ストレンジャー・ザン・パラダイス 8
「着いたわよ」とザジに起こされる。
どこだここは?
もう空は白み始めていて、周囲には杉くらいしかしか生えていないように見える。料金メーターはすごい金額を示していた。僕は今までで一番高いタクシー代を支払い、車を降りた。ザジはしばらくタクシーの中から周囲の様子を伺っているように見えたが、少し後に降りてきた。
「ここは?」
「だいたいは掛川の辺り、近くに寺があるの。正確には私たちのアジトのようなものだけど」
「アジト?」
「そう。すぐ近くよ、ついてきて。そう簡単にあの部屋には戻れないわよ。だってあなた殺されるもの」
「僕が何をしたっていうんだ?命を狙われるほどまずいことをした心当たりはないぞ?」
「それはこれから説明するわ、とりあえず行きましょう」とザジは歩き出す。僕にはここがどこの山中なのかすら分からないので、また付いて行くしかなかった。
それはかなり立派な寺のように見えた。庭では数人の坊さんたちが無言で竹箒を使って掃き掃除をしていた。ザジは無言のまま彼らの前を横切り、寺の後ろの方へと進んでいく。彼らに会釈を返しながら僕は後を追うしかない。
驚いたことに、寺の真裏にはごくごく普通の小ぢんまりとした民家があった。住職か誰かが住んでいるのだろうか?ザジはその玄関を無言のまま開けた。鍵はかけていないようだ。
「父さん、連れて来たわよ。少なくともまだ生きてる」
奥の方から出てきたのはプロレスラーかと思うほどの巨体で長髪で髭まみれの男だった。まるで栄養状態のとても良好なイエス・キリストかWWEのロマン・レインズのようだ。今にもはち切れそうなタイダイ染めのグレイトフルデッドのTシャツを着ている。
「やぁ、無事でなによりだ。上がりたまえ。腹も減ってるだろう?」とその男は言った。とてもひどい気分だ。
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