始まりの和牛券

2020年2月、新型コロナウイルスの影響により私の生活は一変した。

バリ島旅行の中止、卒業式の簡略化、バイトのシフト減、サークル活動禁止、外出自粛、オンライン授業の開始。

不安だった。得体のしれないウイルスが徐々に、確実に広がっていく恐怖。

感染者の増加とともに私の心を埋め尽くすのは、母親の仕事がなくなるかもしれないという恐怖だった。母は契約社員として働き、女手一つで私を育ててくれている。そんな中でもし母親がコロナウイルスにかかったら、もし私が感染して母親が働けなくなったら、母が契約を切られて仕事がなくなったら。

私たち家族はどうなるんだろう。

母の生まれ育った田舎に帰るか、それもありだ。野菜は家の裏の畑で育てて、魚は祖父と獲りに行こう。さすがに牛を狩るのは厳しいと思うから何か違うもので代用しなきゃいけない。生きる方法はたくさんある。

でもやっぱり今の生活がなくなるのは怖かった。

そんな中、ニュースを見る機会が増えた。コロナウイルスとはなんだろう、重症化する人もいるのか、世界ではロックダウンが行われた地域もあるみたい、どこかの国ではお金が配られるのか。あれ、日本は?

和牛券????

きっとたくさん勉強してきたであろう国会議員のおじさんが必死になって和牛券をアピールしている様子をみてはじめは本当に嘘だと思った。Twitter上の悪ふざけでだれかがアフレコでもしたんだろう。本当にそう思った。じゃなきゃおかしい。

テレビをつけると、画面の中のおじさんはまたもや和牛券をアピールしていた。

ほんまやったんかーーい。笑

たしかに牛肉は好きやけど、さっき牛肉何かで代用しやなあかんくなるんかなぁ考えてたけども、絶対今じゃないやん。なんで仕事がなくなり今の生活がなくなるかもしれない恐怖におびえる国民に渡すものが和牛券やねん。

その時にようやく日本はおかしいのかもしれないと思った。

21年間、私が政治に関心を持たず、誰かの言う「日本はすごい」という妄想を信じて未来のことを考えない間に何かが狂ってしまった。

これからは自分で考えて生きていかなければならない。日本を素晴らしい国だと思い続けることは簡単だ。考えることをやめて、今日のような平和な毎日がずっと続くと妄想していればいいのだから。

でもその妄想を長く続ければ続けるほど、確実にやめれなくなる。21年間続けてきた私はその妄想に終止符を打ちたい。和牛券を始まりとして。