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~Life is a journey~四国編~⑦リアル『田舎に泊まろう』 志藤さんファミリー


仙人と過ごした和歌山県を出発した僕は、淡路島を経由し四国に入った。

徳島県にも有名なサーフポイントはいくつかあるが、
僕は気の向くままに高知県までキャンピングバスを走らせた。

直観といったら聞こえはいいが、【なんとなく】という感覚を頼りにして進む。
旅をしていると《この感性》が磨かれていく気がする。


高知県に入り、海沿いの県道を走っていると数人のサーファーの姿がみえた。

空地のような駐車スペースがあったので、僕は立ち寄ることに決めた。
尾崎というポイントだった。

まわりは山に囲まれていて、近くには数件の民宿と一件のよろずや商店しかないような場所だ。

いつものように、邪魔にならない隅のほうへバスを停めた。

外へ出ると近くにいた家族連れのサーファーに挨拶をした。

これが志藤さんとの出会いだった。

志藤さんは四十代後半くらい、香川県出身で、今は結婚し高知県に住んでいるという。
奥さんと二人の子供がいるとても家族思いの温かい人だ。

この時は一緒に海に入り、譲り合いながらサーフィンをした程度で、先に上がった志藤さんは、ビーチから手を振り【帰る合図】を送ってくれた。

僕も海の中から大きく手を振り、お辞儀をして別れた。


尾崎のポイントが気に入った僕は、そのまま留まり、波がある日はサーフィンをし、波がない日は素潜りをして過ごした。
毎日通っていた“よろずや商店”のお母さんとも顔見知りになっていた。


一週間後、尾崎でのサーフィンライフを満喫した僕は、海沿いを西へと向かった。

数時間走り、大きな橋に差し掛かったとき、またも数名のサーファーを発見した。
橋を渡り切ったところに海と隣接している道の駅があったので、そこで休憩することにした。

高知県を流れる一級河川である仁淀川。
その河口にあるサーフポイントには、道の駅もあるせいか、複数のサーファーや観光客らしい人で溢れていた。

僕は道の駅で軽い食事をとり、バスに戻ってくつろいでいた。

そのときバスがノックされる。

四国に友達はいない。

仙台のアタルさんから『キャンピングカーは意外と警察から職務質問をされるぞ。』と言われたことを思い出す。

僕は捕まるようなことはしていないが、一応車内の持ち物を確認してからドアを開けた。

するとそこには、志藤さんが立っていた。

『やっぱり稲さんだ。また会えてうれしいよ。あれからずっと考えていたんだ。また稲さんに会いたいな~ってね』

そう言ってくれた志藤さんは、このポイントにもよく来るらしく、今日は仕事の合間に波チェックに来たという。
どっぷりなサーフィン熱に感心した。

『稲さん、しばらくこっちにいるなら飲みに行こうよ。ぜひ高知県のカツオを食べさせたいからさ。』

志藤さんは、そういうと道の駅のすぐ裏にある丘台の第二駐車場を教えてくれた。

『ここは普段使われてなくて、誰も来ないから停めて置けるよ。』

そう教えてくれた志藤さんと連絡先を交換して別れた。

その日から志藤さんは、毎日のように僕のバスへ顔をだしてくれた。

おいしいカツオがあるお店にも連れって頂き、
珍しく高知県に雪が降った日には、自宅へ招待され、泊めてまで頂いた。

昔TV で放送されていた『田舎に泊まろう』リアル版だ。

志藤さん宅に着くや、子供たちが次々に自慢のおもちゃを出してきた。

カードゲームにミニチュアの機関車、何たらレンジャーの仮面を被って追い回される。

クマジは【きびだんご】をもらったごとく吠え叫び、子供たちを援護した。

いつの時代も子供の遊びは変わらず、来客の大人は悪役に徹するものだ。

ひと通りのおもちゃを披露し、満足した子供たちと僕は一緒にお風呂に入り、奥さんの手料理を頂いた。
子供が寝てからは、大人だけの宴(うたげ)が深夜まで続いた。


『志藤さんと奥さんの馴初めを聞かせてくださいよ。』

カップルがいる飲み会では定番の話題を僕が切り出す。

すると、
『結構面白いよ』と、福神様のようにニンマリと懐っこい笑顔で志藤さんは話し始めた。

志藤さんは二十代の頃、アメリカに住んでたことがあるという。

『サーフィンやっていたし、やっぱりアメリカは憧れじゃん。あてもなく渡米したんだけど、アパート近くにあった古着屋のオーナーと仲良くなってさ。そこでバイトさせてもらいながら生活してたんだよ。』

どこにでもいるような家族思いのお父さん。
人は外見だけでは分からない。そうつくづく思った。
人それぞれに物語がある。夜空の星や花言葉のように。

志藤さんは続けた。

『一時的に日本へ帰国したときに、友達から飲み会に誘われてね。そこに来ていたのが彼女なんだ。地元にこんな可愛い子がいたんだって思ったよ。』

そう言って志藤さんは、顔立ちの整った綺麗な奥さんを見た。
奥さんは照れ臭そうに微笑む。

志藤さんより年下の奥さんは、当時高校生だったという。

『さすがに高校生には手をだせないからね。連絡先だけ交換して楽しく飲んだよ。』
志藤さんがそう言うと、

『私はソフトドリンクだからね』と微笑みながら奥さんが補足した。

志藤さんは続けた。

『その後はアメリカに戻ったからね。彼女とはたまに電話で近況報告をする程度だったんだよ。』

しかしそこから話が急展開する。

志藤さんは続けた。

『その年の夏休みに、彼女がいきなりアメリカにある俺のアパートにきたんだよ。夏休みの間、お世話になります。ってね。』


手紙も交換していたのでお互いの住所は知っていたというが、高校三年生が夏休みにとる行動の範囲を優に超えている。

『僕は、変わり者なんかではないかもしれない…』
ここでもまた、世の中の深さを痛感させられた。


志藤さんは続けた。

『夏休みとはいえ、さすがに親へ連絡しないとまずいだろ?
俺も彼女を好きだったし、彼女もこうして行動を起こしてくれたからね。
アメリカから親御さんに電話かけて、「僕が責任をとります」って伝えたよ。
もうほとんど婚約しちゃったんだ。』

笑いながら話す志藤さんの横で、確信犯のように微笑む奥さん。

“女は怖い”とは、多くの意味が含まれるようだ。

こうして志藤さんにぞっこんだった奥さんの勝利により、二人は結婚することになる。


それにしてもなんだろう。
志藤さん家族を見ていると温かい気持ちになり、胸が熱くなる自分に気づく。

『素敵な家族だな~。僕も結婚したいな。』

心の底からそう思える出会いだった。

つづく…。

『やりたいことをやって生きる!!』
そう決めた僕が、経営に関わっていた会社を辞め、
キャンピングバスで生活しながら旅を始めた実録記。
道中での数々の奇跡的な出会いや、
妻へ公開プロポーズをするまでの神がかりな出来事を書いた自伝小説です。
【~LIFE IS A JOURNEY~僕の半生記】



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