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春のクリュフ 3話

人は、興味を持った時、身を乗り出すもんじゃなかったかな。シドは頭を掻き、緑の目をしばたたかせる。癖のある砂色の髪が跳ね上がった。
「僕は金が無いんで、歩いて行きますが、構いませんか?」
「私が馬車を雇いましょう。まだ宿の前に何台かいるはずだ」
 ハスカの佇まいは、どうもこの安宿の雰囲気に似つかわしくない。清潔で食事も美味しい宿ではあるが、ハスカなら町のホテルを選びそうだった。ハスカはおかみさんを呼び、馬車について尋ねている。
「お客さん、町に行かれるのね。さっき馴染みの馭者に聞いたんだけど、事件があったそうですよ。ワーズワースっていうこの辺の有力者がいるんだけど、今朝、死んでいるのが見つかったって……。殺されたんじゃないかって話ですよ」
「大変だ」
 ハスカは、大して大変でもなさそうに肩をすくめた。シドは鼓動が速くなっていく。
「馬車はいつでも出られるそうだ。スノーフレイク、もう食べ終わったね。すぐに出かけられるか?」
「ああ。五分もあれば」
 シドはおかみさんに朝食のお礼を言い、階段を駆け上がった。

田舎の朝の空気は澄み、肌にきりりと心地よい。天気は薄曇りだった。
「先にワーズワース邸に行っても? 孤児院は後回しにして」
 馬車に揺られながら、シドは向かいに座るハスカを見る。
「むろん。実は、私の今回の取引相手はワーズワースだった。約束の時間には早いが、死んだ相手は気にしないだろう」
「えっ、そうだったのか。それは……」
 馬車が大きく揺れ、シドは舌を噛みそうになる。
「面識はない。手紙で仕事のやり取りをしただけだ。驚いてはいるが、個人的な感傷は湧かないな」
 驚いているようにも見えず、鷹揚さがどうも納得いかないものの、シドは水を向けてみる。
「ハスカ、君と、ワーズワースさんの取引について、聞いてもいいかい?」
 ハスカの視線が、鋭くシドを射る。
「ええと……差し支えなければ、だけど……」
 ハスカは視線を緩めた。
「気が弱いんだな。それで新聞記者が勤まるのか」
「強面は僕のやり方じゃないだけだ。ほら、記者の仕事に興味があるんだろう? 今君は、取材を申し込まれてるんじゃないか」
「分かったよ」
 ハスカはポケットから、何か欠けらを取り出した。海を絞ったような、深い青をした石だった。
「あ……!」
 ハスカは頷く。
「孤児院に、同じものがあるはずだ」







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