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ストレンジャー・ザン・パラダイス 1

 まるで青いカレーを食べてるみたいな気分だよ。

確かにカレーの味がするのに、何かが決定的に失われてしまっているんだ。
そんな感覚がいつまでも残っていて、何をしてもそれ満たされない。いつの頃からだろうか?ずっとそんな感じがしている。


「警察署に強盗に入る馬鹿はそういないだろ?まぁ、何ていうかそういうことが言いたいんだよ」

その男は最初に僕に向かってそう言った。

季節は真夏で、土曜日で、全国のどこでも30℃超えの気温が観測されている時期だ。それはこの浜松市内でも同じだった。

僕は自分が何を言われているのか、どういう状況にあるのかを把握するのに数秒かかった。簡単に言えばここは夜10時を回った頃のバーのカウンターで、その男は僕が店に入った時点でだいぶ酔っていて、声をかけられる前からカウンターに肘をつき、手の甲にに頭を乗せてブツブツ何か言っていた。僕は比較的頻繁にそのバーには足を運んでいたが、こんな男は見た覚えがなかった。

「あんたのことだよ。あんたはどこまでも調子っ外れなんだ。もっと最適化するべきなんだよ」

と男は再び僕に向かって言った。ますます分からない。


「俺か?俺はなぁ、社員なんだよ。こう見えてもゼンリンのな。それであちこちを歩き回ったり測量したりして、どうにかこうにか毎年全国のあらゆる土地の詳細な地図を作ってるんだ。それでなぁ、そうやって全国をフラフラと旅をするような生活をしてると、行く先々であんたと似たような人を見かけるんだ。全国回っててそうなんだから、これはもう一種の国民病だぜ?俺はそういう人をゴマンと見てきた、だから分かるんだ。あんたは難しく考えてるかもしれないが、本当は簡単に治るんだよ。この近くに砂浜があるだろ?明日は日曜だ、その浜に行ってみろよ」

僕は海があまり好きではない。理由は簡単、見飽きたからだ。しかしそのわけの分からないゼンリンの男の言葉には奇妙な説得力があった。
「分かりました、明日行ってみます。ありがとうございます」と言い、その日はそのまま支払いを済ませていつもよりは早く眠りに就いた。男の払いは1杯分だけおまけで払っておいた。

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