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森を見ながら眠る

2022、12、9

先日の雪の朝、わがままが湧いた。
寝たまま、大きな方の窓から雪景色が見たい。

幼い頃から、わがままや欲求は湧いたそばからふさいできた。
親が私にそうしたのを手本に、あまりに忠実にそうしてきた。

わがまま歓迎という夫の言葉を試しに信じ、思い切って伝えた。
彼はいいよと言ってむくりと起き、重い畳ベッドを窓際に動かし
また眠りについた。

わがままを言い、いいよと言われる人生にいる。別世界だ。
しかも、寝ながら見る雪の森だ。

ベッドが動いて、思わぬ副産物があった。
頭の側に本棚があり、起きてすぐに、本を物色できるのだ。

今朝、家守綺譚の続編、「冬虫夏草」を見つけて驚いた。
昨日注文するところだった。
滅多に本を買わぬ私、どこで買ったかもらったか
風が運んで置いてくれたのか。
早速、布団の中で読む。
単行本にはなかった、解説がある。

森は自然の生き物たちが暮らす世界であり、村人が利用させてもらう世界であり、同時に山の神が守っている世界である。
…山は神仏の世界でもあり、先祖が暮らす場所でもあって、それらが生みだす立体曼荼羅の世界に守られて自分たちが暮らす世界も展開している。
…だが近代以降の時代は、私たちにみえる世界を科学的に承認されたものや実証的に論じられるものだけに閉じ込めた。
…それらのことは、私たちからいろいろなものを消失させた。かつての人々からはみえていた世界がみえなくなったのである。
内山節(哲学者)

「目にみえないもの=ない」という前提で進む近代社会で
それらを道標にする私のような人間が道に迷うのは道理。
昔話やファンタジーに逃げ込んで一時、力を得るが
また道に迷って逃げるの繰り返し。

ベッドどころではない。
店をしていた彼女が旅に住み始めたように
「こちら側」にそっくり、心の在り処を移す。
手袋を買いに行くなど、必要な時だけ現代人に化ける。

時々来ていた大好きな隠れ家が今、住まいである。別世界だ。
しかも、このわがままな引っ越しに夫も同行すると言う。
化ける機会は私よりだいぶ多そうだけれど。


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