見出し画像

昔、私には5歳離れた兄がいた

兄は今、女性として生きているらしい。

初めて聞いた時、私の奥底から沸き上がってきた感情は怒りだった。
私にいたずらしていたくせに!!!

次いで沸いてきた感情は「きもちわるい」だった。

母は、兄、いや姉?の援護射撃とばかりに「女の子の恰好で生きた方が、しっくりくるんだって」と言った。いらんわ、そんな追加情報。

そこでやめて置けばいいのに、母は今のカノジョ(元兄)の写真を私に見せた。

――どことなく、私に似ていた。
男っぽい角ばった身体を隠しきれていない上に、濃いめのメイクで、見れば10人が10人とも「女装した男だ」と言い当てるであろうレベルの完成度だったけれど。

あの時は、嫌悪感しかなくて、その写真を転送してもらったりはしなかったのだけど、今となっては、もう一度見てみたい。


**

兄は、まだ兄だった頃。
ヘッポコな自分を隠して両親や親族の期待に応えようと背伸びしまくって、膨れ上がる周囲からの期待に応えきれずに何度も暴発して、派手な交通事故を起こしたり、闇金に手を出したりするようなクズだったのに、なぜか結婚できた。

当時、一度だけ奥さんに会ったけれど、あまり自分の意思を持っていないような、いつも困ったように微笑む静かな女性だった。
ワガママ言わなそうな、黙ってついて行くような、大人しそうな、そんなタイプに見えた。

失礼を承知で言えば、年の離れた兄を「すごい!!!」と慕っていた、あの頃の私に通じるものが垣間見えた。

兄は、結婚してからも盛大に借金を作り、奥さんの実家にご迷惑を掛け、挙句、奥さんが自分の作った借金返済のために働きに出ている合間に別の女を連れ込んでいたらしいから、クズに拍車を掛けた、クズ中のクズ、GOMI-KUZUに成り下がっていた。

当然ながら、離婚した。
慰謝料も請求された。


**

そして今度は、名前を捨て、性を変えたという。
それに留まらず、既にいわゆるオナベのパートナーまでいるらしい。

世の中、不思議だ。
あんなクズより、よっぽどいい人居そうなものだけど。
何故、このクズは、男性としても、女性としても、結婚できるのか。

慰謝料の支払いも終わっていないのに、妻が仕事に出ている隙に、女連れ込んでいた無類の女好きが、今は女として生きることにしたなんて話、元奥さんが聞いたら、どう思うのだろう。

「パートナーと籍を入れるつもり。夫となる人を紹介したいから帰る」と。母に連絡があったらしい。

「ふーん。私は別に興味ないし、会わないよ」と応えたのだけど。
両親は「うちの兄妹は仲が良い」と思っているので、姉となった兄と、そのパートナーを産前休暇中の臨月の私の元へ、いそいそと連れてきたのだ。

家に居た私は、突如として襲来され、「ひさしぶりやんなぁ」と滅茶苦茶な方言で照れたように笑うカノジョ(元兄)の後ろにたたずむ、小柄なカレ(パートナー)をじっと見つめた。

あなたは、どこまで聞いてますか?
このヒト、私の兄だった頃、私に性的ないたずらしたり、暴力振るったりしてたんですよ。
奥さんに隠れて、女連れ込むような下衆男だったんですよ。
パチスロと、車が好きで、年中借金まみれで、首が回らなくなると母に泣きついて助けて貰ってたんですよ。

困った時にしか、実家に連絡しないくせに、何が久しぶりや。
お前に私の幸福な家庭を覗かれることに、腸煮えくりかえるわ。
エセ方言を操りながら、関東圏に足を踏み入れるんじゃねぇ!

ってことを、物凄くぶち撒けたくなったのだけど、ぐっとこらえて。
「いや、私は会わないって言ったじゃん」って、つっけんどんに言い放ち、面会時間5秒でさよならしてしまったから、単にLGBTに偏見持ってる妹って思われたかもしれない。


**
5秒の面会から、4年が経った。

その間に、祖母の葬儀と、祖父の葬儀と、それぞれの新盆と、元兄にとっての姪が2人産まれたけれど、当然ながら元兄からの音沙汰は無し。

今、どこで何をして、どんな暮らしをしているのか、私は知らない。

元兄よ。

生きづらい世の中をどうにかこうにか生き延びて、幸せになれているなら、良かったね。
私は、共に助け合うきょうだいにはなれなかったし、私はあなたを相変わらずGOMI-KUZU野郎だと思っているし、特に連絡を取り合いたいとも思わないけど、今更、滅茶苦茶に恨んでもいない。

知っているかもしれないけれど、両親は『ジージ』と『バーバ』を楽しんでいるよ。孫を抱かせるという、普遍的な親孝行は私が果たしたし、今後老いてく両親の事は私が見ていくつもりでいる。
一応言っておくと、これは別に遺産目当てとかじゃなくて。むしろ、あなたが縁を切ってくれるなら、遺産の全てはあなたにあげる所存だ。

なんにせよ、爆弾級トラブルメーカーから連絡がないことが、一番の平和だし、一番の親孝行と思っているので、これからもあなたから音沙汰が無いことが一番助かる。



本音を言えば。
私の理解の範疇を超え、私の知っている常識の通用しない人が、自分と血を分けたきょうだいだという事が、とても恐ろしい。
母や父は、自分の子だから、と甘い目で見ているかもしれないけれど、私は元兄が、いつか取り返しの付かない罪――人の命を奪うとか、を犯すのではないか、と心休まらない。

私の脚を引っ張るだけならまだしも。
私の娘達の未来に、影を落とすような存在になり得るので、心配している。

少なくとも、まだ、娘達を抱っこさせてあげようとは、思えない。
今のところは、一生、思える気がしない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?