鯖味噌

ストレンジャー・ザン・パラダイス 9

「はぁ……」と僕は曖昧な相槌を打った。


「言うなればまぁ、何と言いうか君は要石のようなものだったんだ。チベットにとってのダライ・ラマみたいな。それが動いてしまったんだ、一大事だよ」と食卓の向こうの栄養状態のいいキリストは言った。

「僕が何をしたっていうんですか?僕は単なる会社員ですよ?わけも分からないまま月曜日になってて僕は無断欠勤だ」

キリストは穏やかな顔で言った、「心配ない、私は友人が多くてね。友人の医者経由で君は心臓発作で緊急入院していることになっていて、病気療養での休職の書類も揃えてある」

「何だってそんな……」

「まぁ聞きたまえ。これからは本当に心臓発作を起こしかねないようなことが君に次々と襲い掛かるだろう。あの男が来たからな」

「あの男?もしかしてゼンリンの?」

「ああ、あの男は君のスイッチを入れに来たんだ。そして実際にスイッチを入れて君を動かしてしまった」

「僕が動いたところで何がどうなるっていうんですか?」

「例えばポールシフトという現象がある。地球の磁場が反転してしまうんだ。詳しいことはまだ人類の科学では解明できていないが、それは数万年、あるいは数十万年の周期で起きていると推測されている。君はそれを引き起こしてしまう人間なんだよ」

何だかどうでもよくなってきたので、僕は返事も相槌も返さずに目の前の鯖の味噌煮を無言のままつついた。

居間の奥、台所の方からザジの「まだ鯖あるけど食べる?」という声が聞こえた。

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