見出し画像

論文紹介:新型コロナウイルスの長期的残存とT細胞活性化

今日は最近記事などにもなっていて話題になっている論文を紹介しよう。論文は以下のものである。

「Tissue-based T cell activation and viral RNA persist for up to 2 years after SARS-CoV-2 infection」
(Sci Transl Med . 2024 Jul 3;16(754):eadk3295. )

さていつも述べている通り、新型コロナウイルス最大の問題は長期的な中枢神経系感染と神経系症状である。その他の機序による長期的な後遺症も存在するが、現状ではあらゆる症状をひとくくりにしているので何とも考察が進んでいない。少なくとも私は潜伏的な中枢神経系感染と中枢神経系症状が最も危険だと考えているし、その他にも免疫系の異常や呼吸器系・循環器系に残ったダメージによる後遺症もあるだろう。

この論文では、かなり明確に新型コロナウイルス感染の長期的な危険性を調べている。感染後27日から910日までの時点において、24人の参加者からなる十分に特徴づけられたコホートにおいて、放射性医薬品である[18F]F-AraGを用いて全身ポジトロン断層撮影を行っている。これはミトコンドリアの代謝トレーサーであり、ここでは活性化T細胞を検出することができる。新型コロナウイルス感染の急性期後群では、症状の継続の有無にかかわらず、脳幹、脊髄、骨髄、鼻咽頭および肺門リンパ組織、心肺組織、腸壁など多くの部位で、流行前の対照群と比較してトレーサーの取り込みが高かった。また、脊髄と腸壁におけるT細胞の活性化は、後遺症の存在と関連していた。つまり、持続的な新型コロナウイルス感染の維持や、免疫細胞の活性化が症状の有無にかかわらず引き起こされており、それらが一定の割合で後遺症を引き起こしていると考えられる。特に中枢神経系に関しては通常侵入しないT細胞の活性化が見られるということなので、脊髄血液関門の破壊などが起こっている可能性も高い。長期的な神経症状の危険性が示唆される。

さらに、肺組織におけるトレーサー取り込みは、特に肺症状が持続する患者で高かった。これらの組織におけるT細胞活性化の亢進も、後遺症がない多くの人において観察されたらしい。たとえ粘膜上でウイルスが検出されなくなっても、あらゆる組織において新型コロナウイルス感染が持続し、関連する症状として顕れるのだろう。

大腸組織においては実際のウイルス持続感染が起こっているかどうかについても調べられている。以前も述べたが、神経系など組織におけるウイルスの持続感染は粘膜などと違って気軽に調べられない。この論文では後遺症症状を有する5人の参加者のサブセットで、ウイルスRNAのin situハイブリダイゼーションと免疫組織化学的研究のために大腸組織を入手している。その結果、5人全員の直腸S状結腸平膜組織で細胞内SARS-CoV-2一本鎖スパイク蛋白コードRNAが同定され、3人の参加者では初回COVID-19から676日後まで二本鎖スパイク蛋白コードRNAが同定されたことから、組織内ウイルスが長期に持続しており、それが長期にわたる免疫学的障害と関連している可能性が示唆されている。

大事なことなので何度でも言うが、新型コロナウイルスは既存のウイルスとは全く異なる危険性を持つウイルスである。短期的な呼吸器症状など見かけの危険性に過ぎない。長期的な潜伏性持続感染、特に中枢神経系におけるそれは非常に危険な長期的悪影響をもたらす。いつも言っているが中枢神経系における感染は調べることが非常に難しく、今回の結果を踏まえると感染した事のある人間は一定の割合でウイルスが残存していると考えるべきだろう。また、ワクチンの効果も中枢神経症状に関しては限定的であり、基本的には感染対策の徹底しか有効策が無い。新型コロナウイルスが如何に恐ろしい性質を持っているのか科学的な知見からよく理解する必要がある。短期的に脅威でなければ長期的な悪影響は気にしないというのは、例えば同じ五類のウイルスで言うと短期的には発熱くらいしかないHIVウイルスによるAIDS発症を気にしないというレベルの愚行である。五類だろうと短期的に影響が無かろうと、長期的に危険なウイルスに対する対策を徹底するのは当然なのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?