タクシー

ストレンジャー・ザン・パラダイス 7

「待ってくれ!まだジョーンが!」

彼女は冷静に言った。

「あの子は大丈夫よ、ドアさえ開けておけばね」

「付いてきて」と言うと彼女は振り返りもせずに階段を駆け下りていく。

次々に窓ガラスは割れ、部屋はどんどん火に飲まれていく。

「クソッ!クソッ!」

僕は彼女に付いていくしかなさそうだった。

10円玉の女の子はものすごい速さで坂を駆け下りていく。ストライドは僕の方が大きいはずなのに、付いていくのがやっとだ。彼女は通りに出るとすぐさまタクシーを捕まえて後部座席に滑り込み、僕にも乗るよう目で促した。僕も乗り込んだ後、タクシーは動き出した。僕が乗り込む前に目的地は伝えられているのか、運転手は何も言わずにあちこちへハンドルを切り進んでいく。

「なぁ、何がどうなってる?何で僕の部屋に火炎瓶なんかが」

「それはもちろんあなたが邪魔だから」

「僕が何をしたっていうんだ?そもそも君は誰だ?」

「私はザジ。目的地に着いたら色々と説明する。今は少し休んでた方がいいわ」

「そうかもな…ジョーンが無事ならいいけど……」

まるで一服盛られたみたいに僕は再び眠りの中に吸い込まれていった。

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