ヤン爺

ストレンジャー・ザン・パラダイス 4

もしかして、僕はルイス・キャロル的なデタラメな夢の世界にでも迷い込んでるんだろうか?


まだ何が起きているのかうまく把握できていなかった。でもあのゼンリンの男に会ってから、何かがズレ始めているような気がした。だけどもしそうだとしても僕には戻し方が分からない。あの男は僕がズレていて、それは簡単に修正できるというようなことを言っていた。だとするとこっちが正しいのか?

そんなことを考えながらホームセンターに向かって歩く。別に電動ドリルを買おうというのではない、キャットフードはスーパーよりもホームセンターで買った方が安い。

店内に入り、ジョーンの好きなキャットフードがいつも置いてあるコーナーへ向かう。あった、このホームセンターは毎週日曜日には消費税分の値引きをしている。ジョーンの好きなキャットフードには数種類の味のバリエーションがあり、僕は毎回それをローテーションのように変えていた。何しろ毎日缶詰を与えると高くつく、簡単な飽きられないための工夫というわけだ。確か前回はササミ味を与えていたので、今回は野菜メインのツナ味にしよう。そう思いツナを探す。

そこで僕はあのゼンリンの男とばったり再会した。男は火の点いていない煙草を咥え、カートに犬用も猫用もお中元のギフトが何箱も作れそうなほどの缶詰を満載していた。もちろんあまり嬉しくはない。

「よぉ、浜はどうだった?」とゼンリンの男は片手を挙げ、僕に当たり前のように声をかけた。

「まさか浜にあったあれはあんたのだったのか?」

「あれってどれだよ?俺は浜には行ってない、浜に俺のものがあるはずはない。でも何かがあったんだな?そいつはよかった。あんたが見た何か、それがあんたのズレの象徴みたいなもんだ」

「象徴?あれがか?」

「あぁ、あんたの周りで何かが変わり始めてるはずだ、違うか?それはどんどんギアを上げて加速していくはずだ。振り落とされるなよ」

そう言い残し、ゼンリンの男はレジの方へと消えた。


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