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I型IFNに対する自己抗体とCOVID-19および核酸ワクチン

今回は表題の通り、新型コロナウイルスやそれに対するワクチンとI型IFNに対する自己抗体について紹介したい。

特に触れて来なかったが、新型コロナウイルスの重症化要素の一つにI型IFNに対する自己抗体が知られている。2020年のScienceの論文が重篤なCOVID-19肺炎患者987人のうち少なくとも101人が、重症化した時点で、何らかのI型IFNに対する自己抗体を持っていたと報告しているのだ(Science.2020 Oct 23;370(6515):eabd4585.)。I型IFNは抗ウイルス作用を持つ重要なサイトカインである。それに対する自己抗体はその働きを中和し、抗ウイルス作用を減弱させてしまうということだ。

抗IFN抗体は加齢に伴って増加することや、男性に多い事が知られており、これらも新型コロナウイルスの重症化要素と相関している。上の報告以降、類似の報告は国内外で複数出ており、少なくとも「相関が高い」現象であることは間違いない。また、いくつかの自己免疫疾患においては抗IFN抗体が高い事が知られているものがあり、それらの患者については感染前後での抗体価や重症化などについて関連が調べられている。総合的に、「感染する前から抗I型IFN抗体が高い人はCOVID19重症化リスクが高い」というのが確からしい事として言われている。

一方で、この相関については原因か結果か判然としないケースも多い。当然ながら新型コロナウイルスが体内で大量に増殖するような状況では、大量のI型IFNが放出される。その結果として抗IFN抗体が産生されるようになったケースが否定できないからだ。感染前から調べていればどの時点で抗IFN抗体が上がってきたのかが分かるのだが、多くの場合、その様な調査は不可能である。上記の様に、元から自己免疫疾患の患者など少数の例でのみ、その様な前後関係が把握できるだけなのだ。仮にこのケースが一定割合であるとすれば、事前に「抗IFN抗体量」を調べても重症化予測としては不十分になる。「抗IFN抗体を産生する遺伝的な素養」があるかどうかまで注目しなければならない。

少し専門的になるが、「抗IFN抗体」の産生には胸腺での生理学的な何かが関係しているだろう。胸腺の髄質領域の希少な上皮細胞で発現し、中枢性の免疫寛容に関与している「AIRE」という遺伝子の異常が原因で発症する自己免疫性多腺性内分泌不全症(APECED)という病気がある。このAPECEDにおいてはほぼ100%抗I型IFN抗体が産生されていることが知られており、胸腺における寛容の異常が抗IFN自己抗体の産生に関連していることがうかがえる。一方で、この辺りの機序や生理的意義については不明な点も多く、まだまだ研究の必要なフィールドである。胸腺に於ける中枢性の免疫寛容については免疫学の分野でも非常にマニアックな領域に突入するが、機会があればその内記事を作ってみよう。

これらを踏まえて最近気になる症例報告が出ていた(J Autoimmun. 2022 Aug 18;132:102896.)。この症例報告では、I型IFNに対する自己抗体レベルが、ファイザーのCOVID-19ワクチン・BNT162b2の2回目接種後に接種前と比較して増加し、3回目の接種後にさらに増加したということを示している。重要なことは、2回目のワクチン接種後、被験者は約6ヶ月間重度の皮膚炎を呈した点だ。これが過剰なIFN応答によって生じたのか、または抗IFN抗体の産生によって免疫が低下し、何らかの病原体によって生じたものか、その機序については議論の余地がある。また、論文中では抗I型IFN抗体の産生機序についても、①Sタンパク質とIFNタンパク質の類似性、②核酸シグナル活性化によるIFN応答の強い活性化(私もいつも訴えている核酸ワクチン特有の危険な反応)③脂質ナノ粒子など、アジュバント活性を持つ製剤による免疫活性化、などいくつかの仮説を提示している。いずれにしても、高い割合で発熱などの副反応が見られる=I型IFNを含む炎症性サイトカインが大量に産生される分子生物学的機序を孕んだ核酸ワクチンという製剤に特有のリスクとして、このようなことがあるという話だろう。

I型IFNによる免疫応答は、ワクチン効果や感染症に対する免疫応答を高めるだけでなく、慢性炎症性疾患の発症を加速させる諸刃の剣となり得る。BNT162b2などの核酸ワクチンによる中和性抗IFN自己抗体の産生が、一般集団においても抗IFN抗体の産生に伴う免疫機能異常を引き起こす可能性があることが見えたという内容であった。また、この現象はやはり新型コロナウイルスの重症化リスクとも関連があるため、抗IFN抗体の産生は注意深く観察すべき指標の一つとは言えるだろう。

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