電話ボックス

ストレンジャー・ザン・パラダイス 6

嫌な予感がした、正確には嫌な予感しかしなかった。


僕はこの部屋に引っ越してきて数年になるが、様々な面で微妙な物件にも関わらず住み続けているのは、家賃の安さと誰も訪ねてこないことが割と大きな要因だった。それが今初めて破られたのだ。しかも夜の9時過ぎだ、絶対にロクな客ではあるまい。僕は無視することにした。静かに冷蔵庫から水を取り出し、ソファーにゆっくりと腰掛け、水を飲みながら客人が去るのをじっと待った。

だが、一定の間隔を開けてノックは続き、時計は10時半を回った。勘弁してくれよ。

根負けした僕はソファーから立ち上がり、仕方なくドアを開けた。

そこにいたのは驚くべきことに、電話ボックスの中で10円玉を積み上げていた女の子だった。彼女は言った、外見からは想像もできないような低い声でこう告げた。

「行きましょう、逃げるのよ」

「はぁ?」

「説明している時間も惜しいの、誰かさんがなかなか出てこなかったせいで」

「ちょっと待ってくれ、君は誰だ?それにあの電話ボックスはどうしたんだ?」

「それも後回しよ、とにかく来て」

その時背後で窓ガラスが砕ける音がした。振り返るとカーテンやカーペットが燃えていた。火炎瓶だ。

「急いで」と彼女は言った。

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