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語源あそび3:"nice concert"は「神経質な論争」?

言葉は生きている。昔からある言葉の中には、今の意味からは想像もつかないような成り立ちを持つものがある。

"nice"は典型例で、英語の辞書を開いたことのある人ならば知っている人も多いかと思うが、これはもともと「無知」という意味の言葉であった。ラテン語の"nescius"がそれで、"-scius"の部分は「知、科学」を意味する"science"と語根が同じで「知る」という意味である。それに否定の接頭辞がついて、「知らない」というのが元々の意味であった。
意味の遷移は以下の通りである。
無知

無能、臆病

神経質、口うるさい

繊細、華奢

精密、注意深い

楽しい、快い

思いやりのある、親切な

…順を追って見ていけば分からなくもないが最初の意味から変わりすぎではないか?

しかし意味ががらりと変わってしまった語は、先述の通り一つではない。実のところその数はきわめて多い。意味の変化の度合いを定量的に表すことが難しいので数を数えることはできないが、語源に遊んでいると、むしろ最初からその意味だった、という語は少数派であるように感じられる。

"concert"もまた意味が反転した上でスライドしている。
元は「激しく言い争う」という意味のラテン語の"concertare"から来ている。これがイタリア語で「合意を形成する」という意味になり、のちに「調和、コンサート」に転じた。


いかがだろうか。長い時間をかけて変容してきたわけであるが、正直、下手な伝言ゲームのように思われる。しかしこれこそが言葉の意味の発展ということに他ならない。伝言ゲームの間違い侮るなかれ。

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