鯨統一郎著『邪馬台国はどこですか?』

前回ご紹介した中2男子のTK。最後に紹介した鯨統一郎著『邪馬台国はどこですか?』の書評が読みたい! という声をいくつかいただいたので、ご紹介しましょう。この本の軽快な楽しさが、伝わってきます。

『邪馬台国はどこですか?』 評者 TK

 もし、あなたの身近な人が、突然「推古天皇と聖徳太子は同一人物だ」と言い出したら、きっとあなたはそれを笑い飛ばすだろう。聖徳太子は数々の伝説を持つ聡明な人物であり、推古天皇と共に国を運営してた。こんなことは、中学生、ともすれば小学生でも知っている基礎知識である。しかし、この本を読めば、あなたはそれを笑えなくなるに違いない。本書を読み始めれば、本書を読み始めれば、いつのまにかどこかでが正しい考察で、どこからが嘘なのか皆目検討がつかなくなり、いつのまにかそれがどんなに突飛な説でも信じてしまう、本書はそれほどの説得力(?)を持った作品である。
 本書の舞台となるのはカウンター席だけの小さなバー。そこへ数々の奇抜な新説を放り込むのは自称ライターの宮田六郎。それを迎え討つのは文学部教授である三谷敦彦の助手であり、二十七歳にして日本・世界の歴史に精通する勝ち気な才媛、早乙女静香である。このバーの常連3人が、バーの主人である松永の供する酒肴を味わいつつ、「ブッダは実は悟りを開いていない」「邪馬台国は東北にある」などの新説を語る宮田と、定説を推す早乙女が大激論を繰り広げるというストーリーになっている。
 本書の一番の魅力はやはり爽快感をおいて他にない。一見ありえないようにみえる宮田の説を、早乙女はあらゆる資料を使って攻撃するが、その全てが論破されてしまうのみならず、果ては、定説の方が、宮田によって否定されてしまうのだ。
 もちろんそれは専門家から見れば詭弁なのかもしれない。本書はしがない酒呑みたちの与太話であるがゆえに成立する作品であり、他に類を見ない思い切った作品である。歴史本にありがちな長い前置きや予備知識を求められることなどもなく、ただ、本を開けば、躍動的な論理展開が待っているのである。
 歴史本の中において、ここまで気軽に読めて、かつ爽快感のある作品は本書だけだと思うほどだ。あなたもぜひ新しい視点で見る歴史を体験してみて欲しい。

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