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コラム:免疫力を高める

今日はゆるい話題として、免疫力を高めるにはどういう事が大事なのか、日常生活における行動を主眼に置いて考えてみたい。

以前、「自然免疫」という言葉の正しい科学的な使い方(Innnate Immunity)をお伝えしたが、ここでは主に「自然な免疫 (natural immunity)」を高く保つ方法をおさらいしていこう。

①暖かくする:何はともあれ、私が最重要視するのは体温の維持である。免疫系が様々な細胞の働きによって外来抗原を排除する事は以前に述べた通りだが、これらの細胞は37℃くらいで最も元気に活動する。「熱が出る」というのは免疫系が反応した結果であるのだが、高温によって病原体にダメージを与えると同時に免疫細胞を元気にして機能を高めるのだ。昔から身体を冷やすと風邪を引くと言われたものだろうが、恐らくこれも免疫力の低下に関係がある。と言ったところで、実はこれが部分的にでも証明されたのは2015年と最近だったりするのだが(Proc Natl Acad Sci U S A. 2015 Jan 20;112(3):827-32.)。いずれにしても、身体を温かくすることは免疫力を高く保つ上で重要である。身体を冷やす事は控え、お風呂から出たらすぐに寝よう。

②良く寝る:睡眠は免疫反応を十全に発揮する上で重要である。実はいくつもの研究が睡眠中に免疫系が活発に機能する事を示している。病原体の排除や癌細胞の排除なども睡眠中が最も効率良く行われる。つまり、睡眠が不足すると、その様な免疫細胞の活動期が不足するという事になるのだ。お風呂から出たらすぐに寝よう。

③栄養を取る:当たり前の事だが、栄養は重要である。特に免疫系の細胞は、身体の中の細胞の中でもトップクラスに「増殖」や「移動」が活発な細胞だと言えるだろう。それに加えて、既に紹介した様なあらゆるメカニズムによって外来抗原排除を頑張っている。つまり、それだけ多くのエネルギーを使用する細胞である。栄養が不足すると免疫細胞が十分に活動できなくなる。ちなみにどの様な食べ物がどういう風に良いとか、細かい事を語り始めるとそれだけで1記事になってしまうので、ここではバランスよく十分な栄養を取る事を勧めるにとどめておこう。

④適度な運動:適度な運動は免疫系を活性化すると昔から言われている。代謝機能の亢進は上記の栄養学的な状態を改善するし、筋肉の程良い損傷は自然免疫系の活性化やサイトカイン産生を誘発する事も示されている。一方で、一般の方はあまり知らないかもしれないが、強過ぎる運動は免疫力を低下させる事も昔から言われている。過度に強い運動負荷はストレスホルモンなどの産生を誘導し、感染症のリスクを上昇させる事が十分に示されているのだ。これらはいくつかのレビューでもまとめられている(Med Sci Sports Exerc. 1994 Feb;26(2):128-39.など)。免疫力を高く保つためには「適度な運動」をしよう。

⑤ストレスをためない:④で少し触れたが、ストレスホルモンは免疫力を低下させる。代表的なストレスホルモンとしてグルココルチコイドがあるのだが、これはステロイドホルモン、ステロイド剤として免疫抑制剤に使用されている類のものである。それ以外にもあらゆる神経系と免疫系の相互作用機序が存在するのだが、精神的なストレスが免疫力に悪影響を及ぼす事は間違いない。そんな事言われてもどうしたらいいのかと言われそうだが、ストレスを無くそう。

⑥飲酒・喫煙をしない:程度問題であるが、飲酒や喫煙が免疫力を抑える事も科学的に証明されている。これらが第一に起こす免疫系の異常は、「組織バリアの破壊」である。実はエタノールは細胞を直接的に傷害する物質であるが、喉の粘膜などはある程度の飲酒で簡単に破壊される(これは飲み過ぎると実感があるだろう)。この状態は「免疫器官」である粘膜組織の破壊、最外部の免疫応答機能低下を示している。喫煙も同様に気道や肺組織の破壊により、免疫機能を低下させる。加えて、エタノール(過量の場合)にしろ、ニコチンにしろ、血管収縮作用を有しており、免疫細胞の循環を阻害する。また、喫煙に関しては含まれる物質そのものが免疫細胞に悪影響を及ぼす事も示されている。

余談だが、感染症対策で飲み会が問題視される本当の理由は、上記の内容を鑑みれば理解出来る。その場で感染が広がるとかいう問題を無視しても、「睡眠不足」「栄養の偏り」「体温の低下」「飲酒喫煙」と言ったマイナス要素がてんこ盛りなのだ。「ストレス」はこの点にも拍車を掛けるだろう。免疫力を最上に高く保つためには、総合的な人生管理が必要と言えるかもしれないが、各々が自身の環境を踏まえて、控えるべきところは控え、バランスを取って体調管理する事が大事だろう。

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