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趣味は「映画と読書と音楽」と言っても良いですか? vol.218 読書 宮部みゆき「魔術はささやく 」

こんにちは、カメラマンの稲垣です。

今日は読書 宮部みゆきさんの「魔術はささやく 」についてです。


大ファンである宮部みゆきさんの初期の作品。

宮部作品はかなりハマりましてもう64冊読んでいる。ミステリーも時代小説も。

もう日本を代表するミステリーや時代小説のクイーンと言っても過言ではないでしょう。

シリーズものは読んでいるので、新刊が出たら読みますし、残りはファンタジーと短編集と初期の作品。

今作は宮部みゆきさんの初期、長編2作目。

もう30年ほど前の作品

けどネタや出てくる機械は古いが、まあ昭和の終わり平成の初め辺りのお話その時代を描いていると思えば今読んでも問題なく、お話は今でも十分面白い。

もう宮部みゆきさんは最初から”宮部みゆき”だったんですね。

まあトリック、犯罪者が人を殺した方法は今の時代ではちょっとありきたりというかもう使われないので、ここら辺は難しい。

特に現代ものだと、その時代では新しいことがすぐに古くなってしまう。

先日サスペンスの帝王であるジェフリー・ディーバーが昔書いたインターネット犯罪の話だが、あの帝王が書いたものでも、やはりそのお時代のネタを使うと古びてしまう。

現代ものはそこら辺の加減が難しいかもしれません。

今アガサクリスティを読んでももちろんストーリーは面白いですが、汽車や船で旅したりちょっと時代が古く、まあ古典を読むというモードにしないと純粋に楽しめないですね。

今回の宮部さんの作品も昭和の終わり頃、平成の最初の時代の”古典”として頭を切り替えて読む方が良いかもしれません。



物語は、ある女性の自殺が連続して起こった。一人はマンションの屋上から飛び降りた。二人目は地下鉄に飛び込んだ。三人目はタクシーの目の前に飛び込んだ。

全く接点のない三人の死。

その事故を起こして逮捕されたタクシーの運転手の甥が主人公。

主人公は両親を亡くし、タクシー運転手をしている叔父の一家に居候をしている。

叔父の事故の真相を探るために、主人公の青年は動き出す。

彼は若く哀しい人生を送っている。父親は会社のお金を横領してそれを苦に自殺し、母親は病死。学校の生徒からは父親が横領したのでいじめられている。

父親も横領し、叔父まで人を轢き殺したとなると、大変なことが主人公の背中に負ってくる。

そこへ叔父の事故の目撃者が現れる。

叔父は釈放され、その目撃者の男の世話になる。

鍵師の祖父から鍵を開ける技術を教えてもらっているので、それを使い少しづつ自殺した女性たちを調べていくと、四人目の犠牲者になるかもという女性が浮かび上がる。

果たして主人公は女性たちの死の真相に辿り着けるのか。



まあその犯罪方法はネタバレになるので書けませんが、

この小説の本当のメインのところは、連続自殺の原因は犯罪者を見つけるだけでなく、

”許し”がテーマ。

キリスト教的なテーマを持ってくるとはさすが宮部さん。単なるエンターテイメント作家ではございません。

主人公は最後に犯罪者を罰せられる立場になります。
それも父親の死と関係する犯人を。

そんなとき主人公はどうするのか。

まあ宮部さんだからこそ、どんなにすごい犯罪、人間の醜さを描きながら、やはり最後の最後は、良き人であろうとするところに共感します。

”許すこと”、復讐は復讐しか産みません。ただよっぽどできた人間じゃないと許せないと思うので、この青年は達観し過ぎていますw

自分もその立場だったら許せるでしょうか。



スティーヴ・ハミルトンの解錠師という小説がありましたが、鍵を開ける技術は
今作でも主人公のアイデンティティになっていますね。

単なる普通の青年でも、この技術が話を面白くし、また主人公の心を強くしていると思います。

祖父が主人公に言った台詞が良かったです。
「守、鍵というものはな、ほかでもない、人の心を守るものなんだよ」

今日はここまで。




「じいちゃんが思うに、人間てやつには二種類あってな。一つは、できることでも、そうしたくないと思ったらしない人間。もう一つは、できないことでも、したいと思ったらなんとしてでもやりとげてしまう人間。どっちがよくて、どっちが悪いとは決められない。悪いのは、自分の意思でやったりやらなかったりしたことに、言い訳を見つけることだ」
/「魔術はささやく」より