ちょっといやなやつのふりを

「ちょっといやなやつのふりを」

ちょっといやなやつのふりをしてみれば
世界は見ちがえてみえる

理不尽に怒る側から
怒られる側になるし
なにかの一員でいることも
ふつうじゃなくなるし

そんなこと全然嬉しくない
でも大丈夫
ちょっといやなやつなら
そんなこと別にどうってことはない

ちょっといやなやつなら
ちょっとくらい
いやな思いをさせても平気
だっていやなやつなんだから

傘の先っぽを人に向けても大丈夫
電車の座席に荷物を置いたっていい
定食屋で「ごちそうさま」を言って出なくても

ちょっといやなやつのふりをしてみれば
私たちというあの大きな
「たち」のところには含まれない
決して
本物の正義とやさしさのあるところ
そこに含まれない
それでも全然大丈夫
ずっとひとりでも全然平気
あまりにも長い間そうしていれば
それなりのやり方はわかってくる
だから全然平気

ちょっといやなやつのふりをしてみれば
あの気持ちも少しはわかる

身体にしみついたラベルだけみてはなす
首に毛のあるおじさんのことや
分厚い顔のこと
とつぜんの大声のこと
面白くないのにずっといるやつのこと

面白くないのが
自分でもわかっているのに
そこにいなきゃいけなくて
笑っているか
立っているか
面白くないことをして
あげくに人を傷つけて
笑いをとる
あのいやな
いやなやつのこと

きっとよくわかる
あと
あとはそう

なにくわぬ顔がわかる
なにくわぬ顔の
なにくわぬがわかる

なにくわぬ顔でただいるために
心臓の裏側が熱くなる感じと
かみしだく歯の強さがわかる
あいつはただ立っている

ちょっといやなやつのふりをしてみれば
世界はみちがえてみえる

ちょっといやなやつになればみちがえる

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