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困難な状況を意図的に体験する|地域共生型社会推進事業 実施レポートNo.8

こんにちは。
インパクトラボの上田です。

インパクトラボでは、「コミュニティ・オーガナイザーの育成」の一環で、メタバース保健室の実証実験に取り組んでいます。

メタバース保健室とは、最近注目されているデジタル空間【メタバース】で、学校に行きづらい、人前で話すのが苦手などの不安を抱えている生徒が、自分の分身であるアバターを使い、同じような問題意識を抱える仲間と出会うことができる【次世代の保健室】のことです。この保健室を利用することで、生徒が少しでも不安を解消することが見込まれています。

そこで、今回はこのメタバースを大学教育で実践的に取り入れている立命館大学生命科学部教授の山中司先生にメタバースの可能性について話を伺いましたので、読者の皆さんにご紹介します。

山中 司 先生

今回、インタビューをしたのは、立命館大学生命科学部教授の山中 司先生です。普段は、立命館大学生命科学部・薬学部・スポーツ健康科学部・総合心理学部で開講されているプロジェクト発信型英語プログラムProject-based English Program, or PEP)の責任者として、大学英語教育を推進する立場で活躍されています。PEPでは、既存の英語教育にデジタルツールを最大限に活用した授業を実施しているところが特徴です。

山中 司 先生 (立命館大学教授)

英語教育にメタバースを取り入れる

PEPでは、様々なデジタルツールを積極的に取り入れた授業を展開しています。例えば、英語をより正しく、自信を持って 話せるようになるための 発音矯正ツールを導入したり、レポートや論文の類似度の判定・採点・フィードバックを行う添削ツールを導入したり、AI 自動翻訳を授業で学生が活用しています。これらのデジタルサービスを率先して授業に導入する活動は、2022年5月に立命館大学が開催した教育開発DXピッチにおいて、優秀賞を受賞するなど評価されています。

PEPが提唱する「PBL型次世代英語教育プラットフォーム」イメージ

山中先生は、これらのデジタルツールを活用した事例として、NTT XR Space WEB(DOOR)を活用した正課授業を実施しています。

DOORは、NTT QONOQ(コノキュー)が提供する XR 空間プラットフォームのことで、情報発信や自由でオープンなコミュニケーションが可能です。さらに、マルチデバイスにも対応しており、Web ブラウザベースでのアクセスや制作も簡単にできます。

PEPの授業では、約500名の大学生が2組に分かれて、英語によるポスターセッションをメタバース上で実施しました。事前に選ばれたグループがポスター前でプレゼンテーションを行い、オーディエンスは自由に聞きたいプレゼンテーションを見て回りました。現実の学会のポスターセッションさながらの雰囲気を、メタバース空間上に作ることができたそうです。

メタバース上での英語の発表の様子(立命館大学HPより引用)

大学の授業からホテルでの接客の練習にメタバースを取り入れる

また、新型コロナウイルスが猛威をふるう2021年には、立命館大学で公募されたPost コロナ社会 提案公募研究プログラムにも採択され、「Post コロナ × DX × 最先端英語教育:VR 技術を用いた英語自律学習環境の開発と実装」をテーマに研究を実施していました。

本研究では、学習者のスピーキング能力の向上に特化した、VR ゴーグルを用いた AI による自律学習プログラムを開発することで、テクノロジーに囲まれた未来の英語教育を具体的に社会に示し、社会的インパクトを図るものです。

フロントでの顧客対応のイメージ (サービス学会発表論文から引用)

また、これからコロナ明けでインバウンドの復活が見込まれる旅行業界でも英語コニュニケーション教育は必須になっており、そこに目を向けた研究も同時に行っています。ホテルで働く方に対して、VRを活用したホテル独特の英語での接客の言い回しをトレーニングする機会を作ったそうです。これは日本らしいおもてなしとして、日本の良さを海外の方に感じてもらうことも大切ですが、それ以上に最低限のコニュニケーションとしての英語を話すことがホテルの現場で求められていると言う問題から、実証実験という形で実現に至っています。

体験した方からは「これまでの中学校から大学まで英語教育を受けてきたが、新しい学習機会となった」などと好意的に受け入れられたとのことです。

大学での実践的な英語教育は、国際学会で自分の研究を英語で発表する機会が増えてている理工系の大学生・大学院生を中心に実施されています。しかし、これらの英語が必要になっていくのは、決して理工系の学生たちだけではありません。よって、このような機会をメタバース上で再現することで、学生たちは積極的に苦手な英語の練習することができ、自信を持って発表本番を迎えることができるなどの効果が推測されます。

困難を意図的に作り出せる可能性

先ほど紹介したPEPを始め、高校で実施されている総合的な探究学習では、学生や生徒には積極的な発言が求められています。発表することが得意な学生や生徒にとっては、自分の意見や想いを伝える良い機会となります。しかし、発言することが苦手な学生や生徒にとっては人前で発言することで精神的にダメージを受けてしまい、「二度と話したくない」など、より苦手意識が高まってしまう問題があります。

これまで山中先生が担当されていた授業でも英語を人前で話すことに羞恥心を抱いてしまい、自信を失う学生をみることがあったようです。このような苦手意識を少しでも克服する目的で、アバターを活用したコミュニケーションの場を作ることがPEPでの授業でメタバースを活用するに至った経緯だそうです。

そのような中、アバターコミュニケーションを行う事で、人は対話相手に自分自身のことを話すことができる報告が出てきており、有用性の認知が高まりつつある機運も生まれています。

探究学習に積極的に取り組む館林女子高校の生徒たち

他にも、メタバースによる「困難な状況を意図的に体験する」機会を提供することが、これらの苦手意識を克服に貢献する示唆があったとのことです。

例えば、いきなり道端で外国人に英語で道を聞かれたからびっくりして、何も話すことができなかった、緊張して何を話したか覚えていない、という状況は経験の有無に限らず、皆さん理解できると思います。このような困難な状況を、メタバースでは意図的に再現することができ、訓練することで、少しでも柔軟に対応することができるという結果が生まれたといいます。

日進月歩で新しいテクノロジーが進展している中で、このような状況は、積極的に教員がチャレンジしていくことで、学生や生徒にも見本になる取り組みになるということです。

山中先生の個人研究室で話を伺いました!

最後に

最後までご覧いただき、ありがとうございました。

山中先生とは、SDGs表現論-プロジェクト・プラグマティズム・ジブンゴト-として、動画教材の作成、書籍の出版、立命館大学教養科目の立ち上げを一緒に行ってきました。SDGsが掲げる「誰ひとり取り残さない社会」の実現にあたり、新しい技術であるメタバースの実践事例がわかりました。

メタバースやアバターによるコミュニケーションを通して、完璧を目指すよりも実施しながら段階的に改善を繰り返すことできっと次世代の新しい授業が生まれるとワクワクしました。

これからもメタバース保健室の実証実験は続きますので、引き続き応援よろしくお願いします。インパクトラボでは、地域共生型社会推進事業交付金採択事業としてインタビューやワークショップの活動を行っています。他の活動のレポートも是非ご覧ください。

https://note.com/impactlab/


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