おかあさん

わたしをゆすって起こすのは 誰
もう少し 寝かせて おかあさん
ずうっと一緒に 夢の中で 眠っていようよ

どうして ぼくのことを 抱きしめるの
どうして 人は ちゅうを するの

ちゅうのしかた おかあさんから おそわった

ぼくは お母さんの ちゅうを 娘に 教えた

娘は 僕の髭なんて気にもせず
小さな唇を できるだけ大きくとがらせて
ぼくに ちゅうをした

なんの味も なんの匂いもしない
透きとおった ちゅうだった

おかあさん
遠くにいったのは あなたではない

ぼくが 遠く遠く ここまで来たんだ
西から吹く風に 運ばれて

残酷すぎるほどに 時はゆっくりと流れ
僕の腹を膨らまし 抉り取った
髪が抜け落ち 爪が割れた
脚は重く 腕は痩せた

また西から風が吹いたら

お母さんは 僕のところに運ばれてくるだろうか

そしたら
もういちど 透明なキスをする
小さくなった おかあさんを抱きしめて

おかあさん

まだ朝焼けもみえないよ
鴉も鳴かないよ

あと少しだけ 暗闇のなかで

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