コメタクの日と未来言語とだらだらday_190918_0028

自分の声に耳をすます

#きみの言葉に救われた

ある日、wordで送られてきた8000字の文章を読んで、私は心をきゅっと掴まれたような気持ちがした。

送ってきたのは、大学4年生を休学中の女の子。地方地域の暮らしや仕事に興味があり、私が運営している、実際に滞在しながら体験・実践できる長期のインターンにこの春応募してくれた。

彼女は4カ月インターンを実施し、その後いくつかの要因でインターンを辞退することになった。精神的にしんどそうだった彼女を、私は何も助けられないまま、見送った。

それからさらに2ヶ月。彼女からその文章がメールで送られてきた。帰る前、私は、「書けるようになったら、インターンに関係あることでもないことでもいいから、あなたが4カ月暮らして感じたことをぜひ書いてほしい」と言っていた。彼女はそれを実現してくれたのだった。

始めの方には、やっと書けるようになるまでの2ヶ月のことが書いてあった。

少しずつできることが増えて、いわゆる普通の状態に戻りつつあります。普通って「普通」ですが、それを支える自分のなかの力は絶大だったのだなと気付きました。

いつからか私たちは、「毎朝決まった時間に起きて仕事に行くこと」「輪を乱さずに与えられた課題をこなすこと」などのことができない状態をマイナスな目で見るようになってしまっている。でも本当はそのことは問題ではないし、むしろそんなことで自分の心の声を聞き逃してしまうことの方がしてはいけないことだ。

『「普通」を支える自分のなかの力』という言葉がすごくわかりやすい。その力が湧く環境や状態と、そうじゃない場合があるということを、人は認識しておいた方がいい。「なぜかできない」ということが本当に人にはあって、それを「できる」に変えようと思わなくていい。理屈じゃないんだもの。

そこから先は、「生活して感じた自分分析」や暮らしていた農村地域の「地域で出会った人と環境の話」や、思ったことを雑多に書いた「そのほかの気づき」が箇条書きでたくさん連なっていた。以下はそこからの抜粋。

家や空間との相性がある気がする。最初に感じた違和感は大切にするべき。
1人でいるときの食事の優先順位が低い。よい食べ物が体を作るというのは承知しているけれど1人でいるとおろそかになる。みんなで食べるご飯は本当に美味しい。
散歩していると多くのお宅で花が咲いていた。1人に話を聞いたら、これを見た人が明るい気持ちになるでしょ、と。ほかの家も自分のためではなく、誰かへ向けられたものが多いように思えた(道路沿いに咲いているように思えた)。地域の誰かのため、の「誰か」は不特定ではなく、浮かぶ顔があるのかもと思った。
暮らしのすぐそこに季節や天気がある。
これくらい暑くなると山菜はもう終わりだな、とか、このまま涼しくなればいつ頃には稲刈りできるな、とか、季節を読める人が多い。季節を教えてくれるものも多い。
今まではただの雨、ただの晴れ、だったけど、雲の流れが見えて風を感じられて、移り変わりがしっかりと見える。すべての現象に前後がある。
地域行事ごとに知り合いが増えていく嬉しさ。この日は雨で気分が落ちていたけれど、地域の人と話せて距離を縮められただけで本当にいい日だった。
どんどん来た頃の状態になっていく部屋を見ていたら急に切なくなった。泣きながら最後の掃除をした。

これは本当に一部なのだけど、私は読みながら彼女に感謝していた。

文章にぐっとくる理由には2種類あって、1つは高い表現力や技術力によるもの、もう1つはまぎれもない個の感情から生まれた取り繕いのなさからくるものだと思っている。彼女の文章は後者の理由から、こんなに心を掴まれてしまうのだろう。もちろん私が彼女の経緯を直接知っているということもあるけれど。

社会に出るまでにできれば身につけてほしい数少ないことのひとつが、「自分の声に耳をすませるようになること」だと思っている。

声、といっても言葉になっていなくたっていい。嬉しい、悲しい、変な感じ、不思議な感じ、気持ちいい、気持ち悪い、…そんな単純な感情のカケラでいい。

そのカケラが、本当に大事なんだよと言いたい。あなたにとってだけじゃなくて、それはまわりの誰かにとってもきっと大事なんだ。感情のカケラには、人の心を動かす力がある。現に、私が彼女の文章に心動かされたように。

だから、都会から農村に来て、見たこともない景色や表情やかけられたことのない言葉や食べたことがないものに出会って、その時ふと生まれた自分の中の声は、大切にしてほしい。できれば、どこかに書き残してほしい。そう思ってしまう。

そして、気づいてほしい。自分が居心地の良いところの特徴や、のびのびと居れる環境のこと。確認したり想ったりしていれば、きっとそれを選んでゆけるということ。

そして、改善したり変えたりするためではなくただ受け入れたり理解を深めるために、「なぜこう感じるんだろう?」を考えていってほしい。その先にきっと、これからの自分を支える言葉が出てくるから。

自分の口から出る言葉が、嘘っぽく聞こえてきたら、彼女にもらったwordファイルを開こうと思う。きっと大事なことに立ち返れる。








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