日記(無題)

家に帰ったらリビングで妹が泣いていた。訊くと、定期試験の結果が返ってきたようだった。妹は俺とは歳が離れていて、今年で中学2年生だ。昔から勉強が苦手で、地元の公立の学校でも成績は下から数えたほうが圧倒的に早いらしい。

とはいえ、遊び呆けている様子もない。家で見かける妹は勉強していることの方が多いし、夜の10時近くまで塾に通っている日もある。少しでも成績を上げようと、俺に勉強を教わりにくる。父親も母親も中学校レベルになると学校の課題の内容が理解できないので、俺が教えるしかない。

何度も教えるのは難しいので、携帯のボイスレコーダーで解説を録音させている。それを何度も聴いて、ようやく理解したふうに見えても定着せずに忘れてしまうらしい。

教えていて感じることとして、妹は極端に想像力が無い。例えば数学の問題文を読んでも、示されている状況を頭の中でイメージすることができない。数学以前に言語処理能力がボトルネックになっているように感じる。そして、きちんと処理されず、像を結ばなかった情報たちはそのまま頭から滑り落ちていくのだろう。

塾に通っても勉強時間を増やしても上がらないテストの点数は、年頃の子供の自尊心を傷つけ、劣等感を植え付けるには十分だ。

定量化して評価しやすい技能が社会の都合によって恣意的に優遇されていて、子供たちの狭い視界は否応なしにほとんどそれらで覆われている。「テストの成績だけじゃ人間の価値は測れない」なんて言ってしまえるのは世界の広くなった大人の特権だろう。

かける言葉を考えているうちに妹は支度を済ませ、塾へと向かって家を出ていってしまった。

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