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長瀬智也のドラマ『俺の家の話』が面白い

俳優、アイドルグループ、タレントなど多彩に活躍している長瀬智也には、芸能のためにはどんな努力も惜しまないハングリー精神の持ち主という印象がある。それゆえ役者としては、不器用さを隠そうとしない潔さと、不屈の魂をあわせ持った役柄が映える。その魅力は宮藤官九郎による『タイガー&ドラゴン』で主役を演じたことで引き出され、人気は永久不滅ポイントになった。
そんな長瀬智也×宮藤官九郎のコンビが復活したので、今度はどんな役を演じるのだろうかと期待しながら、ドラマ『俺の家の話』を見ている。

ドラマの舞台は能楽の宗家一門で、長瀬智也が演じるのは、人間国宝である観山寿三郎(西田敏行)の長男、観山寿一。しかも宗家の後継者なのにプロレスラーという役どころだ。能楽とプロレスというふたつの舞台を重ねて、3月で芸能の表舞台から退く長瀬智也の花道がさりげなく用意されているのは、宮藤官九郎のはからいだろうか。

誰でも何かの役を演じている

観山寿一は能楽宗家の長男であり後継者。元妻とのあいだに小学生の息子がいて父親でもある。覆面プロレスラーとしての顔もある。
思えば、私たちもいくつかの役を演じながら日々暮らしているのかもしれない。賢くて演じ分けが上手い人もいれば、不器用で下手な人もいる。だからよく知っているつもりでつき合っていた相手が、意外な顔を見せて一瞬ドキリとしたり、ふとした機会に別な一面を見て、苦手だった相手に好感をもったりする経験は誰にでもある。

宮藤官九郎は、登場人物が意外な顔を見せることで話を急展開させるのが得意だ。ドラマでは介護が必要になった寿三郎とヘルパーのさくら(戸田恵梨香)は婚約するのだが、彼女がじつは後妻業だったという疑惑が浮上。第3話では、さくらが自分の過去を語り、別の顔を見せ始めて目が離せない。

ドラマのもうひとつの見どころ

役者というのは二人の自分を生きている。ひとりは生身の人間としての自分、もうひとりは舞台上の役としての自分。役者は想像力を使ってその役を創造している。そんなことを前回書いた。人生という舞台は生涯続くけれど、役者の舞台は幕が上がると始まり幕が下りたらそこで終わる。
『俺の家の話』の主人公・観山寿一もまた、あまりぱっとしない長男という生身の自分と、能楽師でプロレスラーという別の自分を生きている。そんな「役者」の生きる姿を、俳優・長瀬智也が演じ切るという重層的な作りになっていて、そこがドラマの見どころのひとつだと思っている。不器用さを隠そうとしない潔さと不屈の魂を持った主人公。そこに長瀬智也の魅力が二重写しになって、絶妙なひびき合いを生んでいるのだ。

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