台風19号で被災した話②

 眠れない夜を過ごし、翌朝目が覚めると5時だった。2時間くらいしか眠れなかった。彼氏はまだスヤスヤ寝ていたので、そっと腕から抜け出し、彼氏が蹴飛ばしていた毛布を掛け直してiPhoneを充電できる場所を探した。充電しながらふと窓から外を見ると、昨日の雨が嘘だったんじゃないかと思うくらい快晴だった。


 Twitterで検索して地域の被害状況を調べながら、これからについて考えた。昨日の雨の様子からして私の住んでいるマンションは被害は免れないだろう。私はどこに帰ればいいのだろう。住まいをなくして、20歳そこそこの自立していない学生にできることはない。不安でどうしようもなかった。―胃が痛い。そのままうずくまって動けないでいると、彼氏が私の所へ来た。起きたら私が隣にいなかったので探してくれたらしい。私の様子を見て、「家の様子見てくるから鍵貸して」と言った。彼氏を巻き込む訳にはいかないと思い、「私が行く」と言ったが、彼氏は頑なに自分が行くと主張した。「危ないかもしれないから○○に行かせたくない。ここに居て荷物見てて」といつになく真剣な顔で言われたので甘えることにした。


彼氏の帰りを待ちながらボーっと座っていると、避難所に居た人たちがどんどん帰宅していった。市の職員の方から私の住んでいる地域は危ないのでまだ帰宅しないでほしいと放送が入った。被害状況を確認していると―。彼氏は大丈夫なのか不安になった。


 彼氏が戻って来ると、言いにくそうに家の状態を教えてくれた。マンションのエントランスの水は引いていたが、鍵を閉めたままドアを開けようとすると水が中から出てきたらしい。「部屋の様子も写真に撮って来たけど見る?ショックかもしれないけど」と言われたので覚悟を決めて見ることにした。それは見るに無残な様子だった。玄関にはたくさん本が置いてあったのだが、それが大量の水に浮かんだのか押し出されたかで玄関に散らばっていた。靴もバラバラの状態で散乱していて、足の踏み場がないくらいだった。中はまだ水が引いていなくて、くるぶしまで浸るくらいあった。―ショックだった。私の帰る場所が本当になくなってしまった。何も考えられず、ただただ泣くことしかできなかった。


 泣き崩れる私を彼氏は抱きしめてくれて、「大丈夫だよ。大丈夫。俺がいる」と声をかけてくれていた。しばらくすると職員の方から放送が入って、現時点で分かっている被害状況を一階のホワイトボードに書いてあること、近隣のお店からパンの差し入れがあると教えてくれた。その時には私は大分落ち着いていたので、遠方に住む両親に知らせようと電話をかけた。


母が電話に出てくれたが、私がどうすればいいのか聞いても分からない様子だったので父に代わってもらった。父は寝ていたようだが、私の住んでいたマンションが床上浸水したと分かると飛び起きて電話に出てくれた。彼氏が撮って来てくれた部屋の様子を送って確認してもらった。父は管理会社に取り敢えず連絡することを私に指示した。そして今日私の所に来ても何もできることはないから数日中に来ること、避難所で待機しているようと私に告げて電話を切った。


父に指示された通り管理会社に電話をかけると、部屋の状態を確認したいので担当の者をこちらへ手配するとのことだった。他にも被害が報告されているため、到着はいつになるのか分からないと言われた。今日私はどうすればいいのだろう。気づけば避難所にいた人たちはそれぞれの自宅に帰っていて、避難所にいたのは十数人ほどだった。帰る場所があっていいなと羨ましく思っていたら、被害状況が一回のホワイトボードに書いてあることを思い出して確認しに行った。



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