作業

巨大な氷を体の熱でもって融かす作業を行えと,突如教えられた気がした。目が覚めて間もないのでよく分からないが,それをやりきるとどうやら良いことがあるらしい。周りの目がそう言っている。ならば,ちょっとだけでもやってみるか。
続けていたら体が冷えてきた。震えてきたから,少しだけ融けた氷から身を離す。そうして震えが止まって,自問自答が始まる。どうしてそれをしているの? って声が聞こえるけど,明確な答えはしてあげられない。ただ,なんとなく。大変そうだし,辛そうだし,それならやめればいいじゃん,って言われたらすごく困る。それだけは言わないでくれって思う。気づいたらそうなってただけで,別に自ら望んで始めたわけじゃない。こうなると知っていたら,始めてなどいなかった。
アドバルーンはぷかぷか浮かんで「冷たくても気持ちいい!」って垂れ幕垂らして,宣伝カーは「あそこの生き物も頑張っていますよ」とかなんとか言っている。

当然のように存在する目の前の巨大氷。一度離れてしまったら,誰かに押し付けもされない限り,また触れる気にはならない。手を伸ばせば触れられる距離にあるのに,どうにも心が拒否をする。冷たいのは嫌だ。どうして,体を冷やしてまで,そんなことをしないといけないのか。そんなことをして,何か得られるものはあるのか。それともないのか。
ふと見回してみたら,周りにいたと思った人たちは別にいなくて,ただただしんとした夜だった。月の光が異常に落ち着いていて,自分の姿がはっきり夜に浮き彫りになった。自分の心が浮き彫りになった。それだけで終わった。

より純度の高い活動の支援に協力をお願いします。