ひとりごと

 雨が降っていたから、買った本の入った袋の口をねじって閉じた。本が持つ熱量で蒸れて、紙がしわしわになってしまうんじゃないかと思った。

 読み切らないうちに本が溜まる枕元。既に十冊を優に超えたそれを眺めるだけ眺めて、今日も別の事をして過ごしている。

 本は好きだ。読むのも、書くのも。
 映画も好きだ。見るのも、空想するのも。
 だけど僕はタイミングがばっちりそろわないと、鑑賞を実行に移すことができないのだ。内容もうまく頭に入ってこないし、なんだか文字が滑って見える。使命感で本を何冊も読める人を、僕は心から尊敬するし、羨ましいと思う。

 空想が溜まる。頭の中が空想でぎちぎちに膨れ上がって、頭痛を引き起こしている。面白い空想ばかりでいいのに、僕の頭の中の空想は、辛かったり苦しかったりすることばっかりだった。
 電車で目の前にいる人は殺人犯かもしれない。
 バイト先の同僚は過去に人を殺しているかもしれない。
 こんな空想はもううんざりなのである。

 とろっとろに溶けた甘く緩い思考が僕を家に引き留めている。
 そんな空想が占めているんだもの。仕方ないもの。

 だめなのはわかっている。
 社会にでなければいけないのはわかっている。

 しかし、一人ぼっちの僕にはもう、その術がわからなくなってしまった。
 肥え膨れた、醜くなった僕。
 誰が僕を一人の人間として認めてくれるのだろう。
 だれが愛してくれるのだろう。

 それも、これも、ひとりごと。
 有無を言わさぬ、ひとりごと。

 誰にも届かない言葉を電子の海に放って、小さな花でも咲けばいい。その花はやがて枯れる。でも枯れる前に種を残す。そうやってちいさな独りのひとりごとが、いつか大きな花畑へと変わってくれればいい。

 だから、無意味だとわかりつつ。

 僕は今日もノートを残す。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?