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柑橘類と贈与論

 Wikipedeiaによると、「タンカン(桶柑、短柑、学名:Citrus tankan)は、ミカン科の常緑樹。ポンカンとネーブルオレンジの自然交配種のタンゴール (tangor) の一種である。」らしい。ここではこの柑橘類がたくさん栽培されている。どれくらいたくさん栽培されているかというと、島外へと輸出し、果実以外でもジュースだジャムだキャンディだと様々な加工品にして店頭に並べて売ってもまだ地域内では消費しきれないほどだ。そこで個人的に面白いと思っていることが起こる。単なる余剰に生産された柑橘類が変身するのだ。

 もちろん離島なので、どの方向へ進もうが真っ直ぐ進んでいるなら絶対的に海へと出る。なのであちこちに小さな漁港があり、大した漁獲量はないが様々な種類の魚が水揚げされ、趣味で釣りをする人も多いし(なので巨大な魚拓が壁に飾ってある飲食店や居酒屋がけっこうある)、夏には休暇を利用し海水浴やシュノーケリングやダイビングを楽しむためにたくさんの観光客が来る。
 当たり前だが、漁師でタンカンを栽培している人はいない。少なくとも俺は聞いたことがない。彼らが親戚や知人・友人などからタンカンをもらうとどうなるか?それはセリにかけられないような魚介類に変換される。つまり余剰なタンカンは市場を介さない形でも流通し、半ば物々交換のような形態のやり取りの中で消費されていく。例えば農家が余らせたタンカンが漁師を介して魚介類に変わり、その魚介類が余った場合はさらに近所へのおすそ分けによってタンカン農家が栽培していない野菜に変わったりする。マルセル・モースやレヴィ・ストロース的な贈与論に片足を突っ込んだ世界はまだ日本に存在している。単なる物々交換に留まらず、円滑な人間関係の構築や近所との顔つなぎとして、交換すること自体に意味や価値が発生する。だからタンカンはむしろ余らせる必要すらあるかもしれない。


 そんなことを考えながら俺はこたつの上のミカンの皮を剥いている。例年通りなら2月初旬頃から1ヶ月ほどの間、タンカンを介した交換と交流はあらゆる場所で行われる。もうすぐ物々交換の季節だ。

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