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ADHD 調査

はじめに:
 5月になると、大学では精神的に不安定になる学生さんが多くなります。最近では精神科でADHDと診断されるケースも増えている、と聞きます。クラス担任を拝命された先生を念頭に、ADHDについて調べたことを書きます。実際には、校医の処置にまかせ、担任と教務委員はそれに従うのですが、処置の背景知識は必要でしょう。それで、こういうNoteを書きました。

調査1: ADHD (Attention Deficit Hyperactivity Disorder; 注意欠如・多動症)
記述日 2022年5月5日~7日
Ref.1: 村井俊哉「はじめての精神医学」ちくまプリマー新書387, 2021.10.10, ISBN978-4-480-68411-0 C0211.
Ref.2: 岡田尊司「ADHDの正体、その診断は正しいのか」新潮社, 2020.4.15, ISBN978-4-10-339382-5 C0095.

Ref.2は臨床医の優れた総説的解説本である。これを基にADHDの今日的問題点を知ることができる。
p.23に発達障害の分類がある。
発達障害={ADHD、自閉スペクトラム症(ASD, 広範性発達障害)、学習障害(LD)、知的障害、発達性協調運動障害、言語障害、コミュニケーション障害}
p.22にADHD診療の歴史が書かれている。
USAの3~17才児 ADHD: 5.5%(1997)→9.5%(2012)
LD: 7.8%(同) →8.0%(同)
1990年代までADHDは、成長とともに「症状が改善する」子供の障害であった。

近年2010年以降、ADHDと診断されるケースが増えている(LDは増えていない)。この不思議な増加が教育関係者が懸念している処である。
校医/学校指定医の診断の結果、下記の薬剤を投与することになる。担任はその事実を知らされるだけである。

中枢神経刺激剤、メチルフェニデート(塩酸塩)*, Methylphenidate Hydrochloride (® リタリン)の処方例の増加が書かれている。
その後、Methylphenidate 徐放製剤(® コンサータ)の使用例が爆発的に増加した。

*) https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-061.html, 厚生省e-ヘルスネットによれば; 
ナルコレプシーやADHDの治療に用いられる精神刺激薬。精神活動を高める興奮剤の一種。
中枢神経を刺激し、精神活動を高める興奮剤の一種です。
一般製剤の「リタリン」と徐放性製剤(薬の効果が長くなるように剤形を工夫したもの)の「コンサータ錠」があります。
「リタリン」は病的に眠気に襲われてしまうナルコレプシーという疾患にもちいられ、脳神経の活動を活発にして眠気を除去します。
「コンサータ錠」は、ADHD(注意欠陥/多動性障害)の治療薬として使用されています。不注意や多動性などを改善する効果があるといわれています。
メチルフェニデートは、安易な処方や不適切な服用による依存症が問題となり、その取り扱いは厳しい制限が設けられています。
--- 引用ここまで

<5/13追加> アトモキセチンはノルアドレナリン再取り込み阻害剤の一種である。®ストラテラ。
元々抗うつ剤で、ADHDにも効くらしいとなって認可を取った。中枢神経系の刺激薬であるメチルフェニデートとは異なり、アトモキセチンは非刺激薬とされ乱用性がない、とされる。
臨床医、加藤進昌氏(https://www.kyorin-pharm.co.jp › upload_docs)の見解: 漠然としたADHD的な症状にはストラテラ。
コンサータは覚醒作用があり過眠などにも効く。実行機能を良くするのはコンサータのほう。
--- 追加分ここまで

Ref.2, p.26から大人のADHDの事例が紹介されている。大学生のADHDはこのケースに近いだろう。
p.107にはADHD薬の効果が児童と成人に分けて、プラセボとの比較図が示されている。
児童ではプラセボ効果はほとんど無いが、成人ではプラセボの顕著な効果がある。
これは主観的な印象だけではなく、脳の血流量の変化から脳の各部分の機能の高まりを調べた、客観性のある調査である。
p.109には(ADHD薬物療法の検証)論文の著者の一部に製薬会社の資金が流れている、ことが記されている。
岡田氏は、大人のADHDは疑似ADHD、あるいは(ASD+ADHD)ではないのかと疑い、そのの事例が書かれている。
岡田尊司氏の達した結論は次である。

目の前に困っている症状があり、それを速やかに軽減できる薬があるとき、
その薬を使いたいという誘惑に抗するためには、
目先の利益ではなく、遠い将来を見据えた、確かな視座が必要である。

症状ではなく、根底にある問題を見据え、そこに手当をする。
薬物を使用するときのように劇的ではないとしても、
地道な内省とのかかわりの先にこそ、根治のへの道は続いている。

一方で、村井俊哉氏は次のように言明する。
精神医学は「精神科の病気」を持つ人に対しては、
精神科医師、看護師、心理師、精神保健福祉士、作業療法士、薬剤師などの専門職は「精神医学」という専門性を発揮して、他の種類の対人援助ではできないような支援ができる。

病気と医療との関係:
A: まず病気というものがある。それに対して医療が対応する。
この、あたり前が「こころの病気」を考える場合には、うまくいかなくなる場合がある。
<例示略>
B: 医療が対応できる状態がある。それに応じて「病気」の範囲が決まっていく。
このA,B間を行ったりきたりして、今日の病気の範囲、医療の守備範囲ができあがってきた。

---以上、ref.1/2の引用
精神科医は脳の挙動を主に薬物で「制御」する、ことを考えておられるように読めます。
一般教員は、成人となっている学生の精神活動に立ち入ることは出来ません。医師の措置を受け入れるだけです。岡田先生の論を実行するのは困難です。

脳の構造と機能はどうなっているのかを調べて見ました。

調査2: 脳の挙動 2022年4月25日~5月8日

Ref.3: 中野信子「脳内麻薬」幻冬舎、2014.1.30, ISBN978-4-344-98335-9 C0295.
本書は啓蒙書である。主に用語のindexとして使用し、詳細はnetで調べた。

p.25 脳の構造
1.小脳 運動をつかさどる
2.脳幹{間脳、中脳、橋、延髄} status of body, automatic controller
3.大脳
{前頭連合野(ブローカ領野)、
運動連合野、運動野、
体性感覚野、
頭頂連合野、
後頭連合野(視覚野)、
側頭連合野}
ーーーーー *は詳細調査語
大脳辺縁系*{腹側被蓋野(VTA)、偏桃体、側坐核、帯状回、海馬、線状体、黒質}
ーーーーー
脳幹→神経核{A1:16, B1:9, C1:3}、縫腺核
→大脳各部{前頭連合野、偏桃体、側坐核、帯状回、海馬}
p.28
A1:7 ノルアドレナリン
A8:16 ドーパミン
B1:9 セロトロニン
C1:3 アドレナリン
縫腺核 セロトロニン

詳しくは: https://www.akira3132.info/serendipity_neural_system.html
"Akira Magazine", "Serendipity Neural System Report", 2022.5.13, can be downloaded. を参照すること。
ーーーー
報酬系信号: 中脳(VTA:=中脳、腹側被蓋野)→A10→ドーパミン→側坐核
トリガー: 前頭連合野→グルタミン酸→脳幹
抑止: 側坐核→γ-アミノ酪酸(GABA)→脳幹
ーーーー
以上、脳内麻薬本の引用終わり。脳の「構造」以外に重要と思われる記述があった。

p.46 アルコール依存症のところで「ドーパミンの放出側や受け取る側の神経細胞自体が変化する」こと、その結果「アルコール依存が脳内に記録される」ことが書かれている。
それは脳神経が元の状態には戻れない変化である、と書かれている。ゆえに些細なきっかけで急にアルコール依存状態に戻る、と書かれている。

記憶というものの本質を明らかにしていると思う。そういえば免疫も記憶の一種です。Computer Scienceの世界からは見えてこない「記憶」です。

p.84 睡眠薬と抗精神病薬の段に「睡眠薬は向精神薬」「統合失調症の治療に用いられる」「同薬はドーパミン受容体を遮断」と書かれている。
p.85 多剤大量処方の段には「神経伝達物質の量を増減する薬剤は、脳の他の部位に影響が出る」こと、「同薬に副作用が避けがたい」ことが記載されている。
そして副作用が「別の精神病」と似ている、ことから次々と別の向精神薬を追加することになり、多剤大量処方になる、ことが記載されている。
Ref.1の村井教授の本にもp.123に睡眠薬の段に、多くの睡眠薬に依存性があることが書かれている。

これを読んで私の教務委員の頃の経験を回想すると、思い当たる学生がいる。その学生は結局、(発症前より症状が悪化して)日常生活が困難になり退学した。不幸にして精神科診療が失敗に終わったケースは公表されないので、ここに書いておく。

学生さんへ: Ref.1, p.169にenhancement*のことが書かれている。
*) 今の自分よりも集中力のあるpositive, 積極的な自分になりたい、という目的のために向精神薬を使うこと。
これは受験、資格試験時などに生じる潜在的願望かも知れませんが、この目的のために医師が処方することはありません。

脳構造 詳細調査:
大脳辺縁系(だいのうへんえんけい、英: limbic system)は、大脳の奥深くに存在する尾状核、被殻からなる大脳基底核の外側を取り巻くようにある神経細胞構造体である。
情動の表出、意欲、記憶、自律神経活動に関与している複数の構造物の総称である。 生命維持や本能行動、情動行動に関与する。
出典 https://www.akira3132.info/limbic_system.html
大脳辺縁系の主機能

1.大脳辺縁系構造
前帯状皮質 血圧、心拍数、報酬予測、意思決定、共感、情動
認知機能に関与。本能や自律神経、記憶を司る。
帯状回 呼吸器の調節、意思決定、共感、感情による記憶に関与。
扁桃体 恐怖感、不安、悲しみ、喜び、直観力、痛み、記憶、価値判断、情動の処理、交感神経に関与。
海馬 目、耳、鼻からの短期的記憶や情報の制御。恐怖・攻撃・性行動・快楽反応にも関与。
海馬傍回 自然や都市風景など場所の画像、地理的な風景の記憶や顔の認識に関与。
側坐核 快感を司っています。(GABAの産生)

前帯状皮質 ( 血圧・心拍数・情動に関連する部位 )
前帯状皮質(ぜんたいじょうひしつ)は、血圧や心拍数の調節のような多くの自律的機能の他に、報酬予測、意思決定、共感や情動といった認知機能に関わっているとされています。前帯状皮質が持つそれぞれの機能は、実行 (前側部)、評価 (後側部)、認知 (背側部)、情動 (腹側部) の4つの領域に分けられる。
前帯状皮質は前頭前皮質と頭頂葉の他、運動系や前頭眼野とも接続して、刺激のトップダウンとボトムアップの処理や他の脳領域への適切な制御の割当ての中心的役割を担う。

帯状回 ( 感情形成・呼吸・感情による記憶に関連する部位 )
帯状回(たいじょうかい)は、大脳新皮質の内側面において、脳梁の辺縁を前後方向に位置する。
領域の下端が脳梁溝で、領域の上端が帯状溝で区切られている。
帯状回は大脳辺縁系の各部位を結びつける役割を果たしており、感情の形成と処理、学習と記憶に関わりを持つ部位。呼吸器系の調整、感情による記憶にも関わりを持つ。
帯状回は視床、大脳皮質の体性感覚皮質領域からの入力を受ける。
帯状回の下部は、帯状束という白質繊維の束があり、大脳辺縁系の各領域を結びつける役割を果たしている。帯状束は、矢状方向(体の前後方向)で脳梁に沿いながら、前部帯状回、後部帯状回、海馬傍回を連絡する。

記憶に関わる神経回路はPapez回路と呼ばれ、帯状回が興奮する事で海馬 → 海馬采・脳弓 → 乳頭体(乳頭体視床路を通る)→ 視床前核 → 帯状回 → 海馬傍回 → 海馬体を結ぶ経路で持続的に興奮する事で情動が生まれ記憶に関与する事が知られている。(パペッツ回路)

偏桃体
扁桃体 ( 情動反応に関連する部位 )
扁桃体(へんとうたい)は、神経細胞の集まりで情動反応の処理と短期的記憶において主要な役割を持ち、情動・感情の処理(好悪、快不快を起こす)、直観力、恐怖、記憶形成、痛み、ストレス反応、特に不安や緊張、恐怖反応において重要な役割を担う。
味覚、嗅覚、内臓感覚、聴覚、視覚、体性感覚など外的な刺激を嗅球や脳幹から直接的に受ける。
また、視床核(視覚、聴覚など)を介して間接的にも受け、大脳皮質で処理された情報および海馬からも受け取る。偏桃体は、側頭連合野(前方部)、眼窩前頭皮質、海馬、帯状回と相互的に結合が密接である。
うつ病発症のメカニズムとして、強い不安や恐怖、緊張が長く続くと扁桃体が過剰に働きストレスホルモンが分泌され長く続く事により神経細胞が萎縮して他の脳神経細胞との情報伝達に影響し「うつ病」 症状が発現すると考えられている。

また、記憶固定 (memory consolidation) の調節にも関わっていて、学習した出来事の後に、その出来事の長期記憶が即座に形成されるわけではなく、むしろその出来事に関する情報は、記憶固定と呼ばれる処理によって長期的な貯蔵庫にゆっくりと同化され、半永久的な状態へと変化し、生涯に渡って保たれる。例えて言うと衝撃的な出来事が起こると、その出来事は海馬を通して大脳に記憶として生涯的に残る。また、衝撃的な記憶を反復して思い出す事により扁桃体が過剰に働くことも知られていて記憶の反復により書き換えられているという説もある。(Computer素子の中には、こういう動作をするDRAMがあります。)
 
扁桃体の役割は、海馬からの視覚、味覚、そういう記憶情報をまとめ、快か不快かを判断する。何かの行動が快不快感情を生み、その情報を海馬へと送る。海馬と扁桃体は常に情報が行き来する。この行き来に関して海馬傍回がその間に働く。

神経結合は、扁桃体から視床下部に対しては交感神経系の重要な活性化信号を、視床網様体核に対しては反射亢進の信号を、三叉神経と顔面神経には恐怖の表情表現の信号を、腹側被蓋野、青斑核と外背側被蓋核にはドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンの放出の信号を出す。

痛みやストレス状態になると扁桃体が興奮。前頭前野は扁桃体の興奮を鎮めるが、痛みストレスが継続的に起こる場合は、扁桃体が興奮しっぱなしとなると痛みが増幅され血圧上昇、不眠となる。体に触れることにより視床下部で合成され下垂体*からオキシトシンを分泌させることにより扁桃体の興奮を鎮静化する。
*) 様々なホルモンの働きをコントロールしている部位である。 大きさはえんどう豆程度で、前葉と後葉からホルモンを分泌し、生体の機能維持を司る。 下垂体前葉からは6種類のホルモンが分泌され、後葉からは2種類のホルモンが分泌される。副腎皮質刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、プロラクチン(催乳ホルモン)、成長ホルモン。

情動(感情)に関連した回路としてヤコブレフ回路が知られている。
扁桃体 → 視床背内側核 → 前頭葉眼窩皮質後方 → 側頭葉前方 → 扁桃体という閉鎖回路をYakovlevの回路または基底・外側回路と言います。

パーキンソン病の運動症状の出現は、Braak仮説によると、抗α-シヌクレイン抗体を用いて高齢者の中枢神経系におけるLewy小体の分布を詳細に検討し、Lewy小体はまず嗅球に出現、迷走神経背側核(延髄)、視床、その後、下部脳幹(橋)、中脳黒質、扁桃体へ上行進展して発現させる。
また、Zaccai博士の報告によると扁桃体に優位にLewy小体が分布しているとの報告もある。

海馬
海馬・歯状回 ( 記憶、情動、本能、統合失調症に関連する部位 )
海馬体(かいばたい)は、記憶や空間学習能力に関わる脳の器官で、動脈血量の減少による局所の貧血(虚血)に対して非常に脆弱であること、ストレスに対しても脆弱であるとされ、心理的・肉体的ストレスの負荷により長期間コルチゾールが分泌されると神経細胞の萎縮を引き起こす。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)、うつ病の患者にはその萎縮が確認され、統合失調症*との関連が指摘されています。
*) Ref.1, p.50より: 10才後半~30才台までに発症する。幻覚と妄想、現実を現実と受止められないことを特徴とする。昔は「精神分裂病」と呼んだ。本人にとって必要な治療を、本人が拒否することが起こりうる病である。原因は現在、不明である。環境よりも遺伝の影響がある。幻覚と妄想はドーパミンの乱れで生じる。

最近ではストレス負荷が海馬 歯状回における神経新生を阻害することで海馬機能に変化を与え、記憶・学習能力・情動行動制御に関与していること、未来を創造する時に活性化することが示唆されている。

海馬の主細胞 (錐体細胞, 顆粒細胞) が周期的に興奮すると、長期増強反応 (LTP) が最も効率よく発生します。 海馬においてシータ波(θ波)は記憶情報の固定に最適の条件を提供します。
海馬にθ波を発現させるのが内側中隔核、対角帯核アセチルコリン神経で、GABA入力によりθ波を発現する。

セロトニンやノルアドレナリンはレム(REM)睡眠を抑制する。REM睡眠を誘発するアセチルコリン神経を活性化した場合はθ波は出現しない。
正常だとアルファー波(α波)が高く、θ波が低い。働きが悪いとα波が低くθ波が高い。θ波が高くなると認知症と考えられている。

アルツハイマー病*の主原因は、海馬(CA1)の萎縮から発症し、やがて大脳皮質の前頭葉の一部部位の萎縮して、記憶障害、論理的な思考に影響を及ぼします。
*)アルツハイマー病=認知症、ではありません!このことはRef.1の村井教授の本のp.130に明確に示されている。

萎縮は神経細胞の変性により起こる。 神経細胞が分泌したアミロイドβ蛋白質が蓄積され神経細胞のシナプスを破壊して(アミロイドβ蛋白質の固まりはシナプスにとって毒性が有る)、その後、神経細胞の中にタウ蛋白質が沈着(神経原線維変化)により神経細胞が変性し萎縮が始まり発症する、と報告されている。
アミロイドベータ蛋白質の蓄積は、発症前25年前、タウ蛋白質の沈着は15年前、海馬の萎縮は、5年前から始まり発症する、と米国ワシントン大学DIVAN研究チームが示唆しています。

最近、リハビリテーションにより海馬では、新しい神経細胞を生み出す事が可能と解ってきました。
運動により神経成長因子VGF (Nerve Growth Factor) *の分泌を促進する遺伝子の働きが活性化する事が判ってきました。
*) VGFとは、海馬の神経細胞の修復や成長に関与する物質である。
Wiki日本語版にはVGF詳細が無いので英語版から”NGF”を引用する。
Nerve growth factor (NGF) is a neurotrophic factor and neuropeptide primarily involved in the regulation of growth, maintenance, proliferation, and survival of certain target neurons.
It is perhaps the prototypical growth factor, in that it was one of the first to be described.
Since it was first isolated by Nobel Laureates Rita Levi-Montalcini and Stanley Cohen in 1956, numerous biological processes involving NGF have been identified, two of them being the survival of pancreatic beta cells and the regulation of the immune system.

神経成長因子(NGF)は神経栄養因子であり、神経ペプチドは主に特定の標的ニューロンの成長、維持、増殖、および生存の調節に関与しています。それが最初に記述されたものの1つであったという点で、それはおそらく典型的な成長因子です。1956年にノーベル賞受賞者のリタレヴィモンタルチーニとスタンリーコーエンによって最初に分離されて以来、NGFが関与する多くの生物学的プロセスが特定されており、そのうちの2つは膵臓ベータ細胞の生存と免疫系の調節です。

Structure:
NGF is initially in a 7S, 130-kDa complex of 3 proteins – Alpha-NGF, Beta-NGF, and Gamma-NGF (2:1:2 ratio) when expressed.
This form of NGF is also referred to as proNGF (NGF precursor).
The gamma subunit of this complex acts as a serine protease, and cleaves the N-terminal of the beta subunit, thereby activating the protein into functional NGF.
The term nerve growth factor usually refers to the 2.5S, 26-kDa beta subunit of the protein, the only component of the 7S NGF complex that is biologically active (i.e. acting as a signaling molecule).
Function:
As its name suggests, NGF is involved primarily in the growth, as well as the maintenance, proliferation, and survival of nerve cells (neurons).
In fact, NGF is critical for the survival and maintenance of sympathetic and sensory neurons, as they undergo apoptosis in its absence.
However, several recent studies suggest that NGF is also involved in pathways besides those regulating the life cycle of neurons.

構造:
NGFは、発現すると、最初は3つのタンパク質(Alpha-NGF、Beta-NGF、およびGamma-NGF(2:1:2の比率)の7S、130 kDa複合体)に含まれています。
この形態のNGFは、proNGF(NGF前駆体)とも呼ばれます。
この複合体のガンマサブユニットはセリンプロテアーゼとして機能し、ベータサブユニットのN末端を切断し、それによってタンパク質を機能的なNGFに活性化します。神経成長因子という用語は通常、タンパク質の2.5S、26 kDaベータサブユニットを指します。これは生物学的に活性な(シグナル伝達分子として機能する)7SNGF複合体の唯一の成分です。
機能:
その名前が示すように、NGFは主に成長、ならびに神経細胞(ニューロン)の維持、増殖、および生存に関与しています。NGFは、その不在下でアポトーシスを起こすため、交感神経および感覚ニューロンの生存・維持に重要です。最近の研究は、NGFがニューロンのライフサイクルを調節する経路以外の経路にも関与していることを示唆しています。

Neuronal proliferation:
NGF can drive the expression of genes such as bcl-2 by binding to the Tropomyosin receptor kinase A, which stimulates the proliferation and survival of the target neuron.
High affinity binding between proNGF, sortilin, and p75NTR can result in either survival or programmed cell death.
Study results indicate that superior cervical ganglia neurons that express both p75NTR and TrkA die when treated with proNGF, while NGF treatment of these same neurons results in survival and axonal growth.
Survival and PCD mechanisms are mediated through adaptor protein binding to the death domain of the p75NTR cytoplasmic tail.
Survival occurs when recruited cytoplasmic adaptor proteins facilitate signal transduction through tumor necrosis factor receptor members such as TRAF6, which results in the release of nuclear factor κB (NF-κB) transcription activator.
NF-κB regulates nuclear gene transcription to promote cell survival.
Alternatively, programmed cell death occurs when TRAF6 and neurotrophin receptor interacting factor (NRIF) are both recruited to activate c-Jun N-terminal kinase (JNK); which phosphorylates c-Jun.
The activated transcription factor c-Jun regulates nuclear transcription via AP-1 to increase pro-apoptotic gene transcription.

Proliferation of pancreatic beta cells:
There is evidence that pancreatic beta cells express both the TrkA and p75NTR receptors of NGF.
It has been shown that the withdrawal of NGF induces apoptosis in pancreatic beta cells, signifying that NGF may play a critical role in the maintenance and survival of pancreatic beta cells.

ニューロンの増殖:
NGFは、標的ニューロンの増殖と生存を刺激するトロポミオシン受容体キナーゼAに結合することにより、bcl-2などの遺伝子の発現を促進することができます。
proNGF、ソルチリン、およびp75NTR間の高親和性結合は、生存またはプログラムされた細胞死のいずれかをもたらす可能性があります。
研究結果は、p75NTRとTrkAの両方を発現する上頸神経節ニューロンがproNGFで治療すると死ぬのに対し、これらの同じニューロンのNGF治療は生存と軸索成長をもたらすことを示しています。
生存およびPCDメカニズムは、p75NTR細胞質尾部のデスドメインに結合するアダプタータンパク質を介して媒介されます。
生存は、動員された細胞質アダプタータンパク質がTRAF6などの腫瘍壊死因子受容体メンバーを介したシグナル伝達を促進し、核因子κB(NF-κB)転写活性化因子の放出をもたらす場合に発生します。
NF-κBは核遺伝子の転写を調節して細胞の生存を促進します。
あるいは、プログラム細胞死は、TRAF6とニューロトロフィン受容体相互作用因子(NRIF)の両方がc-Jun N末端キナーゼ(JNK)を活性化するために動員されたときに発生します。これはc-Junをリン酸化します。活性化された転写因子c-Junは、AP-1を介して核転写を調節し、アポトーシス促進遺伝子の転写を増加させます。

膵臓ベータ細胞の増殖:
膵臓ベータ細胞がNGFのTrkA受容体とp75NTR受容体の両方を発現しているという証拠があります。
NGFの除去は膵臓ベータ細胞のアポトーシスを誘導することが示されており、NGFが膵臓ベータ細胞の維持と生存に重要な役割を果たす可能性があることを示しています。

Regulation of the immune system:
NGF plays a critical role in the regulation of both innate and acquired immunity. In the process of inflammation, NGF is released in high concentrations by mast cells, and induces axonal outgrowth in nearby nociceptive neurons.
This leads to increased pain perception in areas under inflammation.
In acquired immunity, NGF is produced by the Thymus as well as CD4+ T cell clones, inducing a cascade of maturation of T cells under infection.

Ovulation:
NGF is abundant in seminal plasma. Recent studies have found that it induces ovulation in some mammals e.g. "induced" ovulators, such as llamas.
Surprisingly, research showed that these induced animals will also ovulate when semen from on-schedule or "spontaneous" ovulators, such as cattle is used. Its significance in humans is unknown.
It was previously dubbed ovulation-inducing factor (OIF) in semen before it was identified as beta-NGF in 2012.

免疫系の調節:
NGFは、先天性免疫と獲得免疫の両方の調節において重要な役割を果たします。 炎症の過程で、NGFは肥満細胞によって高濃度で放出され、近くの侵害受容ニューロンで軸索伸長を誘発します。
これは、炎症下の領域での痛みの知覚の増加につながります。
獲得免疫では、NGFは胸腺およびCD4 + T細胞クローンによって産生され、感染下のT細胞の成熟のカスケードを誘導します。

排卵:
NGFは精漿に豊富に含まれています。 最近の研究では、それがいくつかの哺乳動物に排卵を誘発することがわかっています。 ラマなどの「誘発された」排卵器。
驚くべきことに、研究によれば、これらの誘発された動物は、予定通りの、または牛などの「自発的な」排卵者からの精液が使用された場合にも排卵することが示されました。 人間におけるその重要性は不明です。2012年にベータNGFとして同定される前は、以前は精液中の排卵誘発因子(OIF)と呼ばれていました。
---Wiki, english引用終わり

アルツハイマー病の現因とされる蛋白質の凝集を抑える食べ物としては、中鎖脂肪酸、ビタミンE、クルタミン(ウコンに多く含まれる)、カテキン(緑茶に含まれる)、ポリフェノール(ワインに含まれる)、オメガ3脂肪酸(青魚に含まれる)がある。

記憶を司る海馬では、目、耳、鼻から、記憶のもととなる情報を集め、最終的に海馬により大脳新皮質で永久に保存される。海馬は記憶の定着に重要な役目を果たす。海馬を活性化することにより、学習能力向上に繋がる。

海馬は、3つの部位からなり(CA1、CA2、CA3)3野の錐体細胞は歯状回からのシナプス入力を受ける。

歯状回は、顆粒細胞(Granule Cell)と呼ばれる細胞の層を持ち、その外側は分子層と呼ばれる。顆粒細胞は比較的小型の細胞であり、樹状突起を分子層側に、軸索を海馬のCA3領域の内側に向かって伸張されている。この軸索は苔状繊維とも呼ばれる。

記憶に関わる神経回路はPapez回路*と呼ばれる。帯状回が興奮する事で海馬 → 海馬采・脳弓 → 乳頭体(乳頭体視床路を通る)→ 視床前核 → 帯状回 → 海馬傍回 → 海馬体を結ぶ経路で持続的に興奮する事で情動が生まれ記憶に関与する事が知られている。
*) パペッツ回路: 情動・本能などに関与するほか、恐怖・攻撃・性行動・快楽反応にも関与。

脳弓
脳弓・乳頭体 ( 時空間の記憶に関連する部位 )
脳弓(のうきゅう)は、海馬体から出て乳頭体、中隔核に至る神経線維束で、脳梁の下で左右対をなして弓形の形をしていて、脳弓柱、脳弓体、脳弓脚および海馬采に区分される。

乳頭体(にゅうとうたい)の入力は、海馬・視床下部・中脳から入力が有る。出力は、視床・中脳へ出力される。記憶を司る重要な記憶回路としてPapezとYakovlevが知られる。

Papez回路:
海馬 → 脳弓 → 乳頭体 → 乳頭体視床路 → 視床前核 → 帯状回(24野) → 海馬という閉鎖回路を形成。持続的に興奮する事で情動が生まれ記憶に関与する事が知られている。

Yakovlev回路:
側頭葉皮質前部(38野) → 扁桃体 → 視床背内側核 → 前頭眼窩皮質 → 鉤状束 → 側頭葉皮質前部という回路を形成。

記憶に関連する他の脳部位として、前脳基底部のマイネルト基底核、ブローカ対角帯、内側中隔核があり、アセチルコリン神経(ACh)の起始核(産生部位)である。

コルサコフ症候群の責任部位として乳頭体が中心部位とされている。見当識、記銘障害、健忘、作話を主症状とする健忘症候群、記憶の障害、思考障害や時空間秩序の混乱に及ぶ疾患。

海馬傍回
海馬傍回 ( 風景・場所の画像の認識、記憶に関連する部位 )
海馬傍回(かいばぼうかい)は、海馬の周囲に存在する灰白質の大脳皮質領域。この領域は記憶の符号化及び検索において重要な役割を担っている。この領域の前部は嗅周皮質 (perirhinal cortex) 及び、嗅内皮質 (entorhinal cortex) を含む。
海馬傍皮質(海馬傍回の後部)の下位領域で (顔や物体ではなく) 風景の認知に重要な役割を持ち、この脳領域は自然風景や都市風景などの画像 (場所の画像) 、地理的な風景の刺激を呈示された際に高い活動を示す。
損傷した場合は、風景の中にある個々の物体 (人や家具など) は認識出来るにも関わらず視覚的に風景を認識出来なくなるという症状を起す。
また、顔に対して特異的に活動する皮質領域で顔認知に重要な役割を持つと考えられている。
(紡錘状回顔領域 (Fusiform face area) と補完しあう関係にあると考えられる)

側坐核
側坐核 ( ”やる気” 伝達物質GABA産生の部位 )
側坐核(そくざかく)は、約95%は、GABAの産生が最も主要なもので、快感を司っています。
側坐核からは腹側淡蒼球(ventral pallidum)にGABA作動出力。
(セロトニン1B受容体が、側坐核と腹側淡蒼球という “やる気” に関わる2つの領域で活性化)その後、腹側淡蒼球からは視床の背内側核に出力、視床背内側核は大脳新皮質の前頭前野に出力。
腹側被蓋野からのドーパミン入力は側坐核の神経活動を調節すると考えられ、嗜癖性の高い薬物(コカインやアンフェタミンなど)は側坐核においてドーパミンを増加させることで嗜癖作用を有する。
(痛みを和らげる作用もあるとされている、脳内麻薬)また、ドーパミン受容体D3の発現量が多い。
 
他に黒質、脚橋被蓋核(脳幹に位置する神経核、橋)へ出力。
側坐核への主な入力としては、前頭前野、扁桃体、海馬、腹側被蓋野。
側坐核は皮質-線条体-視床-皮質回路の一部としてみなされている。

腹側被蓋野からのドーパミン分泌量を抑制する事により幻覚・妄想を抑制できる。
下垂体からオキシドシンが分泌すると扁桃体では警戒心が緩和され、側坐核では、快感が生まれ愛着の情動が出現すると考えられている。
ーーーー以上、脳の構造と機能。以下はそれらに影響を及ぼす薬物の調査

Coffee Break: ADHD調査報告の第2部です。
はじめに:
S: どうして脳はこんな構造になっているのですか?
T1: そう思うのなら、まず自分で調べること。人に聞いても、その知識は身に着かない。
第1部の海馬を巡る記憶を定着させる回路で分かるでしょ。
習得した旧智識と新智識を干渉させ、知識間の関連を作る必要があるんです。知識単独の有用性は低いです。
T2: ではNetで調べてみましょう。
人類の脳は3層構造になっている。日本学術会議の博物館 https://www.scj.go.jp/omoshiro/kioku3/index.html
にはこう記されている。
---引用、一部省略・簡約した
人間の脳は、「3つの部分」から成り立っています。一番奥にある脳幹(のうかん)は「は虫類の脳」といわれ、呼吸、体温、ホルモン調節といった「生きるための基本的な」働きをしています。
真中にある大脳辺縁系は「馬の脳」といわれ、喜怒哀楽(きどあいらく)などの感情をつかさどる部分です。その外側にある大脳皮質は「人の脳」といわれ、五感や、運動、言葉や記憶、思考等の機能を果たします。
---引用終わり
大雑把に言えば、この通りです。だがここで言っている「記憶」は大脳皮質、情報処理系の記憶です。それ以外の意識にないホルモン分泌のための記憶や免疫系の抗原記憶は書かれていないです。
書かれていないことを検出し、いままで学んできた知識との調和を取る作業(さらなる調査を含む)が必要です。それが大学教養課程での知識習得です。

T3: 人体構造についての啓蒙書、遠藤秀紀「人体 失敗の進化史」光文社新書、2006.3; ISBN978-4-334-03358-3 C0245、があります。解剖学者が生物進化をどう見ているか、が書かれています。
p.52 白紙から設計した理想的図面の上にヒトが作られているわけではない。偶然の積み重ねが哺乳類を生み、強引な設計変更がサルの仲間を生み、積み上げられる勘違いによってそれが二本足で歩き、500万年もして。。。と記されています。
教授も随分と思い切ったことをおっしゃる。でも我々を納得させる何かがありますよね。

T4: 脳内麻薬の件だって、快楽をもたらす報酬系とその逆物質があるでしょ。工学部の立場から見れば押引きネジで「脳の働きを制御している」と考えるから合理的です。
しかし報酬と逆系の化合物が何種類も存在し、信号配線と思える神経束が十何種にも分類可能となると、これは制御系を何度か追加したなあ、と考えるよ。要するに統一的な最適化対象がある訳ではなくて、その都度うまくいかない所を修正、あるいは機能を追加したと感じる。

T5: 遠藤先生は脳をどう見ているか、について、(1)人の身体の容積に比して異常に容積が大きい、(2)急激に拡大した理由は何か、に関心を持たれている。解剖学者として当然の方向性です。p.175~184の部分でその原因を考察されている。注視して読むべき部分です。
先生は「道具の発明、言語の習得が脳の異常な発達をもたらした」と記述されていますが、同感です。
工学的に言えば、脳機能が道具、言語という生成物をもたらし、その生成が脳機能を増強する、という正のfeedback cycleが成立した、ことになります。類人猿は道具を使えるが、それを製作しないから、feedbackが成立しない。それで猿人以前の段階で脳の進化が停滞している。これが遠藤説です。
ヒトの脳の異常な発達は左脳右脳の機能分化をもたらした。言語中枢は左脳に偏在と書かれている。
物理学から見ると、正のfeedbackは高速な発展現象をもたらしますが、やがて鞍点、不安定な状態に至るんですよね。これが人類社会に潜在する危険要素です。

T5x: 遠藤先生は体の左右対称という点に注目されている。p.99~109には呼吸についての肺とエラの考察が書かれている。「鰓がなくなって肺ができ」と書いてあるから、速読すると「エラ→肺」と進化したのか、と誤解してしまうでしょ。少し前に戻って熟読すれば、そうではなく「うきぶくろ→肺」という変化で、エラと肺は昔は並立してたと読める。教養課程での調査はそこから始まる。
Netを検索すると、岡部正隆先生の「脊椎動物の肺の獲得プロセスに関する進化発生学的研究」http://lifesciencedb.jp/houkoku/pdf/B-23_final.pdf; というPDFがある。
---引用はじまり
。。。肺と鰾が共通起源を持つ相同器官であること、その祖先器官が消化管の腹側に存在する一対の肺様の器官であったこと、その肺鰾祖先器官が咽頭嚢形成メカニズムを転用して形成されたことなど、3つの仮説。。。
---引用終わり
情報科学に関係ないだろうと即断してはいけない。岡部先生はどういう手段でこの仮説を検証しようとしているか?に注目する。すると分子生物学の遺伝子解析を使っている。DNAのcodon発現に注目しているでしょ、それなら情報科学でしょう。

T6: 第2部ではヒトの脳の性質、老化に伴う脳機能変調について調べます。脳機能を変える薬物、ドラッグや認知症、パーキンソン病について調べます。
現代では成人が18才になりつつあるでしょう。成人になると経済的、精神的、社会的な責任が生じます。故意でなくとも失敗は倍賞する責務があります。スタート時点で膨大な債務を背負いたくないでしょう。

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調査3: オピオイド 日本緩和医療学会 Japanese Society for Palliative Medicine (JSPM) HPから:
1. オピオイド(opioid): 麻薬性鎮痛薬やその関連合成鎮痛薬などのアルカロイド(alkaloid)およびモルヒネ(morphine)様活性を有する内因性または合成ペプチド(synthetic peptides)類の総称である。
紀元前よりケシ未熟果から採取されたアヘン(opium)が鎮痛薬として用いられ、
19世紀初頭には、その主成分としてモルヒネが初のアルカロイドとして単離された。1970年代には、オピオイドの作用点*として受容体が存在することが証明され、薬物受容体の概念が導入された。
*) 総説:森山、他、「痛みや鎮痛における個人差の遺伝的要因」、日本緩和医療薬学会、2009.11.9; http://jpps.umin.jp › issue › magazine › pdf, (2022.5.11現在DL可能)。
その後、内因性モルヒネ様物質の探索が行われ、エンケファリン(enkephalin)、エンドルフィン(endorphin)、ダイノルフィン(dynorphin)、エンドモルフィン(endomorphin)等が単離された。
1990年代には、μ、δおよびκオピオイド受容体の遺伝子が単離され 、構造や機能が分子レベルから明らかにされた。

2. オピオイド受容体の構造と情報伝達
 μ、δおよびκオピオイド受容体は、すべてGTP結合蛋白質(G蛋白質)*1と共役する7回膜貫通型受容体(GPCR)である。
これらオピオイド受容体タイプ間の相同性は高く(全体で約60%)、特に細胞膜貫通領域では非常に高い。
いずれの受容体も基本的にGi/o蛋白質*2と関連しており、オピオイド受容体活性化により、さまざまな細胞内情報伝達系が影響を受けることにより、神経伝達物質の遊離や神経細胞体の興奮性が低下するために神経細胞の活動が抑制される(図1)。
<辺縁系.png>

画像1

一方、近年、モルヒネによる鎮痛効果発現における興奮性神経伝達の関与も示され、
下行性抑制系*3の直接的活性化や、細胞内情報伝達系を活性化することで鎮痛効果を発現していることも明らかにされている。

モルヒネ、オキシコドン*、フェンタニルは、すべてμオピオイド受容体に対する親和性が高いものの、それぞれの薬物間において、認められる薬理作用に違いがあることが知られている。
*) オキシコドンとは、オピオイド系の鎮痛剤のひとつで、アヘンに含まれるアルカロイドのテバインから合成される半合成麻薬。商品名オキシコンチンなどがある。1996年のWHO方式がん疼痛治療法においては、3段階中の3段階目で用いられる強オピオイドである。
麻薬及び向精神薬取締法における麻薬で、劇薬である。
----
これらの薬物間における薬理作用の違いに関しては、さまざまな見解がなされており、
μオピオイド受容体はμ1およびμ2受容体、
δオピオイド受容体はδ1およびδ2受容体、
κオピオイド受容体はκ1、κ2、κ3受容体などのサブタイプの存在が提唱されてきた。

しかし、μ、δおよびκオピオイド受容体をコードする遺伝子はそれぞれ1 種類しか存在しないため、
スプライスバリアント*4依存性サブタイプやオピオイド受容体の多量体化*5に対する修飾の差異、
あるいはオピオイド受容体に対する立体構造変形に基づいたリガンド*6依存性サブタイプなどの新しい仮説(ligand biased efficacy仮説*7)が提唱されている。 
---注---
*1:GTP結合蛋白質(G蛋白質)
GTPアーゼ*に属するグアニンヌクレオチド結合蛋白質の略称。
*)厚生省e-ヘルスネットから、γ-Glutamyl TransPeptidase /
たんぱく質を分解する酵素の一種。
飲酒量が多いときや胆道系疾患などで値が上昇し、肝機能の指標とされる。
γ-GTPは、ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ(γ-Glutamyl TransPeptidase)の略で、アミノ酸の生成にかかせない酵素です。胆道から分泌され、肝臓の解毒作用に関わっています。
肝臓から処理済みの老廃物は胆管を通して十二指腸に排泄されますが、胆道が胆石やがんなどによって詰まると、γ-GTPなどの酵素や老廃物が逆流して、血中の濃度が上がります。
このため血中のγ-GTPを検査することで、アルコール性肝機能障害・胆道の圧迫や閉塞・肝硬変・慢性肝炎などの早期発見が可能になります。一般的なγ-GTP検査値の基準値としては、男性が50IU/l以下、女性が30IU/l以下とされます。
γ-GTPだけが基準値を超えて高いときには、アルコールが原因の肝障害かすい臓の病気(すい炎やすい臓がん)の可能性があり、GOT(Glutamic Oxaloacetic Transaminase:グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ)・GPT(Glutamic Pyruvic Transaminase:グルタミン酸ピルビン酸転移酵素)なども高い値ならアルコール性肝障害以外の肝臓の病気が疑われますので、さらに詳しい検査が必要です。
最近アルコールとは無関係に、栄養過剰や肥満がもとでγGTPやGPTが上昇する、非アルコール性脂肪肝(NAFLD: Non-Alcoholic Fatty Liver Disease)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH: Non-alcoholic steatohepatitis)といわれる病気が増えてきており、注目されています。
--- e-ヘルスネット引用ここまで

膜受容体関連ヘテロ三量体G蛋白質と低分子量G蛋白質があるが、ここでは前者の三量体G蛋白質を指す。三量体G 蛋白質はα、βおよびγサブユニットからなり、G蛋白質共役型受容体が刺激されるとαサブユニットに結合しているGDPとGTPの交換反応が起こり、GTP結合型αサブユニットとβγサブユニットに解離する。これらのサブユニットは、それらの標的蛋白質・酵素を活性化し、シグナルを下流へと伝達する。

*2:Gi/o蛋白質
三量体Gタンパク質はαサブユニットの機能および遺伝子の相違から、Gs、Gi 、Go、Gq、Gt 、Golfなどのサブファミリーに分類されている。Giはアデニル酸シクラーゼを抑制し、Goは神経組織に多く発現している。また、Gi/o蛋白質から解離したβγサブユニットは、K+チャネルの開口促進、Ca2+チャネルの開口抑制といった細胞内応答を引き起こす。

*3:下行性抑制系
脳から脊髄を下行し、痛覚情報の伝達を抑制する系。脳から脊髄へ神経伝達物質のノルアドレナリンとセロトニンが放出されて抑制する。

*4:スプライスバリアント
RNA前駆体中のイントロンを除去し、前後のエクソンを再結合する行程で生じる多様なmRNAにより生成される蛋白質群。

*5:受容体の多量体化
細胞膜に存在する受容体は、1分子によっても、細胞外の刺激を受容し、その情報を細胞内へ伝達することが可能であるが、複数の分子が会合(多量体化)することで、異なった細胞内情報伝達分子が活性化されるため、多彩な情報伝達が可能になっている。

*6:リガンド
受容体や酵素に結合し、生物活性を引き起こす物質。酵素に対する基質、補酵素、薬物(受容体作動薬や遮断薬)、ホルモン、サイトカイン、神経伝達物質など。

*7:ligand biased efficacy仮説
薬物(リガンド)の結合する受容体が同一であっても、リガンドと受容体が形成する複合体の立体構造が異なるために、活性化される細胞内応答がリガンドに依存して異なるという仮説。
---注 終わり

<ドパミン.png>

ドーパミン

<オピオイド作用図.png>

オピオイド作用図


<オピオイド作用図2.png>

オピオイド作用図2

3. オピオイド受容体を介した薬理作用
 モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルなど多くのオピオイドによる鎮痛作用は、主にμオピオイド受容体を介して発現する。μオピオイド受容体を介した鎮痛作用は、脊髄における感覚神経による痛覚伝達の抑制や視床や大脳皮質知覚領域などの脳内痛覚情報伝導経路の興奮抑制といった上行性痛覚情報伝達の抑制に加え、中脳水道周囲灰白質、延髄網様体細胞および大縫線核に作用し、延髄-脊髄下行性ノルアドレナリンおよびセロトニン神経からなる下行性抑制系の賦活化などによる。また、μオピオイド受容体は扁桃体や帯状回、腹側被蓋野、側坐核などの部位に高密度に存在していることから、情動制御にも深く関わっている。さらに、その他の中枢神経系作用として呼吸抑制作用(延髄呼吸中枢の直接抑制作用)、鎮咳作用(孤束核咳中枢への知覚入力抑制)、催吐作用〔延髄化学受容器引き金帯(chemoreceptor trigger zone;CTZ)への直接作用〕などが、末梢神経系への作用として消化管運動抑制作用(腸管膜神経叢でアセチルコリン遊離抑制)などが知られている。
 δおよびκオピオイド受容体の活性化によっても、μオピオイド受容体の活性化と同様に鎮痛作用が認められる。しかし、μオピオイド受容体の活性化は多幸感(報酬効果*1)が生じるのに対して、κオピオイド受容体では嫌悪感を引き起こし(中脳辺縁ドパミン神経前終末抑制によるドパミン遊離抑制)、モルヒネなどによる精神依存*2を抑制する。また、δおよびκオピオイド受容体の活性化による呼吸抑制作用は、μオピオイド受容体によるものと比べ弱い。
以上、筆者:大澤匡弘、中川貴之、成田年 Drs.
----注
*1:報酬効果
脳内の報酬系(ドパミン神経系)が、欲求が満たされたときや報酬を得ることを期待して行動しているときに活性化し、快の感覚(多幸感、陶酔感など)を与える効果。
*2:精神依存
次のうちいずれか1つを含む行動によって特徴づけられる一次性の慢性神経生物学的疾患。①自己制御できずに薬物を使用する、②症状(痛み)がないにもかかわらず強迫的に薬物を使用する、③有害な影響があるにもかかわらず持続して使用する、④薬物に対する強度の欲求がある。
---注 終
調査4: 精神に影響を与える植物と菌の成分
特に引用が明示されていなければWikipediaである。

D1 マジックマッシュルーム (Magic mushroom)
トリプタミン系アルカロイドのシロシビン*やシロシンを含んだキノコの俗称。200種以上存在し世界中に広く自生している。毒キノコであるが重症や死亡は少ない。

*) シロシビン(サイロシビン、Psilocybin、4-ホスホリルオキシ-N,N-ジメチルトリプタミン):
幻覚剤、インドールアルカロイドの一種。シロシン(Psilocin)のリン酸エステルである。
シロシビンは体内で加水分解によりシロシンとなり作用する。セロトニンに類似した物質であり、セロトニン受容体の5-HT2A受容体に主として作用する。依存性はない。

神秘体験を生じさせ、幸福感や生活の満足度を体験後も長期的に増加させる。
イギリスでは、治療抵抗性うつ病、禁煙に対する効果の臨床試験が進行している。
2018年にはアメリカ食品医薬品局(FDA)が第IIb相の治験を承認。

リゼルグ酸ジエチルアミド (LSD) とも似た化学構造を持ち、作用も似る。
向精神薬に関する条約で規制されている。日本では麻薬及び向精神薬取締法により、シロシンと共に規制されている。

心理的作用 脳の異なる部位が連絡して働く様子を視覚化した図。
右:シロシビン影響下にて脳の各部位は多様に連絡しあう。左:通常時。

<オピオイド作用図3.png>

オピオイド作用図3

シロシビンの影響によって知覚の意味の変化、基本的な視覚の変容、鮮やかな視覚、視聴覚の共感覚などが生じ、不安感は低下し幸福感や一体感を生じる。

D2_1 MAO阻害薬(パーキンソン病治療薬)
https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/article/556e7e5c83815011bdcf8278.html
日経メディカル、処方薬事典から

1.薬の効果と作用機序
ドパミンの分解阻害作用により、脳内のドパミン量を増やしてパーキンソン病における手足の震えや筋肉のこわばりなどを改善する薬。
パーキンソン病は脳内のドパミンが不足しておこる。
脳内でドパミンを分解するMAO-Bという酵素がある。
本剤はMAO-B阻害作用などをあらわし脳内のドパミン量を増やす作用をあらわす。

薬理作用
パーキンソン病では脳内のドパミンの不足によりドパミンとアセチルコリンのバランスが崩れ、手足の震えや筋肉のこわばりなどがおこる。
脳内の神経細胞から遊離されたドパミンの一部はMAO(monoamine oxidase:モノアミン酸化酵素)によって分解される。MAOにはA型とB型のタイプがあるが、ヒトの脳内には主にB型のタイプ(MAO-B)が多く存在するとされ、ドパミンは主にMAO-Bによって分解される。MAO-Bの作用を抑えればドパミンの分解を抑えることができる。

本剤は脳内でMAO-Bを阻害することでシナプス間隙におけるドパミン量の減少を抑える作用やシナプスへドパミンが再び回収される再取り込みを阻害する作用をあらわす。これらの作用によりドパミン量の低下が抑えられ、増加したドパミンが受容体への刺激を持続的に高めることでドパミンとアセチルコリン(Acetylcholine, ACh)のバランスが調整されパーキンソン病の症状を改善する。

本剤はパーキンソン病の主要な治療薬であるレボドパ(L-ドパ)製剤*と併用されることがあるが、その場合、レボドパ製剤の効果を引き上げることによりレボドパ由来のジスキネジア(足や口などが意思に反して動く症状)などの症状を助長する可能性があり注意が必要となる。
*) ドパミン自体は中枢へ薬物などが移行するのを防ぐ血液脳関門(Blood Brain Barrier)を通過できないが、前駆物質であるレボドパはこの関門を通過することができ、脳内に移行した後、ドパミンへ変化する。

主な副作用や注意点
消化器症状
吐き気、食欲不振、口渇、便秘、下痢などの症状が現れる場合がある
精神神経系症状
幻覚、妄想、不眠、不随意運動、興奮、眠気(突発的睡眠など含む)、めまいなどの症状が現れる場合がある
悪性症候群
頻度は稀である

他の原因がなく高熱が出る、汗をかく、よだれが出る、脈が速くなるなどの症状がみられる場合がある
上記のような症状が同時に複数みられた場合は放置せず、医師や薬剤師に連絡する
レボドパ含有製剤との併用における注意に関して本剤によりレボドパ由来のジスキネジア(手足や口などが意思に反して動く症状)などの症状が増強される可能性があり注意が必要。

一般的な商品とその特徴
エフピー、 セレギリン製剤
剤形(剤型)が口腔内崩壊錠(OD錠)であり、嚥下能力の低下した患者などへのメリットが考えられる
アジレクト、 ラサギリン製剤
通常、1日1回服用する
不眠症などの精神神経系症状へのリスク軽減が期待できるとされる
エクフィナ、 サフィナミド製剤
通常、1日1回服用する
グルタミン酸放出抑制作用を併せもつとされる(グルタミン酸はパーキンソン病やアルツハイマー病などの神経疾患の病態に深く関わるとされている)

D2_2
https://www.thpa.or.jp/index.php?q=content/content/magazine/magazine20120101
(社)東京都病院薬剤師会、そこが知りたい 2012(平成24)年2月号
「リネゾリドとモノアミン酸化酵素(MAO)阻害作用」

MAO は,カテコラミン*やセロトニンといったモノアミン神経伝達物質を酸化的脱アミノ化して不活化する酵素である。神経終末や細胞内ミトコンドリアなどに存在する。
*) Catecholamine: チロシンから誘導された、カテコールとアミンを有する化合物である。
レボドパや多くの神経伝達物質等(ドパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン)及び関連薬物の基本骨格である。カテコラミンと呼ばれる。

MAO にはA とBの2つのアイソザイムが存在し,MAO-A はセロトニンとノルエピネフリンを優先的に代謝する。またパーキンソン治療薬のセレギリンは選択的MAO–B 阻害薬である。

オキサゾリジノン系抗菌薬リネゾリドは,このMAO に対して非選択的,可逆的な阻害作用を有しており,MAO 阻害剤(セレギリン),アドレナリン作動薬,セロトニン作動薬,チラミンを多く含有する食品とは相互作用を起こす可能性があるため,添付文書において併用注意とされている。

重篤副作用疾患別対応マニュアルの「セロトニン症候群」において,同症候群を発現させる可能性のある薬剤にリネゾリドと選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI: Selective Serotonin Reuptake Inhibitor)の併用が挙げられている。

今般,FDA ではリネゾリドとセロトニン作動薬との併用について,重篤な中枢神経系反応を精神科治療薬服用患者に引き起こすリスクがあるとして患者及び医療従事者への追加情報を通知している(Drug Safety Communication 2011/07/26,2011/10/20付通知)。
医療従事者への追加情報としては,下記の情報(抜粋)が挙げられている。
・リネゾリドはセロトニン作動薬と相互作用し,重篤なCNS 毒性を引き起こすことがある。
・リネゾリドを用いた生命を脅かす症状の治療や緊急治療を要する緊急事態では,代替治療を利用できないか検討すべきであり,リネゾリド治療のベネフィットとセロトニン毒性のリスクを比較考量すべきである。セロトニン作動薬を使用している患者にリネゾリドを投与しなければならない場合,セロトニン作動薬を直ちに中止し,CNS 毒性の緊急症状がないか2週間,またはリネゾリドの最終投与から24時間後までのいずれか早い時期まで,患者を注意深くモニターすべきである。
・リネゾリドを使用している患者にはセロトニン作動薬を開始すべきでない。リネゾリドの最終投与から24時間後まで,抗うつ薬の開始は待つべきである。

セロトニン作動性の向精神薬のすべてがリネゾリドとの併用によりセロトニン症候群を等しく引き起こすわけではなく,FDA 有害事象報告システムに報告されたリネゾリド関連のセロトニン症候群のほとんどは特定のセロトニン作動薬,すなわちSSRI またはセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)を併用している患者に発生していたと報告している。
FDA は新たな情報が得られ次第,更新情報を通知する予定にしており,今後リネゾリドとの併用に関してよりリスクの高いセロトニン作動薬が特定される可能性もある。
(!) リネゾリドとSSRI 、あるいはSNRI については,これらの薬剤を主に用いる医師の専門性が全く異なり,これらの薬剤間の相互作用について医師が認識していない場合もありうる。
SSRI あるいはSNRI を使用していても,患者の状態によってはリネゾリドによる治療が避けられないことも考えられ,そのような場合においては薬物治療を横断的に俯瞰できる薬剤師による患者モニターがより重要になってくる。

参考文献
・グットマン・ギルマン薬理書 第10版,廣川書店,2003
・重篤副作用疾患別対応マニュアル 第4集,日本医薬情報センター,2010
・国立医薬品食品衛生研究所 医薬品安全性情報 Vol. 9  No.18(2011/09/01),No.24(2011/11/24)
・ザイボックス錠 添付文書
(都立小児総合医療センター薬剤科 大村由紀子)

D2_3 MAO阻害物質を含有する植物、アヤワスカ
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/66852、JB press,
アヤワスカ(Ayahuasca): 南米アマゾン川に生える植物の根を煮出し、お茶として飲まれるもので、先住民の儀式で薬として飲まれている。
アヤワスカに入っているDMT(N,N-Dimethyltryptamine)に強い幻覚作用があり、一部のキノコや植物に含まれている。精神展開薬と呼ばれる。
ペルーのシピポ族などのシャーマンが神聖な薬として処方し、実際にうつ病、アルコール中毒、ドラッグ中毒などの治療として使われる。
ペルーでは国家文化遺産となっており、今でも儀式で使用されている。アメリカでも使用を許可されているネイティブアメリカン系の教会がある。
DMT自体を規制する国は少なくないが、国連の国際麻薬統制委員会はDMT*を含む植物や茶を規制対象としていない。

==========
*) DMT: 
ヒトを含む哺乳類の脳、松果体からも検出される。
松果体:pineal bodyは、脳に存在する小さな内分泌器である。 松果腺 (pineal gland) 、上生体 (epiphysis) とも呼ばれる。 脳内の中央、2つの大脳半球の間に位置し、間脳の一部である2つの視床体が結合する溝にはさみ込まれている。

https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/articles/z0508_00025.html
Hiroaki Mano, Yoichi Asaoka, Daisuke Kojima, Yoshitaka Fukada, "Brain-specific homeobox Bsx specifies identity of pineal gland between serially homologous photoreceptive organs in zebrafish," Communications Biology: 2019年10月7日, doi:10.1038/s42003-019-0613-1.の紹介で:

東京大学大学院理学系研究科の小島大輔講師、深田吉孝教授らのグループは、「第三の眼」として知られる松果体の遺伝子発現や発生を制御する鍵分子としてBsxを同定しました。

松果体は、睡眠ホルモンであるメラトニン*を分泌する脳器官であり、ニワトリやサカナなど多くの動物では光を感じる、いわゆる「第三の眼」として機能します。
*) 下等動物からヒトまで、季節のリズムや概日リズム(サーカディアンリズム)の調節作用をもつ。
メラトニンは、脳内の松果体において生合成されるホルモンです。
網膜から入った外界の光刺激は、体内時計(生物時計・視交叉上核)を経て松果体に達します。

松果体の光受容細胞は、網膜の視細胞と多くの類似点をもつ一方、メラトニン分泌(松果体)と視覚(網膜)という互いに大きく異なる生理機能をもつことが知られています。このような「似て非なる」光受容細胞の個性が、いかなる分子メカニズムによってもたらされているのか、これまで謎として残されていました。
小島講師らのグループは、このような松果体の進化的・発生学的な特長に注目してゼブラフィッシュを用いた遺伝子組換え実験や分子生物学的な実験を行い、この脳内器官において特異的な遺伝子発現を制御する転写因子Bsxを同定しました。Bsxは松果体の光センサー分子であるエクソロドプシンの遺伝子プロモータに結合し、さらに別の転写因子Otx5(網膜と松果体に共通の転写因子)が近傍に結合して協同的に作用することにより、遺伝子発現が強力に活性化されることがわかりました。また個体レベルでBsxの機能を解析したところ、Bsxは松果体ニューロンの発生・分化に必須であることが明らかになりました。

本研究において発見された鍵分子Bsxは、ゼブラフィッシュだけでなく、哺乳類の松果体にも強く発現することがわかっています。メラトニン分泌など種を越えて保存された松果体の機能発現において、Bsxは重要な役割をもつと考えられます。

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Coffee Break: ADHD調査報告の第3部です。
はじめに:
精神医学の「方法論について」です。工学部側から感じる違和感を書きましょう。
1.Ref.5, 村井俊哉「統合失調症」岩波新書1801, ISBN978-4-00-431801-9, C0247, 2019.10.18.
p.19~20に、
---主要部のみを引用する
脳の損傷。。。除外診断を除いて、診断基準には検査所見が含まれない。
本人が言葉や態度として表現したことに基づき、検査データは参考にしない。
統合失調症(schizophrenia)の原因が未解明なため、参考にできる検査データがそもそも存在しない。
統合失調症という病名は、ほぼ症状の集まりで定義されている。…
統合失調症という決まりごとに過ぎない。
---引用終わり
これを読んで、私は工学部の文化とは随分と違うのだな、と感じる。誤解ないように申しますが、精神科医の方法論を否定しているのではありません。

<5/27 追加> Netを検索すると、科研費の説明文がありました。
---引用
http://brainfodynamics.umin.jp/member/kobo/miyata.html
A03:統合Salienceモデルに基づく統合失調症の脳領域間ネットワーク病態の解明

紹介文本文
統合失調症では外的な刺激や内的な表象に対して過剰なSalienceを知覚してしまうことにより、妄想や幻聴などの症状が引き起こされると想定されています(異常Salience仮説)。一方、このようなSalienceの知覚に関わる神経機構として、中脳-線条体のドーパミン神経、前部帯状回および島皮質からなるSalience network、視覚処理系といった異なるシステムがありますが、これらが実際にどのように統合失調症の病態に関わっているのかははっきりしていません。
本研究課題では中脳-線条体の動機的salience、前部帯状回-島皮質のsalience network、および視覚的salienceという異なるsalienceシステムが、脳内で統合されて機能しているとする「統合salienceモデル」に基づき、高傾斜磁場・超高磁場MRIによる次世代の機能的・構造的結合性解析を通じて、統合失調症のネットワーク病態を明らかにすることを目的としています。具体的には以下の3つの研究目標からなります。
A)ネットワーク内・ネットワーク間の機能的結合性の評価
各salienceシステムに関わるネットワーク内の機能的結合性を、課題施行時/安静時のfMRI*解析で明らかにします。またネットワーク間の動的(dynamic)・因果的(causal)な結合性解析手法により、各salienceシステム間の統合関係を解明します。

*) fMRI (functional magnetic resonance imaging); MRI: 強磁石と電波を用いて体内の状態を画像にする。体内の水素原子核を磁場で状態を分離させ、電磁波を照射して状態間の遷移シグナルを検出する。原子核は電子殻の状態に摂動されるので、水素原子の分子内の状況が分かる。それを利用して組織内の水素原子の状態を画像化する。
体内の様々な病気を発見することができる。特に脳や脊椎、四肢などの疾患に高い検査能力を発揮する。

B)ネットワーク内の構造的結合性の評価
上記ネットワーク内の構造的結合性を、マルチコンパートメントモデルなどの次世代拡散MRIで明らかにします。
C)次世代コネクトーム解析
HCPパイプラインによる次世代コネクトーム解析(研究計画・方法で詳述)により、各salienceシステムに関わる脳領域間ネットワークの機能的・構造的結合性の全体像を明らかにします。
---引用終わり

計算機工学からのアプローチもあります。
http://psy.keiomed.jp/computation.html
計算論的精神医学研究室(Computational Psychiatry Lab)
精神医学における症状は“ことば”で記述される。精神病理学によって精神症状学という“ことば”の記号体系が構築されてきたが、精神症状は“ことば”のみでしか記述できないわけではなく、他の記号体系、例えば数学によって記述されてもよい。計算論的精神医学は精神病理学の方法論の一つであるとも言えよう。一方、脳活動・脳機能も数学によって記述し得るが、精神現象と脳活動・脳機能という異なる現象を同じ記号体系によって記述することができるのが、計算論的精神医学の特質であろう。身体医学に比し、精神障害のほとんどは、診断や治療に役立つような生物学的知見は未だに得られていない。精神医学においては、症状論、病態論、治療回復論において、精神と脳とを連繫させることが必要であるが、計算論的精神医学にその可能性を見ている。
。。。
NIMHの所長Joshua A. Gordonは、今後の精神医学における計算論的アプローチの重要性を強調し、NIMHにおいて“Computational Psychiatry Program”を開始している。我々も、この新しい研究アプローチの発展は精神医学において必須であると考えており、Sense of Agency研究を主軸に据えて研究を進めて行く所存である。
---引用終わり

< 6/2 追加 > Ref.5では統合失調症と神経生物学についてp.155~157に2019年段階での臨床側からの見解が記載されています。表7.2はbiomarkersのまとめです。
同書p.130、図6.2は重要なことを示しています。当人の周囲の方々の一読を薦めます。

Ref.5X, 糸川昌成「脳と心の考古学、統合失調症とは何だろうか」日本評論社, 2020.2.15, ISBN978-4-535-98486-8, C3047.
この本のP.8~44に糸川氏の統合失調症観*が記載されている。ニューロピル減少についても記載されている。
*) ...内科疾患と異なる形で定義づけられている。内科疾患のように病理学的実体を有しないことが述べられている。

2. Ref.6, M. Scott Peck, ”People of the lie”, Simon & Schuster, Inc., New York, 1983.
森英明訳「平気でうそをつく人たち」草思社、1996.12.25, ISBN4-7942-0741-7, C0011.
訳本p.178に、
---主要部のみ引用する
...人格障害の特徴というよりは精神分裂病(統合失調症の旧称、Ref.1, p.55)の特徴である。精神科医の間で一時的精神分裂と呼ばれているものがある。
定義: (人名略)のように普通は世の中でうまくやっており、本格的な精神分裂病になることもなく、…ストレスを受けたとき思考を乱し、典型的な精神分裂病のように見える。

精神科医の診療を受けている邪悪な人たちの多くは、一時的精神分裂があると診断される。
邪悪性と呼ぶ、新しい人格障害を認識すべき。。。自己責任放棄は人格障害の特徴であるが、それに加えて、次の特性がある。
(a) 定常的な破壊的、責任転嫁的行動。それは隠微的な形をとる。
(b) 批判の形で加えられる自己愛損傷に対し過剰な拒否反応をする。
(c) 立派な自己像に強い関心を抱く。憎悪、執念深い報復を隠す見せかけとしての体面。
(d) 軽度の精神分裂症的、思考の混乱を伴う偏屈性。
---引用終わり

これがPeck MD.の定義された「邪悪性(人格障害)」である。同書を通読すると、博士は邪悪(evil)という心理学的概念を科学的に扱いたい、と考えておられる。
同本の編集部の注では邪悪な人の特徴が次のように記されている。
D0: どんな町にも住んでいる、ごく普通の人
D1: 自分には欠点がないと思い込んでいる
D2: 異常に意志が強い
D3: 罪悪感や自責の念に耐えることを絶対に拒否する
D4: 他者をエスケープゴートにして責任を転嫁する
D5: 体面や世間体のためには人並み以上に努力する
D6: 他人に善人だと思われることを強く望む
このD1:6をdescriptors (説明変数)として、普通人集団中のevil personsを定義を考える。
⇒Section 4へ

3. その前に、Ref.6は1983年出版の本なので、現代では人格障害はどうなっているかを調べる。
https://www.msdmanuals.com/ja-jp; MSDマニュアル家庭版で人格障害を調べると以下である。

---ここから引用
パーソナリティ障害(人格障害とも呼ばれます)とは、本人に重大な苦痛をもたらすか、日常生活に支障をきたしている思考、知覚、反応、対人関係のパターンが長期的かつ全般的にみられる人に対して用いられる用語です。
<略>
薬剤による治療でパーソナリティ障害自体に変化がみられることは通常ありませんが、そうした治療が症状を軽減するのに役立つことはあります。
精神療法は、自分が問題を引き起こしていることに患者が気づき、社会的に好ましくない行動を改めるのに役立つことがあります。
<略>
米国精神医学会が発行している精神障害の診断と統計マニュアル第5版(DSM-5)によれば、10種類のパーソナリティ障害が存在します。
約10%の人が何らかのパーソナリティ障害に該当します。
<略>
原因:パーソナリティ障害は遺伝子と環境の相互作用によって起こります。すなわち、一部の人はパーソナリティ障害になりやすい遺伝的な傾向を生まれつきもっていて(webには根拠が書いてないですが、Ref.5に書いてあります)、その傾向が環境的な要因によって抑えられたり、強められたりするということです。一般に、遺伝子と環境はパーソナリティ障害の発症にほぼ同じくらい寄与しています。

パーソナリティ障害の種類
10種類のパーソナリティ障害は、3グループ(A、B、C)に分類することができます。各グループに含まれる種類は、それぞれ特定の基本的なパーソナリティ特性が共通していますが、各障害にはそれぞれの際立った特徴があります。

Aグループは奇妙または風変わりな様子を特徴とします。このグループにはそれぞれの際立った特徴をもつ以下のパーソナリティ障害が含まれます。
妄想性:不信と猜疑心
シゾイド(Schizoid)*:他者に対する無関心
*) Schizoid: https://www.e-heartclinic.com/kokoro-info/special/personality_3.html
では次のように説明されている。
「統合失調症の」や「統合失調症のような」という意味ですが、統合失調症そのものとは別の障害です。 統合失調質パーソナリティ障害のある人は、他人と親密になりたいと思わず、一人で過ごすことを好みます。家族以外に親しい友人や信頼できる人がいないばかりか、時には家族さえも疎遠になります。他人からの賞賛や批判に興味がなく、周囲が自分をどう見ているかは気になりません。怒りや喜びのような強い感情を抱くことも滅多にありません。社会的に孤立しがちで、いわゆる一匹狼のように見えます。ただ、一人きりで行う仕事であれば、職業的に成功することもあります。 また、性体験に関心を持つこともほとんどないため、生涯独身の男性が多く見られます。女性は積極的な男性と受け身な結婚をすることがあります。 中には終生の社会的引きこもりをする患者さんもいます。
---以上、引用終わり
統合失調型:奇妙または風変わりな思考と行動

Bグループは演技的、感情的、または移り気な様子を特徴とします。このグループにはそれぞれの際立った特徴をもつ以下のパーソナリティ障害が含まれます。
反社会性:社会的無責任、他人の軽視、欺瞞、自分の利益を得るための他人の操作
境界性:一人でいることに関する問題(見捨てられる恐れによる)、感情や衝動的行動をコントロールすることの問題
演技性:人の注意を引きたい欲求と劇的な行動
自己愛性:もろい自尊心、賞賛される必要性、および自分の価値についての過大評価(誇大性と呼ばれる)

Cグループは不安や恐れを抱いている様子を特徴とします。このグループにはそれぞれの際立った特徴をもつ以下のパーソナリティ障害が含まれます。
回避性:拒絶される恐れによる対人接触の回避
依存性:服従と依存(世話をしてもらう必要性による)
強迫性:完全主義、柔軟性のなさ、頑固さ
<以下 略>
---MSD家庭版のマニュアル引用ここまで
私は、Peck MD.のevil personを含むと思います。
村井先生の本、Ref.1, p.138~147にもパーソナリティ障害の言及があります。そこには反社会性、素行症のことも書かれています。そこにCU(Callous and Unemotional)特性のことが書かれています。サイコパス(psychopath)のことです。

学生さんへ: 現代では18才以上が成人です。身にふりかかる災難を、(自分で)できるだけ切り抜ける必要があります。社会には様々な人がおります。村井先生の本(Ref.1 & 5)はそのintroductionに良いと思います。

< 6/2 追加>
Ref.7, 苧阪直行、他「社会脳から心を探る、自己と他者をつなぐ社会適応の脳内メカニズム」学術会議叢書26、日本学術協力財団、2020.2.10. この本にはISBN#は無い。治療法についてはRef.1 & 5の域を超えることは書かれていない。原因へのapproachが試行段階であるが記されている。

p.100, 3章5に「規範・道徳からの逸脱」という節がある。そこにpsychopathyの特徴として、fMRIの結果、偏桃体、島皮質、線条体、前頭前皮質の背内側部と腹内側部に変状がある、と大平英樹教授が記している。
p.102には不公平提案の受諾率について:受諾率と標準化得点化したpsychopathy傾向との相関図がある。通常群とサイコパス群が明確に分離されている。

< 6/8 追加 > p.132~ 松井三枝教授が「統合失調症の認知機能」について述べておられる。
健常者と同症者(含統合失調型障害者)との比較: 1.共に記憶機能、処理速度の低下を認む。
2.実行機能、ワーキングメモリでは統合失調症者の 障害が顕著である。
同症者(含統合失調型障害者)のMRI: 統合失調症では前頭葉と側頭葉灰白質の体積が減少している。
統合失調症型障害者では側頭葉の体積減少は統合失調症者と類似するが、内側前頭葉領域の灰白質体積は比較的保持されている。
以上が松井教授の所見である。教授の見解:記憶に関して、側頭葉の変化は統合失調症の前駆期から認められる。統合失調症ではそれに実行機能、ワーキングメモリに関する前頭葉機能障害が加わる。
p.142~統合失調症の認知機能改善法についての記載がある。そこに薬物療法の限界も記されている。

同症者の社会復帰には公認心理師も関与する。彼らは認知機能をどう見ているのだろうか?
Ref.8, 萱村俊哉、郷式徹 編著「知覚・認知心理学、心の仕組みの基礎を理解する」ミネルヴァ書房、 2021.5.30, ISBN978-4-623-08709-9, C3311; 川畑直人・大島剛、郷式徹 監修、公認心理師の基本を学ぶテキストの7巻である。

p.163に眞嶋良全 教授が、...ジレンマ解決の際に、社会・感情的情報処理を行う、内側前頭回、後部帯状回という脳領域が活性化する。
社会的情動反応にかかわる腹内側前頭前野(ventro-medial prefrontal cortex: vmPFC)を損傷した者は1.功利主義的選択をしやすい、2.何が正しく何が間違っているかという理性的判断はできるが、high risk high return な選択を好む、3.私生活、仕事について無分別な判断をするか、決定できない。これらについての文献も記されている。ソマティック・マーカー仮説: somatic marker (身体信号)仮説と書かれている。

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Section 4.工学部から見た「邪悪性」の関数化とは
編集部の注では邪悪な人の特徴が次のように記されている。
D0: どんな町にも住んでいる、ごく普通の人
D1: 自分には欠点がないと思い込んでいる
D2: 異常に意志が強い
D3: 罪悪感や自責の念に耐えることを絶対に拒否する
D4: 他者をエスケープゴートにして責任を転嫁する
D5: 体面や世間体のためには人並み以上に努力する
D6: 他人に善人だと思われることを強く望む

D1~6をdescriptors とする。区間[0.1, 1.0]の実数値とする。
自分には欠点がない、と思っている人をD1=1.0、完全に「そう思っていない」人をD1=0.1とします。
50%「そう思っていない」人をD1=(0.1+1)/2=0.55とします。
35%「そう思っていない」人をD1=(0.1*0.35+1*0.65)=0.685とします。
以下、同様にD2~6について定義します。
Tを邪悪性とします。区間[0.0, 1.0]の実数値とします。正常人をT=0.0、完全な邪悪人をT=1.0とします。
このような数値化を行うのは、論理学の「無限多値論理」形, T=F(D1,D2,..,D6)に帰着させるためです。
---
集合{D1},{D2}に共通に認められる、不明な共通要素を有限個でも良いから導入して、D1,D2を段階的に表現します。それはアンケート等で良く見られる手法です。
例:6段階表現、Grade(D1)={全く無い、わずかに該当、少し該当、該当、かなり該当、完全該当}={0, 0.2, 0.4, 0.6, 0.8, 1}と考えます。これは6値論理で、6値論理⊂無限多値論理です。
---
関数は直交関数系で展開できます。この展開可能性から、descriptor間の独立性の検査が必要です。
しかし∫{D1}{D2}dτ=0 という計算をどうやっても出来ないでしょう。第一にdτ要素をどうするのです?

それでNeural Network (NN)の方から考えて見ます。
D1について50%「そう思っていない」人のデータは無いです。存在するのは0,100%の場合だけ、です。こういう場合にも、
{D1,D2,...D6}→{T}という関数関係T=F(D1,D2,..D6)を自動生成するのがNNです。
NNは0,100%のデータだけでその間の35, 50%の場合のT値を生成する(多変量)関数を生成します。

NNの構造:第1層ニューロン数7, 第2層6, 第3層1.
第1層ニューロン動作関数F1(Di)=Di, F1(D7)=1, 第7ニューロンはバイアス。
第2層ニューロン動作関数F2(Sj)、
F2(Sj)=1/{1+exp(-Sj)}, Sj=ΣWijF1(Di),
第3層ニューロン動作関数F3(t)=ΣYjF2(Sj), F3(t)<0ならばF3(t)=0, F3(t)>1ならばF3(t)=1.

Back-propagation, dumping factor=0.25 for Wij(), =0.1 for Yj().
Table 1. Input & teaching data (NNに学習させたデータ)

画像6
画像7

Figure 1: learning iteration and T-value for sum of 6 descriptors defined by uniform random numbers.

このNNは各層間のニューロン結合様式は全結合(perceptron型)である。
しかし1,2層間を(2,1)結合だけにすることも可能である。
(2,1)結合の例: 第1層D1 neuronと第2層 H1 neuronを結合する。
第1層D7 neuron(=bias)と第2層 neuronを結合する。
1,2層間をperceptron型の部分集合networkとし、2,3層間は全結合である。
Network全体で、descriptorsの数値の大小関係を保持する非線形変換とsigmoid関数の中央部を学習で最適化したrevised 6 descriptorsの線形結合でT():=evil性を計算する。このNNではdescriptors間のmixingが発生しない。前の全結合NNと比較することによりdescriptors間の直交性を判定する。
結果を示す。

画像8

両NNともBP学習は出来ている。学習済NNに、[0.1, 1]間の任意の数値を6個のdescriptorsに20k個入力して、NN出力(=T)を調べる。Descriptors値の総計とT値の相関図を示した。決定係数は0.978と0.824である。相関は「十分にある」と考えられる。descriptors間のmixingを禁止しない場合の決定係数の低下は0.154で小さい。ゆえにD1~D6間の独立性(=直交性)*が「十分にある」と考えられる。
これは重要な結果である。

Descriptors値の総計とT値の相関図から、邪悪性が顕著になるのは「6個のdescriptorsのうち5個以上が満たされたとき」と判断される可能性が高い**。

*) これらの計算では、descriptorsに20k個の一様乱数値が代入されています。代入を正当化するには、各descriptorが「おおむね独立」である、ことが要求されます。各descriptorの内容が、それにふさわしいものであるか、の検討が必要です。
私はD1~6の内容は「独立性をおおむね満たしている」と思います。

学生さんへ:これから色々な状況で「アンケートに答える」ことがあるでしょう。そのときには設問内容を検討しましょう。言い方を変えたような、ほぼ同一内容の設問が見つかったとします。
それはアンケートの形式を使う、アンケート提示者or作成者の「世論は~です、これが実態調査の結果です~」という、一見客観的な自己主張・正当化手段です。

このような項目別質問形式で病状が回復/悪化に向かっているかを判定する場合は、各descriptor値の判断は同一人物が行う必要があります。そして、その人物の判定基準の変化が無いように、定期的に他人との判断基準の打ち合わせが必要です。工学的には測定器のcalibration (較正、こうせい)と言います。特に、年度をまたぐような場合には、人間の判断基準のブレが無いようにしなければなりません。

**) 5よりも少ない値にする、こともできます。NNの出力をアフィン変換します。

Coffee break:
T1: 心理学の本は、ほんとうに言葉が過剰ですねえ。
Ref.10, Lauren SLATER, “Great Psychological Experiments of the Twentieth Century”, 2004.
ローレン・スレイター著、岩坂彰訳「心は実験できるか、20世紀心理学実験物語」紀伊国屋書店2005.8.31, ISBN4-314-00989-6, C0011.
私は、ローゼンハン(Rosenhan)の実験、狂気の場所の正気の存在"On being sane in insane places"のことを知りたくて上記のp.103~147を読みました。
 この実験のことは村井先生のRef.1にも書かれております。批判が多かった実験ですが、以降、精神医学が進歩したことは確かです。DSMもIIからIIIになり、精神症の判断基準が厳格化し、進歩したことが大きいでしょう。
 上記の本には、ローゼンハン実験の後日談がp.127以降に書かれています。そして、スピッツァー博士の言う「先入観を持って実験を行い、見つけたい結果を見つけ」ているのです。

 この本には第8章、思い出された嘘、ロフタス (E. Loftus) の偽記憶実験 p.279~313という記載もあります。p.284にロフタスの見解「記憶が時と共に必ず朽ちていくようす...」が書かれている。これは心理学の言葉では短期記憶*に相当すると思われる。しかし、言葉で朽ちていく、と言われても工学者には分からない。数式やcomputer simulation & figuresで明示していただきたい。

*) 心理学でいう短期記憶はRef.8, 第6章、宮原道子「記憶の構造と機能、情報の保持と利用」p.103~116によれば、Chunkという7±2 words部分である。このChunkに接続しているworking memory (p.118~110)は、controller, visuo-spatial sketch-pad, episodic buffer, phonological loops のブロック構造をとり、長期記憶へ接続されている。
Engineering neural network で言う短期記憶とは、このworking memoryまでを含む。

心理学では記憶をいろいろな角度から調査している。Ref.8, 第7章では杉森絵里子氏がプライミング(priming)現象についてp.125~で論じている。工学的には本現象は補間に近いと思う。neural networkは補間機能もある。

「記憶が朽ちていく」ことについて臨床医はどのように見ているか?が気になり、(長期記憶に係わることであるが)、
Ref.11, 中井久夫「徴候(sign)、記憶(memory)、外傷(trauma)」みすず書房、2004.4.1; ISBN4-622-07074-X, C1011.を読みました。

中井博士はp.159~、「外傷性記憶とその治療」で;
幼児、成人型記憶を分離する。境界年齢を2.5~3.5才とし、(1)成人文法性、(2)3者関係の理解、(3)自己史連続感覚の成立現象を述べる。
p.168では「本人にとっても成人文法性成立以前の自己史は、その後の伝聞や状況証拠によって再構成されたもの」と記述する。p.150にはロフタス氏の子供の証言に対する見解も書かれている。
p.66~67に幼児、成人型記憶の特徴が記載され、p.55に、外傷性記憶が幼児型に近いものであることが書かれている。p.57には成人に継承される幼児体験が視覚映像と聴覚現象になることが書かれている。
p.58~59には絶対音感のことが書かれている。人間は2.5~3.5才に音を検出するabsolutenessを失う、のであろう。
 Ref.11の上記の絶対音感を持っている彼女は町で聞こえてくる、ほとんどすべての音が「狂っていて」、それが耐えがたい不快となる。。。聴覚に敏感になるのは不安のときであり、、、、不安が加わってはじめて絶対音感が臨床的意味を持つようになる。。。とref.11に記載されている。
 多くの成人は絶対音感を失っているが、こういう記述を読むと、その理由が分かる。章は、教務委員の業務には関係が少ないですが、一読しておくと良いと思います。極限までモデルを単純化すると、偽記憶・幻聴現象にneural network approachが可能かも知れません。心理学から離れ、工学的に検討して見ましょう。

Coffee Break:
中井先生の本、Ref.11の臨床例は興味深く、多くの示唆に富んでいます。特に記憶に関する、索引と引き出された記憶の臨床例に。

Computerの記憶: メモリ素子ではaddress→素子→記憶data です。この機能はcomputerの電源を切れば消失し、素子にあった記憶も消えます。SRAM/DRAMの二種類があります。SRAM(Static Random Access Memory)は電子回路で0/1状態を保持し、DRAM(Dynamic Random Access Memory)はcapacitorの電荷の有無で0/1状態を保持します。DRAMは減少していく電荷を素子自身が~1[μs]毎に再書き込み(refresh)します。その間はDRAMは素子として機能しません。
再書き込み処理にはsoftwareは関与せず、OS (Operating System) 側から「再書込処理は見えません」。Software programの1命令の処理時間は~1[ns]です。
DRAMはSRAMより遅い素子ですが、記録密度が高く、かつ安価です。PCのメモリは殆どがDRAMです。SRAMはbufferに使用します。

Addressは32bits OSならば2の32乗[byte]までの線形空間です。ゆえに4GB。メモリ素子を全空間分実装する必要はなく、一部分の実装で十分です。実装されていない空間はhard disk (HD)上に置きます。

未実装の空間をUser’s softwareがアクセスすると、computerは割り込み処理に入ります。該処理はOSが行います。OSはuser programの動作を一時中断して、HD上の要求があった空間をHDからメモリ素子実装部へ書き込みます。書き込む場所が不足する時は、しばらく使用していないメモリ実装部のデータをHDへ書き出して、場所を空けます。Computer hardwareは自身のメモリ部分のどこをどれだけアクセスしているかを常時loggingしています。
こういうOSの動作をpaging/page-swapと言います。HD上にもpaging用の高速アクセスエリアを確保してあります。

しかし、これではaddressの対応が狂ってしまうでしょう。それで、Softwareからの要求addressをhardwareのメモリ素子addressへ「アドレス変換」します。アドレス変換自体はhardwareが行います。OSが関与するのは translation tableの管理だけです。このtableはUser programが使用する空間とは別の空間に置きます。それは、ユーザプログラムが動作する世界(空間)とは別の世界であって、そこを使ってOSとhardwareが陰で、ユーザプログラム世界の動作とメモリ空間の存在を保障しているのです。

二次記憶ではfile name (記憶に付けられたname; a kind of “address” in the naming-space)→secondary memory device: hard disk, solid state device (SSD)→data on the 2nd deviceです。
二次記憶は電源OFFでも消失しません。
Computer hardware設計者から見れば、心理学が言う短期記憶がメモリ素子のそれ、長期記憶が二次記憶に対応するように思えます。
Computer architecture設計者から見れば、短期記憶は同じですが、長期記憶を包含してfile name引用ではなく、引き出されるデータと同じレベルの「データによる記憶データの引用」連想記憶方式です。連想過程が絡むと異種のデータでも引用が可能です。これが中井先生の言う外傷(Trauma)記憶の「きっかけ」による引き出しでしょう。
脳とcomputerのモノとしての造りは全く異なりますが、動作制御構造から見ると対応する部分があるのは興味深いことです。

Ref11. p141~には多重人格のことが書かれています。
。。。普段、我々の前に出ている人格をホスト人格という。。。診療中にも別人格へのスイッチが起こる。。。
人格が唯一であるということは矛盾や葛藤を1人格が負うということで、、、
多重人格の下位人格は矛盾・葛藤を持たない、、、これはある意味で楽なこと、である。
---引用ここまで。

多重人格に相当するcomputer processingが存在するか、と考察します。近い処理はMulti-OS systemでしょう。Computerは起動HDをpartitionで分割し、それぞれに起動部分を書き込んでおくと複数のOSで動作させることができます。Multi-boot systemと言います。この場合は異なるOS毎に二次記憶が存在します。

OS-Aの下でOS-Bをemulation (模して動作)することができます。Virtual machineと言います。それは何層構造でも可能です。ただしemulationは元OSで直接処理を実行する場合の数倍以上遅い処理になります。

< 7/16 追記>
Ref.12, 中井久夫、中井久夫集8「統合失調症とトラウマ」みすず書房、2018.10.10, ISBN978-4-622-08578-2, C0311.
p.161に重要な記述がある。概要を引用する。
---
神経生理学者Benjamin Libet, MD. (USA)提唱説:
人間が自発的行為を実行するとき、その意図を意識するのは、脳が行動を実行しはじめてから0.5 [s]後である。脳(身体)が先に動き出し、意識は時間を置いて、その意図を知る。
しかも意識は「自分が身体に行動するように指示した」と錯覚(!)している。
---
意識による「自己コントロール」は間違って踏み始めたアクセルにブレーキを遅ればせにかけることになる。意識は追認するか、制止するか、軌道を修正するかである。意識は判断者である。
---
Libetは、脳/精神の情報処理能力を、
感覚器→脳が捕捉: 1.1×10**7 [bits/s]
意識が処理する情報量: 40 [bits/s]
とする。
脳全体の機能をSelf(自分)、意識の機能をI(私)とよぶ。
「自由意志」という体験(!): Selfが私に処理をまかせているときに起こる。
瞬間的決断のとき: 私と自由意志は一時停止する。Selfが脳全体を駆使して判断する。
--- 引用終わり
Wiki日本語版(2022.7.16)に、「意識とはニューロン機能の副作用であり、脳状態の付帯徴候・随伴現象」という見解が記載されている。
これはNNのmodelingにも影響する重大な指摘である。

★ 2023.9.6 追記 今年の夏は平均気温で+1.76℃高い、高温の夏です。日本近海、北海道東南沖の数百メートルの海水温が平年より数度高い、と言われています。
 こういう気候の時の夏休みは、家での読書が良いです。私は、
矢崎義雄 総編集 「内科学」第11版 朝倉書店 2017.3.20発行 ISBN-978-4-254-32271-2 を図書館で借りて読みました。
 B5判2400頁、全5巻から成る医学生用の本です。「意識」について医師は次のように解釈しています。
---- ここから引用
p.2057 意識の根源となる機序
日周期リズム circadian rhythm を司る視床下部とその支配を受ける
上行覚醒系 ascending arousal system、網様体賦活系の全体像は明らかではない。

意識をとる最小限の全身麻酔では、
大脳皮質と上行覚醒系ニューロンの興奮性もほとんど抑制されない。
意識を生み出す脳活動には未だに解明されていない 要素が必須である。
 <2017年で、多分2023年の現在でもこの状況なのか?と思います。>
----- 脳の意識障害
昏睡 coma: 覚醒(arousal)が得られなくなった状態
昏迷 stupor: 覚醒なし、不快刺激に回避行動の反応脳の意識障害
昏睡 coma: 覚醒(arousal)が得られなくなった状態
昏迷 stupor: 覚醒なし、不快刺激に回避行動の反応
深昏睡 deep coma: 外的刺激に無反応
---
錯乱状態 confusional state: 覚醒維持かつ大脳皮質機能が確認できる、が正常な認識力が欠ける
譫妄 delirium: 興奮(agitation)、妄想(delusion)、幻覚(hallucination)、錯覚(illusion)を呈する急性の錯乱状態

---- 2017年現在、内科学は意識を次のモデルで考えている。
大脳皮質: 賦活されるもの、様々な機能ユニットの集合
網様体賦活系: 賦活を維持する。中脳から中脳吻側に存在する仮想的な装置
両者を結ぶ配線(特定の経路を定めない)がある。

植物状態 vegetative state:
網様体賦活系正常、睡眠と覚醒の違いが認められる、
にもかかわらず大脳皮質機能不全がある。
自己と外界との関係認識が欠如のまま数週間継続している。
--- 引用ここまで

< 2022.9.24 追記 >

みすず書房、中井久夫選集11「患者と医師と薬とのヒポクラテス的出会い」、2019.7.10, ISBN978-4-622-08581-2, よりp.24~を要約する。()内はimg140eの補筆。
[脳による疑似現実の合成]
1.我々の色覚は加齢とともに色と対応しなくなる。
2.水晶体は人体で、誕生以来物質が入れ替わらない部分である。
3.老人の水晶体は焦茶色である。脳が修正をかけて(空を)青色に認識させる。
4.修正による青空はべた一面の青で、空の遠近感がない。
ーーー
5.脳体積の1/3は血液である。脳に充満している動脈の拍動音が消去されている。
6.老人になって脈動型の耳鳴りに苦しむ人が出てくる。
ーーー
脳(...というより「意識」でしょうね)の機能: 分類と概念形成 である。
脳の限界: ミラー数 ~7チャンクスしか操作できない。
1チャンクスに下位7チャンクスを置くことはできる。
ゆえに~49分類体系は可能、7x7x7=343体系を作れる人も居るだろう。
加齢にミラー数は減少する。
ーーー
人類の区別できる色数は10**7~1000万色であるが、
対応する色名(意識が生み出した言語の世界で)は、こんなには無い。
言語によって違うが、英語が50%対応する色名を有し、
日本語が25%、中国語(北京官話)が6%だそうである。
名称の無い色が存在しうる、ということである。

ーーー内容の引用、ここまで

ーーー < 6/21 > これから幻聴のモデル計算をします。

Ref.8, p.85~100, 第5章、知覚の障害に萱村俊哉教授が感覚と知覚を区別する、Wundt, Wのapproachを紹介しています。
それによると、感覚の属性は質と強さ、知覚の属性は時間と空間です。
p.93に聴覚失認のことが記されています。それによれば、聴音失認、失音楽、純粋語聾です。

NNには音を周波数スペクトルとして入力します。ゆえに、感覚のintensity、知覚の聴音失認、失音楽の一部分をcomputer simulationします。

NN構造:
NN simulationには入力、教師データが必要です。
人間の教育環境で言うならば、入力データは外界認識情報で、教師データは「それが何であるか」という情報です。
NN simulationは(1)入力、教師データ間の1:1対応を構築するback propagation (BP) learning期間、
(2)対応関係完了後の、入力データに近い新データをNNに入力して、それがBP learnした何に相当するのかを調べる期間の二段階から成ります。

入力データは有限ベクトルです。各要素を[0.1,1]区間で定義します。
Input data={Xij, i=1,2,..,nptn, j=1,2..,N}, 0.1<Xij<1.
教師データも一般には有限ベクトルです。各要素を[0,1]区間で定義します。
Teaching data={TE(ij), i=1,2,..,nptn, j=1,2,..,M}, 0<TE(ij)<1.
音楽データの場合はj=1, TE(i)とできます。これらが何を意味しているか、を音の定義の後に示します。

BP learningでは1入力データを複数種の教師データと対応させることは出来ません。
複数種の入力データを1教師データと対応させる、ことは可能です。
論理式で書くなら、Impossible{A→B and A→C; A≠B, A≠C, B≠C}, Possible{A→C and B→C}.

聴覚のNN simulationなので、音を周波数で定義します。
nptn:=number of patterns, pattern:=input format of data of NN. we set the nptn=5000 (5k).
dt=10π/float(nptn-1), t={dt*(i=pattern number)}**1.25, 0<i<5001, i=integer number.
**1.25の意味は1.25乗とする。
sound(i)=sin(t)+sin(2t)/2+sin(t)/3+sin(t)/4; thus, the sound is a vector.
この音はtの増大と共に、高音となる。

音, sound(i) vectorと入力、教師データとの関係: Xi,jとします。
X1,1=sound(1), X1,2=sound(2),…, X1,6=sound(6), X1,7=1(const.), TE(1)=sound(7);
X2,1=sound(2), X2,2=sound(3),…, X2,6=sound(7), X2,7=1(const.), TE(2)=sound(8);

X5k,1=sound(5k), X5k,2=sound(5k+1),…, X5k,6=sound(5k+5), X5k,7=1(const.), TE(5k)=sound(5k+6).


NN構造:
第1層、6 neurons, and 1 neuron is used for a bias.
第2層、65 neurons.
第3層、1 neuron.
第1層のニューロン数を7個にしたのはChunkを意識しています。
第2層のニューロン数を多くしたのはワーキングメモリを意識しています。
BP learningでは各層のニューロンは全結合で、かつ全ニューロンが常時稼働しています。
しかし聴覚、音の認識では;
前の音が現在の「音の認識に影響する度合」は時間の経過と共に減少していくのではないでしょうか?
我々は、この効果を導入します。
N25pre=N60G ! :=#of 1~6th neuron on 1st layer
N25d=N25-N25pre ! N25:=# of 2nd layer’s neuron
dd=dfloat(N25d)/dfloat(NPTN)
---
Dois=dd*dfloat(IPTN-isft) ! IPTN={1,2,..,5k:=NPTN}
if(DDis < 0.0)DDis=0.0
IS=1+DOis ! 1,2,...7
IE=IS+N60G ! 7,8,...13
---
として、この[IS,IE]区間の第2層ニューロンと結合する第1,3層間のニューロン結合だけをBP learningで稼働させます。このlearningはNNの一部が活動して、それが時間経過と共に移動していく、ことに対応します。
こういうNN構造にした理由: Chunkという少数の情報受信部を受け入れると、外界に接続している層は第1層しかなく、第2層のニューロン数を第1層から過大に大きくすると、変更できる変数(この場合はニューロン間の結合)が過大になる。それは数値計算上、長時間計算と解に収束する可能性が低くなる、などの理由で避けるべき方向である。それを受け入れると、第2層ニューロンの部分的な使用になる。


BP learningの結果:下図のように十分な精度で学習が成立しています。
<soundBPL.png>

画像9

この学習が完了したNNに、入力データを代入すると、O(-4)の誤差で、原音(教師データ)を出力します。本処理に教師データは全く寄与しません。
けれども、NNの何処かが、例えば第2層ニューロンの32~65番目が劣化していると原音を再現出来なくなります。
劣化の定義: 31番目のニューロン出力値を100%、65番目が50%、その間のニューロン出力値が直線的に低下する。

<soundDC0.png>

画像10

劣化していないニューロン1~31を使った場合、赤(原音)を青(NN出力)が追従できています。外界音を正しく認識できている。劣化ニューロン32~65を使用すると、原音後半部で青の出力が低下しています。波形は崩れていません。外界音の認識機能が低下しています。

第2層のニューロン出力を低くする、ことは第2,3層間ニューロン結合路を細くする、ことと同じです。第1,2層間のニューロン結合路を細くし、第2,3層間ニューロン結合路を元のままに保った場合を計算しました。
<soundDC1.png>

画像11

劣化が起こっていないニューロン間結合を使った場合、赤(原音)を青(NN出力)が追従できています。
劣化した結合を使用する原音後半部では青の出力が低下しますが、第2層ニューロン値を低下させた場合とは違い、低レベル側が持ち上がっています。この場合はNN構造が単純で、他の音を記憶した部分からの漏洩シグナルが無く、波形は崩れていません。

第2層ニューロン#32~65の出力を[0,1]区間の一様乱数とした場合のNN出力を計算しました。
<soundDC2.png>

画像12

劣化が起こっていないニューロン1~31を使った場合、赤(原音)を青(NN出力)が追従できています。
一様乱数値ニューロン32~65を使用する原音後半部では波形が崩れ、原音とは違う音を出力しています。外界音の認識機能が無くなっています。
NN simulationは乱数=情報を失ったニューロンからは、聞いたことがない音と認識される可能性を示唆しています。ただし、第2層のニューロンを働かせる時間移動部分の動きは失われていないので、音の周波数変化は起こりません。

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