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【パフォーマーインタビュー・72】 ~「時間と遠いところで繋がり合えるインプロ・アート」~月刊インプロ8月号より

皆さん、こんにちは。

インプロジャパンスタッフの峰松佳代です。
毎回、このコーナーでは、インプロジャパンの受講生や
パフォーマーの皆さんにお話を伺い、
個々を通した「インプロ」をお届けしています。

今回のゲストは、東京都の芸術文化活動支援事業プロジェクト
「アートにエールを!」に、impの奧山奈緒美、秋山桃花と共に、
作品「インプロアート」を出展した
画家の下工垣優江(しもくがきまさえ)さん。

まさえさんは、「春陽展」にて3度にわたって奨励賞を受賞、
また数々の個展・グループ展に出展する等、
画家として活動する一方で、インプロジャパンの
パフォーマンスクラスを長年ご受講くださり、
インプロジャパンが開催する公演の舞台にも
何度も出演して下さっています。

今回は、まさえさんに絵を描く時の感覚に加え、
途中からは、一緒に共演したimpのナオミにも加わってもらい、
お二人に、今回の「インプロアート」作成時のことについて、
伺いました。

実は、私、この作成現場に立ち会ったのですが、
作品が出来上がっていく中で、気がつくと涙があふれ、
その後も、何度観ても、理由なく、なぜか涙がこぼれました。

お話を伺って、その理由が分かった気がします。
そして、インタビューの後、無性に「アート」に触れたくなりました。

「アート」。
読者の皆様は、「アート」をどのように捉えていますか?

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インプロジャパン(IJ):
先日の『インプロアート』、お疲れ様でした!
今日はその時のお話を伺いたいのですが、
その前に、まさえさんの普段描かれている絵に関して伺いたいと思います。

普段の作品は、どのようなものが多いのですか?

まさえ(M):
絵画教室での指導や業界誌に掲載されるイラストも描いていますが、
制作として描く作品は、抽象画です。

IJ:
インプロで絵を描く時、抽象画を描く時、
その他の背景画や肖像画、イラストなどを描く時では、
何か違う点はありますか?

まさえ:
抽象画とインプロで絵を描く時は、
もっと言えば、インプロパフォーマンスする時も、
自分の中の同じところを使っている感覚があります。

例えば、イラストの場合は、
注文して頂いた方とのやりとりの中で制作していくことが多いので、
相手の意向に沿えるように意識しています。
また、仕上がったイラストに後から文字を重ねたりすることもあり、
完全に自由に構図を決めるというよりは、
枠の中で描き進める・・・という感じなので、
頭を使いながら制作している部分があります。

でも、抽象画やインプロの時は、体を使っている。
自分自身に何を感じているかを探っている感じです。

IJ:
何を感じているの?って問いかけてるってことですか?

M:
何だろう・・・
血流を感じるみたいな感じ?

たとえば、梅干しを想像した時に「酸っぱい!」って思うと、
その時、同時に、感覚も「ギュ」ってやってくるじゃないですか?
それが身体に潜ってくる感じ。それに近いかな。
頭の中にイメージをして、その感覚を探るって感じ。

IJ:
すごい、感覚的な話になってきました(笑)。
言葉にするのが、ナンセンスな気がしていますが、
もうちょっと聞かせてください。

感覚を使うということは、構図を決めていたり、
準備はせずに取り組むんですか?

M:
準備をどう捉えるかですが、
日常生活が準備。
描く時に準備するというよりは、
それまでの過ごし方が準備にあたる気がします。

今回の『インプロアート』の時もそうですけど、
描く前には、どんな可能性があるかとか、
常にシュミレーションしていて、
こんなことができるかとか、日頃から、
ずっと考えている気がします。
ほったらかしていても、体のどこかか考えているというか。

抽象画を描く時の話をしますね。
例えば、一枚の絵に対して、
今回はどうしようかなとか思ったり、
エスキース(下絵)したり、メモしたりすることがあるんですけど、
それもこれも、常に、今、思いついたことをとりあえず描いておきます。

新しいキャンパスに描いて、少し放置して、
他の絵を描き出した後に、また途中で描き出して、
そのまま仕上がったりすることもあったり。
時に、そういうのが評価されたりすることもあります。

そういう絵は、向かい合った時間は短いといえばそうだけど、
実際には、描いていない時間に、
他の絵を描いたり、写真集観たり、キレイなものを観たりして、
ふと、あの続きをやろうと思って取り掛かるので、
いつも身体のどこかで考えていて、その時間が準備であって、
感覚がそこに触れた時、作品に繋がります。

IJ:
まさえさんのいう「感覚」って何ですか?

M:
バランスかな?
ないと気持ち悪い感じがするものを埋めてくれるもの。
全部のバランスがこれ以上動かせないなと思うのが、
身体の気持ち悪さがなくなった時、それが作品になっているって感じです。

IJ:
ここからは、今回挑戦された
観客の存在があるエンターテイメントである
『インプロアート』について伺わせてください。

普段の創作活動との違いがあれば教えてください。

M:
抽象画を描いている時も、使っている細胞というか感覚は一緒ですが、
絵は平面、
観客の存在を感じるインプロは、立体的なイメージの世界な感じ。

共演者や観客がいることで、それぞれと繋がり、
生まれてくる世界は、イメージがより濃密に感じられて、
リアリティを感じる気がしています。

しかも、今回の『インプロアート』は、
共演者同士もオンラインで、観客の皆さんとも
同じ時間に、同じ場所にいたわけではないのですが、
なぜか共有、繋がりを感じることができました。

IJ:
ここからは、投稿いただいた言葉を紡ぎ、語り手となった
impの奧山奈緒美さんにも加わってもらい、
お二人で、その時のことについて、感じたことを
語ってもらいたいと思います。

今回の作品は、
同じ場所にいてのパフォーマンスではなく、
事前に投稿いただいたお客様の言葉を通じて、
語り手のナオミさんとミュージシャンのモモさん、
画家のまさえさんがそれぞれ違う場所にいながら繋がったわけですが、
あの時、どんなことをお感じになっていましたか?

ナオミさん(N):
『インプロアート』では、
確かに、同じ場所での3人の直接的交流はないんだけど、
生のインプロ舞台の時にも共通する、感覚がありました。
舞台のときも、観られている意識を手放す瞬間というか、
役者と観客の違いがなくなるときがあるのですが、
それと同じように、投稿して下さったお客様が共演者になる感覚が
その場のエネルギーとしてあって、
そこに二人との繋がりも感じて、
今、全てが生まれていくことを感じていましたね。

M:
私もそれを感じていました。
画面上なのに、不思議と同じエネルギーの共有を感じていました。
オンラインでも、同じエネルギーの空間の中で、
それがリンクして出来上がる『インプロアート』にすごく可能性を感じました。

N:
今ふと思ったんだけど、
『インプロアート』をやって心地よかったのは、
あれは理想のコミュニケーションだったんじゃないかな。

私は語る、モモは音楽、まさえは絵を描く。
その全く違った個性を、お互いに一切干渉しないまま、影響し合ってる。
ただ、ただ、影響し続けていく。

M:
そうですね。
最大限、持って生まれた自分自身でいられる。
そんな時間であることも感じました。

お互いがその状態で、遠慮せずに自分でいるけど、
でも影響し合っている、、そんな究極な時間でしたね。
そして、今終わって思うことは、
オンラインであっても、もっとその時間を信頼できる可能性を感じました。
それは、それぞれが自分でいるって事かもしれないですね。

N:
究極の自立、個の確立というか、、、
本当の個性って、他の人が踏み込めない何かがあって、
そこが出てくることが「アート」な気がする。

M:
それが見たいし、その場所にいたいですね。
私にとって、絵は、自分の感覚を確かめる時間なんです。

普段の生活だと、どこかで他の人の考え方や常識を考えたり、
自分一人だけの感情でやれることって少ないだろうなと。
日常では、どこまで自分の考えなんだろう?と思うことがあるけど、
絵を描く時だけは、絶対自分の感覚だけ。
他の時は、ちょっと妥協してもいいやと思っている部分があるんですが。

私、高校生ぐらいまで、社会でどうやって生きていけばいいんだろうって
思っていて、自分がどう思っているかは邪魔になる気がしていて、
自分が感じていること、思っていることを
消そうとしていたところがあったんです。
でも、そのうち、
自分が何を考えているのか、何をやりたいのかわからなくて、
自分が感じていることを確かめたくて、、
それが、抽象画をやり始めたきっかけ。

自分の居場所、自分の本心を自由に確かめられる場所。
それが、私にとっての絵で、だから描いているのだと思います。

そして、今回、『インプロアート』をやらせてもらって、
お互いが『自分』でいることで、繋がる世界があるように思いました。
リモートでの共演でしたが、
時間とか場所とかそういう制約から遠いところで描いていた気がします。

同じ絵を30分で描こうと思っても描けない。
あの時、自分一人で描いている時では刺激されない部分が刺激されて、
それは、絵に集中しつつ、音楽と出来てくるお話、その場の空気やエネルギー、
見えないところでやり取りしていて、繋がっていて、
そこに時間という感覚はなかったです。

N:
こういう状況になって、zoomで会話したりyoutubeなど、
テクノロジーを使って新しいものを生み出されてきていて、
それはそれで大切なことなんだけど、
ただ、それは本当にあくまで手段で、
人間同士が影響し合って関わっていくことに限界はないというか、
あくまで人と関わっているんだということが大切で、
そこには、手段は関係なく、こうでなくては伝わらない、
繋がれないというのはない気がするなぁと、
オンラインでの『インプロアート』をやってみて、私は感じたかな。

M:
わかります。
『インプロアート』の時、もちろん、zoomは物理的に繋がるという意味では、
助けてくれたけど、それ以上に同じ場所にいる気がしました。

ここまで、お話してきて思ったことは、
絵を一人で描いている時、自分自身と繋がる、
自分の一番深いところと繋がっている感じがしています。

抽象的で感覚的な言い方ですが、
制作する時、
自分の深いところに行けば行くほど、
誰とでも繋がっている場にいる気がするんです。
『インプロアート』の時は、
「今」そこにあるものから、
奥深いところに自分の意識が潜っていったら、
そこでみんなと繋がった感覚がありました。

私が、「インプロ」をやりたいのは、誰かとの繋がりを実感できるところ。

「アート」には、時間も距離も邪魔せず、
人と人とが心地よく繋がれる、奥深いところにアクセスできる可能性があって、
「インプロ」には、それをリアルに共有できるチャンスがあるなって思います。

なので、またやりたいです!
その可能性とチャンスを信じたら、
もっともっと衝動の爆発をつくることができるかもしれないです。

IJ:
『インプロアート』の進化、楽しみです。

有難うございました。

※「アートにエールを!」投稿作品
https://cheerforart.jp/detail/2208

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