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ストレンジャー・ザン・パラダイス 19

店内は中華料理屋的な赤や金の派手な内装というより、思ったよりも落ち着いた色調でまとめられていた。


「やぁ、来たよ」とキリストが入り口で声をかけると、厨房の奥の方から坊主頭の小太りの店主らしき男が煙草を片手に出てきた。

「おぉ、来たか」とキリストとにこやかに握手を交わしながら挨拶をしている時、僕は気付いた。

あぁ、あれの匂いか。飯屋の店主がガラム吸ってるっていうのは初めて見たぞ。


店内にはどこかで嗅いだことのある甘い匂いが染み付いていたのだ。僕は煙草の銘柄はあまり知らなかったが、あの煙草の強烈な匂いは忘れようがなかった。

「どうだ、今は昼の営業終わって休憩中だけど飲茶くらいは出すぞ?」と店主が僕らに尋ねた。確かに昼の3時半を回ったくらいではあったがキリストと僕は丁重に断り、お茶だけはもらうことにした。ザジは点心を頬張っている。

「成長期なの」とザジは説明するように言った。

「で、その兄ちゃんがそうなのか?」と店主は僕を眺めながら聞いた。

「あぁ、探し出すのにはかなり時間がかかった。そして思っていたよりもあいつらが動くのが早かったんだ」とキリストが答える。

「久々に俺に連絡をよこしたんだ、何かまだ打つ手はあるんだろう?」

「あぁ、でもまずは彼の安全を確保しなければそれも難しい。だから先にあいつらを叩く」

「じゃあやるんだな?」

「ああ、ちゃんと必要な道具は持参してきている」

何て物騒な会話なんだと思いながら僕は店内を改めて見回した。僕は中国語に関しては北京語やら広東語やら様々な方言のようなものがあり、語尾の上げ下げだけで意味が変わったりするらしい、というくらいの曖昧な知識しかない。もちろん読めもしない。ニイハオの正しい発音も知らない。

「おっ、兄ちゃん気付いたか?うちは中華なら色々出してるが、正確には台湾料理屋なんだ」と店主が言った。

「そうなんですか?」

「中華料理と大きな括られ方をされやすいが、ご当地料理みたいなもんで色々な種類があるんだ」と店主は嬉しそうに語って聞かせてくれた。キリストは慣れているらしく少し困った顔をして、ザジは相変わらず点心を頬張っていた。敵の殲滅に向かう前とは思えない、ゆったりとした時間が流れた。

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