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ストレンジャー・ザン・パラダイス 22

ふと手札から顔を上げ、申し訳程度に壁にかかっている時計を見ると、UNOもそろそろ終わりだろうという時間になっていた。少々のめり込みすぎたかもしれない。

ちょうどいい、なかなか聞くタイミングがなかったことを聞いてみよう。

「みなさん、そろそろお時間だと思うんですが、僕から聞きたいことがあるのでUNOを切り上げてもらえますか」

僕がそう言うとキリストの顔にあからさまに生気が戻った。さっきまで生きてるのか死んでるのか分からないような状態だったくせに。

店主とザジは不服そうに手札を伏せた状態にしてテーブルに置いた。店主は残りが4枚、ザジは6枚、店主が初めてウノ1番乗りしそうな流れでゲームが進んでいた。キリストに至っては本当にルール通りに手札を捨てているのかという枚数だった。

「とりあえず僕が何かしらとても重要な存在らしいという説明は受けました。でもあなたたちは何者で、今から殲滅することになるらしい連中が何なのかの説明はまだ聞いていません。できるだけシンプルに、簡潔に教えてくれませんか?少なくともあなたたちは僕に危害を加えないだろうということは理解しましたが、僕は今から誰かを殺すかもしれないんです。なぜ連中を殺さなければいけないのか、根拠になるものを下さい」


「あんたはルールブックだ。でもルールはひとつも書かれてないコピー用紙1枚みたいなもんだった。ちょっと前までな。そしてあいつらは鉛筆だ。あいつらはそのルールブックに自分たちの都合のいいデタラメなルールを書いた。俺たちはあいつがそのルールブック自体を燃やして、絶対に修正できないようにしようとしてるのを阻止した。少なくともあんたというルールブックはまだ存在してる。俺たちは消しゴムだ。あいつらの書いたルールを全部消せる。でもただ消すだけじゃ鉛筆たちがいつまたルールを書き込みにくるか分かったもんじゃない。だからその可能性を排除するために、これから鉛筆を全部燃やしに行く。これでいいか?ルールブックの兄ちゃん」と、とてもぶっきらぼうに、でもシンプルかつ簡潔に店主は僕の聞きたかったことに回答する。


そして「さぁ最後までやろうぜ、俺にも1回くらい勝たせてくれよ」とニヤニヤしながら4枚の手札を再び手の中で広げた。

最後のゲームは予想通り店主の初勝利で終わった。

「じゃあみんなで鉛筆どもを燃やしに行こうじゃないか」と移動式弾薬庫の鍵を握って嬉しそうにキリストが言った。

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