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病院事務方とコロナBCP

いま、即席コロナBCPが求められている

一般企業、とりわけBtoCの企業に関してはその多くが休業を余儀なくされている状況です。病院の場合は、休業の対象外になっているわけですが、受診控えにより、患者数は減少傾向です。また、新型コロナウイルス感染症陽性患者を受け入れている病院は全国に多数存在し、感染指定病院以外でも協力要請に応じ、受け入れ用の専門病棟・病床を確保しているところもあります。

このような状況下において、病院事務方は、何をしなければならないか、とりわけ、私のような病院の経営企画部門は、現状で何ができるか。現実問題として、いま通常の経営企画は何もできない状況です。こういういまだからこそ、コロナという脅威に対応していかなければならない、そう思っています。

各医療機関では、政府の情報、各関係団体が発出する情報等を基に対策マニュアルを早期に作成して、院内周知を図っています。多発地域や未拡大地域では状況が違いますので、BCP等と悠長なことを行っていられない状況下で戦っていらっしゃる病院がたくさんあると思います。日々、刻々と変わる状況に対策を講じていくしかない状況です。

しかし、そんな中でもより現実に近いレベル感でBCPや最前線のマニュアルを整備し、周知徹底することは、現在進行系の病院、そうでない病院であっても、それぞれの立場において必要になってくるのではないかと考えます。

とは言え、現場対応が精一杯で、その余力がない病院が多いことも確かです。
 経営企画的な部門がある病院の場合、経営企画のリソースを今、コロナBCP、コロナ対策マニュアル等に注ぎ込む必要があるのではないかと思います。
 そのようなセクターがない場合は、コロナ対策本部のメンバーで分担して作業を進めていく必要があります。
コロナ感染拡大の危機の中、現実に即したBCP策定と発動のポイントは、全体網羅よりも重要ポイントに絞って、たとえ即席BCPであったとしてもとにかく一定の段階で周知していくことが重要ではないかと考えます。最低限の構えをまず、院内に周知し、その後、ディティールについては、外部環境の変化と院内での問題点を初版のBCPを叩き台としてブラッシュアップしていく必要があると考えます。一方、改定頻度が非常に多くなることも予測され、そうなると現場の混乱も懸念されるため、周知の方法には留意が必要です。

 災害拠点病院ですらBCPが策定されていない状況が確認されている中で、コロナBPCが存在する病院は極めて希少ではないかと推測しているところです。感染症用のBCPは、地震災害等のBCPとは様相が異なりますので、どのようなBCPの考え方が必要なのかも、私達のような事務方の目線では、中々想像もつかないのが現状です。
 そこで経営企画部門目線で、即席コロナBCPを策定していくためのアジェンダをざっくりと考えてみました。(BCPのお作法はきちんとしたものがありますが、今からそれに則ってやっていくには時間がかかりすぎます)

1.現状を知る
自地域の状況や類似規模地域の動向を把握し、どういう状況なのか、これからどうなりそうなのかを把握する。
2.被害想定を行う
 感染拡大の経路に沿い、外部環境はどのような変化が起きるか、自院にどのような影響がでるのか想定する。
3.被害想定に即した対応方策を考える
 各レベルに応じた対応方策を考える。
 人・物・金・情報の視点を忘れずに。
 ポイント:経営企画目線では、特に資金繰りも想定する。
4.被害想定を絞り込んだ上で最前線のマニュアルを整備する
 医療従事者の対応策、医療の現場での適切な対応マニュアル(PPE手順)
 コロナ発生時の対応方策を医療面だけではなく、病院運営面からの事務的な目線からも考える。(問い合わせ、メディア対応、職員健康管理、メンタル対応 等の目線)

以下、アジェンダに沿い、私なりの検討手順を解説してみたいと思います。

1.現状を知る

 自地域の状況や類似規模地域の動向を把握し、どういう状況なのか、これからどうなりそうなのかを把握する必要があります。
 様々な情報リソースが公開されています。
 一番各都道府県の状況をわかりやすく可視化しているのが、以下のサイトではないかと思います。

ヤフー新型コロナウイルス感染症まとめ
https://hazard.yahoo.co.jp/article/20200207

NHK 新型コロナウイルス特設サイト
https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/

東洋経済 新型コロナウイルス国内感染の状況
https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/

それぞれ出典は厚労省の報道発表資料がベースだとは思いますが、NHKに関しては取材を含むとの記載があります。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00086.html

 このうちやはり、見やすいのはヤフー特設サイトではないかと思っています。都道府県毎にグラフが生じされる点、退院患者数を同時にグラフ化さてれているので、他のページよりも現状がよくわかるのではないかと思います。

 なお、マニアックではありますが、北海道大学のサイトで、感染症数理モデルが公開されています。shinyを利用して、SEIRモデルを実装したwebが公開されています。
https://biostat-hokudai.jp/seirmodel/
 自地域の定数を入力すれば、患者の推計が可能です。専門家会議で出された、8割減のモデルを当てはめるには、
R0は2.5だが、8割接触を削減できたら、2.5×(1-0.8)=0.5がRt
なので、基本再生産数を0.5にすれば、これを踏まえた推計が可能です。

2.被害想定を行う

感染拡大の経路に沿い、外部環境はどのような変化が起きるか、自院にどのような影響がでるのか想定する必要があります。
しかし、被害想定といっても、どういう状況をたどるのか、今現在感染者多数地域では何が起きているのか、明日は我が身の病院も多数存在すると考えられます。
とにかく、現状の把握ができれば、まずは、何をどうしなければならないかの、アジェンダがほしいところです。
そこで、重宝したのが、以下の資料です。

日本医師会が令和2年2月14日に発出した資料です。新型コロナウイルス(Covid-19)と新型インフルエンザとは、ウイルスの性状が異なるとした上ではありますが、”新型インフルエンザのBCPの手引き”が今回の新型コロナウイルスのBCPにも応用できるとして紹介されています。
http://dl.med.or.jp/dl-med/kansen/novel_corona/2019ken2_269.pdf
以下のホームページにwordファイルでひな形も準備されており、もはや、これをそのまま自院に当てはめて作成していけば、1日もかからずともBCPが策定できてしまいます。
https://www.med.or.jp/doctor/kansen/novel_influenza/001711.html

これを知らないと何も始まらない超基本的なことではありますが、現在の日本国内は、地域感染早期~地域感染期であるということです。その上で、このBCP手引を準用し、策定に取り掛かると無駄が省けます。もちろん、地域感染期前段階についても大事ではありますが、今更そんなことは考えてはいられないので、地域感染早期以降を重点的に考える必要があります。

しかしながら、実際に活用してみて、やはりBCPはBCPなので、ディティールに関しては、不足感があるとともに、新型インフルを前提としたアジェンダなので、若干の不足感を感じました。もっと、何をどうすれば良いのか、院内の体制まで含めてチェックできるのが、以下です。

新型コロナ地域感染期の診療継続計画づくり(国際医療福祉大学 医学部 和田耕治)
https://www.m3.com/iryoIshin/contents/images/2020/200225yhP10.pdf
※m3へのログイン必要

以下のようにコロナBCPの具体的な処方せんが出されており、これに沿って、検討事項をチェックすれば、自ずとやらないといけないことが明確になります。


【診療継続計画の策定に必要な10のアクション】
アクション 1. 医療機関としての方針と担当組織を設置する
アクション 2. 迅速かつ的確な情報を確保する
アクション 3. 受入病床の確認と患者の動線を確保する
アクション 4. 受入能力を調整する
アクション 5. 職員の健康を管理する
アクション 6. 職員、関連機関、地域住民との緊急連絡体制を整備する
アクション 7. 地域の医療機関と行政機関との連携を始める
アクション 8. 医薬品や必要物品を確保できるか確認する
アクション 9. 職員の行動を明確にする
アクション 10. 訓練を実施する

 これらを基に、重点的にやらないといけないテーマを現状に落とし込み絞りこみ、今何をしなければならないかの超絶ミニマムBPCを策定しつつ、同時並行でそれに則ったマニュアルをICT(感染対策チーム)や医療者に依頼して、整備してもらう。適宜追加していくのが即席BCPのリアルではないかと思います。

 さらに、地域によって状況は異なりますので、これから起こりうる被害想定を独自に行うことが最も重要かと考えています。
 上記のものだけでは、リアリティのある被害想定まではできません。あくまでざっくりとしたものだけに留まります。実際には、感染が拡大していく"地域感染期"の中でも危機的な状況のレベルは全く異なる様相を呈すると考えられます。
ざっくり言えば、危機レベルは2つに大別できると考えます。


①地域内での環境変化状況においてどのようなスタンスで対応していくか
 地域で感染拡大していく段階(地域感染期)で、周りの環境がどんどん変化していく段階があり、(1)県内でクラスターが発生している段階、(2)医療機関で孤発の感染が確認される、又はクラスターが病院内で発生する、(3)感染症指定病院のキャパシティオーバー等すでに感染拡大地域では危機・壊滅的な状況、が考えられます。外部の状況変化に応じた自院の対応方針について、構えを持っておく必要があります。

②院内で感染確認(職員、患者発生)の方針と具体的な対応
 地域での感染が拡大していくと自院でも感染が確認されるような状況になります。その際の対応方針や事前の被害想定については、整理しておく必要がありますし、それに基づく具体なマニュアルの整備も必要になってくると考えます。

 これらの被害想定レベルは段階を追わずに突如としてそのレベルに遭遇することが予想されます。

 また、上記以外にも自院で陽性患者を受け入れる場合の想定も病院によっては、必要になります。これは、方針自体はBCPレベルですでに整理されることですが、具体なマニュアルは早期に整備、マニュアルが間に合わない場合、事前想定等、十分な訓練も必要となります。最前線の対応方法は、マニュアルレベルの話ですが、この対応方針自体は、BCP段階で検討する必要性があります。(もちろん、多くの病院は設備的な課題から対応不可能だと思いますが、公的機関等は協力病院として何らかの対応が求められることになると考えます)

3.被害想定に即した対応方策を考える


 各レベルに応じた対応方策を考える。
 人・物・金・情報の視点を忘れずに。
 ポイント:経営企画目線では、特に資金繰りも想定する。

① 状況に応じた診療対応方針
2.で検討したような想定レベルに応じて具体的な対応方針を事前に検討していく必要があります。感染が蔓延してくると、通常の診療状況においても陽性者が紛れてくることが予想されますし、感染症指定病院、協力病院のキャパシティがオーバーしてしまった場合の対応方策についても、設備構造的な観点や最悪の事態を想定した場合にどのような状況を作り出せば、回避又は対応できるのかといったことを予め想定した上で、当面の対応方針として結論を出しておく必要があります。いざ、そうなった時に判断していては遅いということになりかねません。ある程度、想定被害レベルは、大きく2つにわけて、さらにその過程を細分化することもできると思います。
また、(1)陽性患者、(2)疑い患者、(3)無症状者で受診・入院後に陽性が疑われる場合、等に備えた対応方針も検討しておかなければなりません。
 診療科によっては、通常時地域で大きな役割担っている(一手に当該診療機能を担っている)場合は、当該疾患の併存で受診依頼が来る可能性も否定できません。このような際、どうするのかを事前に決めておかないといざということに混乱を来します。

 地域の状況に応じて、延期できる治療は延期する等の対応方針も事前に検討しておく必要があります。また、地域によっては延期を検討する段階ではない場合もあるのではないかと思います。

②資金計画
 また、上記のような様々な段階で、実際にそうなった際の減収の予測と資金繰り計画も検討しておく必要があります。診療報酬の現金化は2ヶ月遅れですので、4月の減収は6月の資金収支に影響します。すでに多くの医療機関で4月の収益は減少基調にあると思いますので、このダメージは賞与月の6月に来ることになります。その際に、現状の内部留保で十分賄える状況なのか、短期の借り入れを起こす必要があるか、を検討しておく必要があります。医療機関への減収補填は現段階では皆無に等しい状況ですが、かりに補填があったにしても、単月の資金繰りにタイムリーな支援がなされることはまずありえないと考えます。そのため、ざっくりでも良いので、キャッシュフロー計算書を作成し、6月時点での資金不足額を把握しておく必要があります。

③ 人材配置計画
 院内感染が起こった際には、人的リソース不足に陥ることが予測されますので、その際にどれくらいのダメージがあるのかを予測しておくことも必要ですし、それを前提とした診療縮小方針も検討しておく必要があります。無論、現状では院内感染が確認された時点で新規の受け入れストップ、濃厚接触者の調査で高リクスと判定された対象者はPCR検査、自宅待機等の対応になると思います。

④物品供給状況のシミュレート
 BCPの基本中の基本ですが現状でどれだけの在庫があり、どれだけ維持できるのかということは予め想定しておかないと、対応方針よりもまず先にモノがないと何もできませんので、現状では不足が前提でありますが、PPEフル装備が医療の最前線でどこまで実現可能なのかどうか、自作物の必要性がどの程度あるのかを調査・シミュレートし、院内に通達する必要があります。この前提がないと、医療者は日々安心して診療にあたることができません。ここは本当に地域、病院によっては物品が枯渇し、どうしようもない状況にあるところもあるため、物品の在庫量がすべての行動を規定すると考えないといけないと思います。

⑤コロナに関する情報収集
 経営企画部門の最も重要な役割は、情報収集かと思います。厚労省の事務連絡は、以下のページから参照できますが、医療的側面だけでなく、事務的な側面からもリスクを回避できるような情報収集は継続し、院内に伝達する必要があります。
以下より、”新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて”
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00088.html
が参照可能ですので、随時更新をWEBチェッカー等で自動検知する等の対策が必要です。
現在、臨時的な取り扱いは4/28時点で「その15」まで発出されていますが、

その12
https://www.mhlw.go.jp/content/000622827.pdf
では、施設基準の大幅な緩和がなされています。

3.新型コロナウイルス感染症患者の受入れに伴い必要な手続き等への柔軟な対応について
新型コロナウイルス感染症患者の受入れのために、特定集中治療室管理料等と同等の人 員配置とした病棟において、新型コロナウイルス感染症患者又は本来当該入院料を算定する病棟において受け入れるべき患者を受け入れた場合には、それぞれの入院料に係る簡易 な報告(※)を行うことにより、該当する入院料を算定することができることとすること。 ※ 当該運用の開始に当たっては、運用開始の日付及び人員配置等について、各地方厚 生(支)局に報告すること。

 医療者の世界では、随時SNS等で情報交換もなされていると思います。
Facebookやメディカルケアステーションでもコロナ対応のチャンネルが作られ、Q&Aや議論が繰り広げられていますので、参加して、医療側の情報収集を行うことも肝要かと思います。


4.被害想定を絞り込んだ上で最前線のマニュアルを整備する

 医療従事者の対応策、医療の現場での適切な対応マニュアル(PPE手順)
 コロナ発生時の対応方策を医療面だけではなく、病院運営面からの事務的な目線からも考える。(問い合わせ、メディア対応、職員健康管理、メンタル対応 等の目線)

 マニュアルの整備は、BCPと同時並行、むしろ先行する部分がないと対応できないと考えられますので、早期に整備が必要です。医療の最前線はさることながら、事務方で考えられるのは、地域感染早期における、入館制限・面会制限等の対応策やフォメーションをいかに整えるかについても検討していかなければなりません。
 さらには、院内感染時の地域に対する対応方針、布陣の検討は無論最重要課題です。迅速な対応が求められますし、適切な情報公開も地域社会の利益のために必要です。また、一方で、問い合わせの急増が予測され、その対応をどのように行うのかについての陣容体制、そして、外線電話がパンクし、保健所等の連絡に支障をきたすことも懸念されますので、バックアップ回線や携帯電話での対応等についても予め想定しておく必要があります。
さらには、メディア対応窓口についても事前に検討しておく必要があります。

まとめ 

 今回は、医療者側の対応方策というよりも、事務方目線、とりわけ経営企画部門が発動すべきBCPの目線について現場からの経験を基に、情報発信させていただきました。

 まだまだ、渦中にある中で、勉強不足なところが多々あります。それでも全国の医療機関で、その立場と感染状況に応じた対応方針をBCPという形で整備されていないところが多いのではないかと危惧したところであり発信したところです。本稿は未成熟、未完成なところは多々ありつつも、それを承知で上、少しでも全国の事務方の皆さんのお役に立てればと思って発信いたしました。これを機にさらに、さらに参考になる情報交換がなされ、また、現に現在進行形・最前線で対応されている医療機関の皆さんの知見もお借りしながら、少しでもこの状況下で病院運営を継続できる知恵を出し合い、この危機を乗り越えられるようにしていきたいと考えています。本來、政府・行政による統制と財政的支援を前提としたいところですが、現場はそれ以上のスピードで物事が進んでいきます。事務連絡が出た際には、すでにその問題は起こっているのです。
 ですから、現場の最前線にいる事務方の皆さんも、現場での問題点をシェアし、知恵を出し合い、そして、医療機関同士が支え合うことで、地域の医療崩壊を最小限に留めることができないかと考えた次第です。