいけない道はあると思います。誰しもそんな走らないでポイント取れるなら走らないほうがいいし、5歩で行く所を3歩で行けるんだったらそのほうがいいし、ボールの所に近づいたときに無駄なステップなく打てたほうがいいんですけど。細かいステップっていうよりも、なんでミスをするとかなんでうまくいかないっていう原因を探す時に、すぐ手先に行くとか、打ち方がとかラケットの面がとかテイクバックじゃなくて、まずその距離感っていうものを大切にして欲しいと思っています。逆にあんまりボールには近づくなっていうことを言いたいんです。フットワークで近づくというよりもボールとの距離感を大切にして、あとはやっぱり相手に対して強そうな雰囲気を出そうとするかが大切だと思います。それをすることによって、よしっ動こうって思うんですよね。僕の一つの特徴として言われるのが、リターンを構えてる時に右手をブランブランさせる動きがあるんですけど。

稲本 はいはい、まねしてました(笑)

鈴木プロ あれなんかも結局、僕の中では普通のときのやり方と、ほんとに大事なときにびびって怖いし大事に行きたくなるから、ちょっといつもより大きく動かして自分で揺らすようにしていました。上半身を揺らすことによって下半身も揺れるだろうし、下半身を揺らすことによって肩が揺れて腕が揺れてっていう、ちっちゃいけど大きく見せるみたいな。それこそ古い話ですけど、ゴールキーパーで昔いたシジマールが、両手広げてPK戦のときに決めさせないぞってパフォーマンスをしてましたよね。ああいうなんかちょっとした行為、しぐさっていうのが今のジュニアなんか見てると全体的に動きが小さい気がします。フットワークにしても早く動くとかたくさん動くっていうよりも体全体から醸し出す雰囲気っていうのが大切だと思います。そう言う雰囲気作りに、足を動かすとか走るフットワークっていうところがものすごく関係してるんじゃないかなっていうのは思いますね。

稲本 相手に威圧感を見せたいとか、単に足だけを切り取って動かすっていうことの一歩奥にはもう一個何か思いがあって、それが足に乗り移ってそれが手の動きに最後つながっていくっていう感じですね。だから、足だけを動かせばいいってことじゃなくて、なぜ足を動かすの?って。闘争心がそのまま足に乗っかってきたりとかやっぱりそういうところにつながっていくっていうところですね。

鈴木プロ そうですね。ボール出しの練習とかしてるジュニアがやっぱり多いじゃないですか。じゃあコーチに対してやる気があるようにって言ったら変ですけど、どういうふうに見せられる?っていう。人のために頑張るわけじゃないけど、コーチがよしっボール出してやろう、練習するぞっていう気持ちになるためにどういう構えがいい?とか、どういうふうに動くというか、考えて欲しいです。やっぱり人間同士なのでそういう相手を巻き込むようないい巻き込み方をするにはどうしたらいいの?っていうことじゃないかなと思うんですよね。


編集後記

今回はサーブ哲学とボレー哲学、フットワーク哲学を聞いてみようと、サーブとは?ボレーとは?足を動かすとは?という質問の仕方にしてみました。とても興味深い話が聞けました。

サーブとは?

その試合だけを勝つことだけじゃなくてやっぱりプロとして生き残っていくことを考えると、(中略)やっぱり得意なものを強気でいけるって、自分が信じれるものを出す練習をしとかなきゃいけない。

中でもこの言葉は、重みを感じました。「自分が信じれるものを出す練習」という言葉を僕は使ったことがなかったし、自分が信じれるものを作ればそれで良いと思っていました。

横から見ていれば同じように見えるサーブ練習でも、その人が持つ哲学によって全然違うものになるんだということがわかりました。単に強気という言葉だけでは、語りきれない、奥深さを感じました。皆さんもサーブという言葉を自分の得意ショットに当てはめると学びが深まると思います。


そしてボレーとは?

ネットプレーの所ってうまいとか下手とかセンスがあるないじゃなくて、雰囲気をつくれるかだと思うんですよ。

この言葉が最も印象に残っています。ボレーってどうしても、タッチ的なセンスだったり、予測の部分だったりが重要だと思うのですが、さらにそれを深堀する雰囲気というワードが出てきました。

ネットに出るということ自体、相手にプレッシャーをかけてポイントにつなげるという意味合いが強い。だからこそこの雰囲気を作ることが大切になってくるということです。こういう抽象度が高い言葉を、鈴木選手が使うと想像力をかき立てられます。

どうやって雰囲気作りをするのか?一度時間を作って考えてみるのも良いですね。

そして足を動かすとは?

ジュニア選手がよく言われる足を動かすということについて。

・最初は無駄なフットワークも必要
・距離感を大切にして、原因を手先ばかりに求めない
・雰囲気作りを大切にする

テニスは足ニスと古くから言われますが、鈴木選手レベルになると動いて当たり前。その中で、このような哲学を聞かせていただけたのは貴重でした。ネットプレイ同様に雰囲気を出すというのは、なかなか聞けない話ですね。

第4弾!公開されました。


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