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ストレンジャー・ザン・パラダイス 23

裏口から台湾料理屋を出た僕らは移動式弾薬庫に乗り込み、ザジのナビに従って目的地に近付けるところまで近付いてから降りた。

男3人で荷物を、いや正確には武器弾薬をヘッドライトの明かりの前へと運ぶ。こんなに積んであったのかというくらい次から次へと荷台から様々な荷物が出てくる。全てをヘッドライトの前に拡げるだけで30分くらいかかったんじゃないだろうか?店主は迷わずゴルフバッグを開け、やたらと長くて重そうな銃を引きずり出した。

「本当はお前と再会せずに済めばそれが一番いいんだがなぁ」と感慨深げに漏らした後、その銃のあちこちの点検を始めた。まるで予期せず会うことになってしまった旧友同士のようだった。

「あれはあの人の銃なんですか?」と僕はキリストに聞いてみた。

「ああ、あれは64式と言ってね。今の自衛隊がメインの小銃にしようとしている89式の先輩、と言えば聞こえはいいが要は旧式の銃だ。彼の古女房みたいなものだよ。彼は元レンジャーなんだ」

「そうなんですか?」と店主に尋ねる。

「ああ、一緒にあちこちを這いずり回った相棒だよ」

「何でまたレンジャーから台湾料理屋に?」

「簡単だ、自衛隊のメシは俺が作るメシよりマズいんだ。加えてレンジャーとして大規模な合同演習や何かに参加すると、普段よりさらに味気ないメシを食って、とんでもない広さの演習場を駆け回らなきゃならない。それはとてもつらいことだ。メシを食うために自衛隊に入ったのにロクなメシは食えないし、自衛隊ってだけで、自衛官ってだけで何かと批難される。そいつはけっこうつらいことだよ。だから俺はこいつと別れて中華鍋を選んだ。それだけだ」と店主は弾倉に弾を込めながらあの店の成り立ちを教えてくれた。

キリストは少しだけ肩をすくめると、自分も拡げたものを漁り始めた。たぶんキリストにも得意とする武器か何かがあるのだろう。

だが僕にはこのザジの方がずっと扱いを熟知している、僕とはまだぎこちない関係の拳銃しかない。

僕が「何かP99以外で自分でも使えそうな武器はないだろうか」と拡げたものを物色していると、ゴルフバッグの中から金属バットが出てきた。よし、これで行こう。

僕と同じように探し物をして下を向いていたキリストが急に体を起こした。

「なあ、何かおかしいとは思わないかい?」とキリストは僕らに言った。僕らには何のことを言っているのか分からず顔を見合わせる。

「やつらは、鉛筆たちは何かを、何かしらのルールを変えたはずなんだよ。そのために彼、ルールブックを探し出して接触した。だけど今のところ私たちには何が変わったのか分からない。鉛筆はルールブックに何を書いたんだ?」

僕と店主は再び顔を見合わせた。思い付きもしなかったが言われてみればそうだ。

「聞いてみれば分かるんじゃない?それか鉛筆を全部燃やせばどのみちルール無効」と冷静な口調でボンネットの端に腰かけたザジが言う。

「座寺の言う通りかもしれないね。私たちが1本も残らず鉛筆を燃やせばルールブックはまた白紙に戻すことができる。杞憂だったよ」とヘッドライトに照らし出され、文字通りの意味で後光が差したキリストは苦笑した。

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