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趣味は「映画と読書と音楽」と言っても良いですか? vol.061 映画 新藤兼人「午後の遺言状」

こんにちは、カメラマンの稲垣です。

今日は映画 新藤兼人さんの「午後の遺言状」(1995年/日)についてです。

名作ですが、どうも自分とは合わないと避けてきた作品。

テレビ放送されていたので観てみたら、意外に面白く、印象に残る作品でした。

リアリティからかけ離れた、演劇風な独特のリズム、

こんなにベテラン監督、ベテラン女優なのに、普通の作品ではなく荒っぽいというか新藤節というか。

流石「裸の島」の監督。

映像重視ではなく独特な間合いの会話劇。

妙に心に残ります。

内容も不思議ではないですが、普通の物語ではなく、老いた人たちの周りでいろいろな出来事が淡々と起きていく。

死や生や老いをすごく考えさせられる。

95年の作品だが、より今老いた方が多い時代だからこそ、この作品のテーマは古びていない。



物語は、毎年夏になると蓼科の別荘へ来る演劇の大ベテラン女優。

その別荘の管理と世話をもう30年ほどしている同じ年齢の老いた女性。

その2人のところへ認知症になった後輩の女優とその夫が遊びに来る。

4人で過ごす夏。

別荘の庭の手入れをしている老人が自殺したり、強盗が来たり、昔女優の夫と管理をしている女性の不倫の告白、その子供の結婚式など。

次々と色々な出来事が起こる。

まさに生と死について考えさせられることばかり。

認知症の後輩の女優とその夫は別荘で2、3日一緒に過ごし、

帰ってしまった。

あるルポライターからその認知症の2人は別荘で別れた後、海へ入水自殺をしたと聞かされる。

女優と管理人は心中した後輩の足跡を案内してもらう。



こうやって結構文字で物語を書くと重そうに思えるけど、見ていると淡々と時にはユーモラスに描かれている。

老いや死を、この様に”普通”に描いていくのは流石ベテラン監督ならではの手腕だと思います。

映像を美しく、ドラマチックに作ったらそれはわかりやすい作品になったでしょうが、そこはこのなんとも言えない”歯応え”だからこそ、考えさせられて印象に残るのでは。

名女優杉村春子と乙羽信子の掛け合いがなんとも良い味わいで、まるで小津安二郎の切り返しの様。

ずっと会話を聞いていたいほど。

そして後半の認知症の夫婦が心中するまでを、夫婦の映像と、ルポライターに案内されて女優と管理人がその足跡を辿っていくのを克明に描いていく演出は素晴らしい。

最後の海の赤い風船なんだかフェリーニの映画のように思えました。

自殺した庭師が自分の棺を大きな石で釘を打ってくれと、残した石もすごく存在感がある。

管理人の娘の結婚式前の儀式がもう性的で、ものすごい若い生のエネルギーを感じる。

強盗の汚い食べ方も。

この映画、映像派でもなくオシャレでもなく、どちらかというとキネ旬や岩波ホールでかかりそうな、伝統的な日本の独立系の映画芸術という雰囲気だが、

こう思い返すと、映画的瞬間に溢れた作品で、結構好みだったかもしれません。

自分とは合わないなんて、今まで観てこなかったことを少し後悔しました。

きのうも明日もないわ。今日をしっかり生きるだけ。
/杉村春子(新劇の女優)




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