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記事コメ:コロナ感染で上昇の精神・神経疾患リスク、2年後も高レベル

表題の記事がある論文を紹介してくれているので少しコメントしていこう。論文はLancet Psychiatryに掲載された「Neurological and psychiatric risk trajectories after SARS-CoV-2 infection: an analysis of 2-year retrospective cohort studies including 1 284 437 patients」である。

記事にもある通り、この論文では感染がもたらす長期的な影響を2年という長い時間軸で調査した、初の大規模な研究であり、さらに異なる変異株の出現によってこうしたリスクがどのように変化したかについての報告としても初めてのものである。そして、今回の研究によって過去およそ2年間に新型コロナウイルスに感染した約130万人の電子カルテを分析した結果、新型コロナウイルスと診断された人はその他の呼吸器感染症にかかった人と比べ、感染から2年がたった後も、認知症、Brain fog、てんかん、統合失調症などの精神障害の症状を発症するリスクが高くなっていたことが分かった。つまり既存の感染症などとは明確に異なる神経疾患リスクが、しかも長期に渡って存在するということだ。

記事では

──感染後に精神・神経疾患を発症するケースが多いのはなぜか、そのメカニズムは、いまだ解明されていない。

と締めくくられているが、今まで何度も伝えている通り、新型コロナウイルス最大の脅威は神経系感染である。しかし、記事はもちろん、論文でもその点の考察が不十分である。論文でそれに関連する参考文献の引用なども非常に不適切であり、メカニズムの考察でさらっと触れているRef25の「Central nervous system outcomes of COVID-19.」(Transl Res. 2022; 241: 41-51)というレビューを読めばその辺りが出て来るという遠回しな状態である。余談だが、このレビュー自体は神経系と新型コロナウイルスに関してよくまとめられているので基礎情報として一読の価値はある。

なぜ、ここまで神経系感染のリスクを正しく評価することも、まして報道することもしないのか。最大の理由は「どうしようもない絶望的情報」だから見なくていいなら見たくないということかも知れない。呼吸器症状が急性期において最も重大な症状であり、歴史的にも呼吸器感染症ウイルスであり、中枢神経系という「簡単に調べることが不可能であり、調べる必要性を過小評価することが容易なウイルス」であることが、「積極的な解明」から状況を遠ざけている。以前述べた通り、中枢神経系に潜在的に感染したウイルスは、それを検出することも難しく、事実としてほとんど調べられていない。一方で、新型コロナウイルスに関しては間違いなく複数の報告が中枢神経系へのウイルス侵入を示している。「調べれば出て来る中枢神経系感染が調べられていないだけ」というのが現状なのだ。既に述べた分子生物学的な機序も含め、総合的にこのリスクを正しく評価しなければ新型コロナウイルスに関して正しいリスク評価をすることは不可能であり、適切な対策も取れないということになる。

そして以前の記事でも述べた通り、神経系症状に対するワクチンの効果も限定的であり、感染対策の徹底が非常に重要であることも再度記しておく。

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