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『戦闘能力高い嫁と国家機密な旦那さん』第3話 【週刊少年マガジン原作大賞連載部門応募作品】

『…あ!ほら!来たわよ〜自衛隊の…』

『…暴力振るうなんてなんて子かしら!…』

『…旦那顔すら見せないなんてやっぱりどうでもいいと思ってるのね…』


想定内だ、でも幾ら言われても反応してはいけない。
こう言う人間がいるから戦争ってなくならないとつくづく痛感する。
デジタルタトゥーと同じでここぞとばかりに皆が攻撃してくる…

『厚かましにも程があるわよね〜見て、ニコニコして反省すらしてないわ…』


ほら、みろ!
あの嬉しそうな顔、どんだけ醜いか鏡で見せたい位だ。
お伽話に出てくる意地悪お姉さんや、魔女並みに醜い。
こう言う時になると本性というのがあからさまにでてくるものだ。

さっと無視して、
「はい!今日も元気にいってらっしゃい!二人共!」
満面の笑みで我が子、二人を見た。


「はい!お母さんいってきます!」と笑顔で二人は教室へと向かった。



そう。
うちでは何が起ころうと次の日には決して持ち込まず、
笑顔でお互いを必ず見送る。

今出港している旦那さんは、遺書を書いて毎回出港する。
その重さを充分にわかっている、幼いながらに。

なので、二人は笑顔で今日を生きるために向かう、自分はそれを笑顔で見送る。


『…何もないって顔で…なんて図太いのかしら!流石だわ〜怖い、怖い…』



挨拶してもスルーされまくって、その間をすり抜ける。
相手がどうでようと挨拶は大人の礼儀だ。


…ふぅ〜空を見上げて旦那さんを思った。
今もどこかの海底にいる、国家のため、平和を維持するため…自分はこんな綺麗なお天道さんを浴びれることに感謝してしっかり生きていこう!よし!


駐屯地での仕事大分癒されて、幼稚園に向かいに行った。




…ドックン…

…群れができていた。

…嫌な予感がする。



自分が足を踏み入れた瞬間、


『あら?武器は持ち込んではないでしょうねぇ?仕返しが怖くて皆で待っていたのあなたを。うちの子に手をあなたがあげるんじゃないかと思ってね、あなたも自衛隊なんですってね?しかもミサイル扱うとか…銃持って…女の人がそんな恐ろしいもの扱うなんて、ご両親もなに考えてるのかしら?』


…ツッコミどころ満載だが、ここは何も言うまい。
保育士さん達と園長が解決に話しを持っていってくれるのでこれ以上大人同士でいがみ合っては余計拗れる。

「昨日は大変申し訳ございませんでした」

それだけ言って、去ろうとすると。


『人殺し集団なんて、京都からいなくなってほしいわ〜そんな危険な”軍“なんているから他から攻められてくるのよ…武器なんて持たなくていいのよ!
この平和な日本では!』


…抑止力があるから、今の平和が保たれている。365日、24時間“国防”しているから、平和保たれている。

“海猿”で勘違いされがちだが、あちらは海上保安官であり、
最後の砦と名高い空自の救難隊メディックと言われる空自の化け物達。
人間がどうなるかと言うのを身をもって体験する為訓練中水中で失神させられる…。

あの地下鉄サリン事件の際、あの未曾有の事件のあと、次の日山手線平常通り運行されたのも、最終確認で、自衛官の1人が、列車の中で、部下に行った。
“今から自分がこの防護マスクを外す、もし何かあれば救急を呼んでくれ。
人体に影響ないか、自分の体で証明する”

…その翌日、山手線は始発から通常通りに運行された。


東日本大地震では、自分の家族も行方不明になっている隊員達が沢山いる中、彼等は黙々と災害派遣に赴き、”将来子供が産めなくなってもいいです!自分も原発の除去作業に行かせてください!“…まだ二十歳にも満たない若手の女性隊員が上官に訴えたが、流石に上官もそれは受け入れなかった。
簡易な防護服に身を包み、隙間はガムテープ、長靴には穴が空き、水が入ってくる中、トイレに行く時間もままならないので、オムツを履いて作業をし続けた。
自分も津波に呑まれながら、国民がいると手を伸ばし安全な所に運び、そしてまた泥水に入り、救出に向かう、行方不明の捜索中、荒れた公園に天蓋を張り、雨が降ると隊員達がこぞってシャワーの様に浴び、冷たいレーション(戦闘食)でご飯を済まし。
先の見えない作業にも、例え石を投げられ『お前らの施しなんていらない!出ていけ!軍隊の助けなんていらない!』罵られようと、黙々と作業を行った。

報道されない自衛官達の辛さ。


旦那さんが、言った言葉が蘇る。

「私は、どんな事があっても任務が優先。
なので、災害に巻き込まれても、家族を守る事はできない、辛いが事実だ。
だから、家庭を持つと貴女が全てを守らないといけなくなる。
それが耐えられないのなら、結婚を取り止めてもいい。私はこの歳まで一人だったのは、それが怖くてできなかった。鯨を降りる事もできない。だから一生独り身でいるつもりだったが、貴女に出会い生涯共にしたいと思った…だが、現状はそう上手くはいかない、子供がもし授かっても、出産には立ち会えない、育っていく姿を見れない、喧嘩すらもそうそうできない、一緒に生きている実感が全く沸かないし、何より家族に何かあっても即応できない…それを鑑みて私と付き合うという事がどういうことかよく考えて、結論を出して欲しい…」

静かに、でもはっきりと彼は言った。

自分はそれがどう言うを示しているのか充分承知している。
例え同じ自衛官でも、やはり鯨乗りは格別特殊だ。

陸自は常に陸にいるが、鯨はどこにいるかすらわからない。
行動が国家機密、同じ海自でも皆無である、
その上、普通の生活なんてものはほぼほぼ望めない。
連絡がつかない、LINEなんてものは、あってない様なもの。
そもそも彼は、そういうマメな男性ではない。
箇条書きのような文章、まるで業務報告…。

過酷な状況下にいながらも
「帰れる場所、待っている人達、自分だけの家族」というのを
自分は彼に作ってあげたいと強烈に思った。

その覚悟は、もうできている。出会った瞬間。

「自分の覚悟はできています、貴方と共に生きることが自分の喜びであり、最大の幸せです、それ以上の事はありません。どうか自分と結婚してください。」

…あははっ。

目尻に皺が寄り笑った。
彼の屈託ない笑顔を鯨から降りた時、
一緒にいる時間は、そういう笑顔にできる自分でありたい。

「はい。喜んで、貴方の旦那になります、宜しくお願いします」


…ぶちまけたい!どれほどの覚悟を背負って日々生きているのか!
なにも偉いと言って欲しい訳ではない、日々この瞬間にも国防をしている人達がいるからこそ、日本は”平和ボケ“していられることを!先の戦争から一度も戦争を”起こさせない”抑止力のみで保たれているこの日々を…!


…ダメだ、感情的になるな、今ここでぶちまけても負の連鎖しか生まない。
そして何より我が子達が傷つけてしまう、保育士さん達はあれ以来細心の注意を払っている。
そして我が子達、二人に親のいざこざの感情を持ち込ませない様に、努めてくれている…そんな中、自分が怒りだけで壊すわけにいかない。


「…すいません、時間がないので通していただけますか?」

170の長身を生かし、轟く低い声で睨んだ。

ビクッとなったのが明らかにわかった。


…これ位は許されるだろう。

後ろで『怖っ…』とボソボソ言ってるのが聞こえたが無視だ!

子供達二人に会うと、笑顔で「どうだった今日は?」というと
二人揃って、「うん!楽しかった!」と元気な二重音が響いた。

あはは!と笑い、保育士さん達に挨拶をし帰ろうとした。


…すると、まだいた。
執念深い連中が取り囲んで、また胸糞悪い悪口を言っていた。

「お先に失礼しま〜す」と自分は軽快に進んだ。

『…浅ましいわねぇ…なんで京都にきはったのかしら…』
『お里が知れるわね…』
『他所から来はったから、やっぱりわからないのね。
慎ましくなんてもの…なんせ自衛隊ですもんね〜』

…どこまで知っているのか?女の執念の個人情報搾取は、恐ろしいもんである。


『ねぇ?あなたたち知ってるの?パパとママが人殺ししてるの?』



…震えた。



よりにもよって、子供達に向かって。

ニヤニヤしながら、あの味方のフリをして近寄ってるクソ女が。


…言い放った言葉。



我が子達、二人の足が止まった。



…自分の母親の、怒りで震えてる手を感じて。



…そして流れている母の涙を見て、止まらない大粒の涙を見て。



その瞬間、両手を同時にぎゅっと握られた。

子供達二人が大きな声で言った。あの独特の二重音で。

「お母さん、お父さん、
いつもみんなの平和を守ってくれてありがとう。」


…クソ女の顔がカーッと真っ赤になるのがわかった。


…号泣。


何を言われても、自分から怒らないようにしていた。どんなことを言われても。
でもさっきまで殺意すら抱いた…あの心無い悪魔のような顔をしたクソ女に。


…我が子二人の天使の声に。

そして、“起こさせない国家”
諭した事もない、話した事もない、それなのにこの子達二人は肌で感じ取って、幼いながらに“国を守る”ということを理解していたのだ。



…不甲斐ない、申し訳ない。
我が子達に諭されるとは。自分から戦争を起こしては決していけない。
どんなに罵詈雑言言われても、それに反論をしてしまったら“始まってしまう”事を。

今回のおもちゃの件で学んだのだろう、二人なりに。
“理解してから理解してもらう”事を。



泣くな!自分!我が子達の素晴らしい考えを褒め称える時だ!

「よーしいい子達だぁ〜!今日は二人の好きなハンバーグだぁ!沢山食べろ〜」
と二人合わせて約40キロになる体を両肩に持ち上げて校門を出た。
伊達に鍛えてないので、この位は朝飯前だ!

…こんな幸せなことがあるか!
子供とはなんと不思議で、理解ある親友ではないか!旦那さん!
最高の二人だよ〜!あはは!
涙が大笑いになり、我が子二人も大笑い!


自分の不甲斐なさを二人の天使に、綺麗に浄化された。

うん、明日も生きていける!笑って!この子達に負けてなるものか!手本になれるよう、旦那さんが寄港した際褒めて貰えるよう胸張って日々生きよう!

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