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国税徴収法アラカルト(9)「債権」の差押え②(第三債務者の立場から滞納処分を考える~二重弁済というリスクについて)

前回は債権の差押えについて、給料債権と預金債権に焦点をあてて、考察してみました。

給料を支払う立場にある会社や事業者は、滞納者である従業員当事者でないものの、非常にデリケートな状況に立たされることもイメージできたのではないでしょうか。

今回は、このような債権の支払義務のある「第三債務者」の立場から、もう少し深く、滞納処分により受ける影響を考察していきたいと思います。



まずもって「第三債務者」って誰のこと?

いきなり「第三債務者」という言葉がでてきてしまったわけですが、この第三債務者とは一体、誰を示すのでしょう。

第三債務者とは、滞納者に対して債権の支払義務がある者のことを言います。「税務署及び滞納者間の当事者でない第三者であること」+「滞納者に代わって国税の支払義務のある債務者であること」によりこのような言葉で表現されているのです。

本来であれば、滞納処分とは無関係とも思える第三債務者ですが、これからお話ししていく通り、実はかなり深く関係してくる立場に置かれてしまうことになります。言葉が少々よろしくないかもしれませんが、半ば、滞納者のいざこざに巻き込まれてしまったような感じかもしれません。

ところで、債権の差押えってどうやってなされるの?

形無き債権の差押えは、どのような手続きをもって進められていくのでしょうか。

まず、債権を差し押さえた場合、税務署の徴収職員は、「第三債務者に対して、債権差押通知書を送達する」ことを行います(徴収法第62条1項)。

そして、この第三債務者に対して債権差押通知書が送達された時点で、対象債権における差押えの効力が発生することとなります(徴収法第62条3項)。

差押えというと、滞納者に対してなされるイメージが自然な感じがすると思いますが、このように債権については、その財産の性質上、差押えの手続きは、まずもって、第三債務者に対して行われることになります。

もちろん、当事者である滞納者に対しても、当該債権の差押えの事実を認知してもらう必要があるため、別途、差押調書謄本が交付されるのですが、あくまで債権差押の効力発生は、第三債務者に対する債権差押通知書の送達時点となるところが重要です。


債権差押の効力が第三債務者に対しどんな影響があるのか!?


債権差押えの効力が発生すると、一体どのようなことが起こってくるのでしょうか。

この差押えの効力を発生させる債権差押通知書には、①滞納者の氏名及び住所、②差押えに係る国税の内容、③差押さえる債権の種類及びその金額、④滞納者に対する履行を禁ずる旨及び徴収職員に対し履行をすべき旨、が記載されてきます(徴収法施行令第27条1項)。

上記記載事項④の通り、債権差押えの効力が発生すると、滞納者が当該債権を取り立てる等の行為が禁じられることはもちろんのこと、第三債務者においては、当該債務を履行することが禁じられます(徴収法第62条2項)。

つまり、滞納者は第三債務者にお金を請求できず、第三債務者は、滞納者にお金を支払ってはいけないということとなるのです。

ここで第三債務者は、この債権差押通知書の送達を受けた場合には、まずもって、これらの記載事項について、慎重に確認することが必要となります。

特に上記記載事項②③については、注意が必要です。
当たり前のことかもしれませんが、滞納者の滞納国税がいくらなのか、そして、滞納者に対して有するどの債務が差し押さえられたのかを、きちんと把握しておかなければなりません。

例えば、滞納国税100万円である滞納者Aに対して、買掛金50万円と別の買掛金70万円あったとしたら、どちらが差し押さえられたのか、はたまた、両方差し押さえられたのか、確認しておく必要があるのです。

この例でいくと、通常であれば、50万円の買掛金と70万円の買掛金はどちらも差し押さえられて、債権差押通知書にその旨の記載がされてくることでしょう。

この債権差押通知書と合わせて、「債務確認書」なる文書も送達されてくるケースも多いと思います。

この債務確認書は、差し押さえる債権の内容に間違いがないか、第三債務者に確認してもらう趣旨の文書です。

後々のトラブル回避のためにも、実際にその債権が存在するのかどうか、確認の上、税務署に返信することが望ましいものと考えます。

ところで、50万円+70万円=120万円で、滞納国税100万円を超過して差押えがなされており、これが徴収法48条1項に規定する「超過差押えの禁止」に抵触しているのではないか、という疑問もでてきそうですが、これについては次の条文で手当てされることで、疑問は解消されているものと思われます。

(国税徴収法第63条)<差し押さえる債権の範囲>
徴収職員は、債権を差し押さえるときは、その全額を差し押さえなければならない。ただし、その全額を差し押さえる必要がないと認めるときは、その一部を差し押さえることができる。

「二重弁済」してしまわないように注意する!!

このように、滞納している支払先に対するどの買掛金が差し押さえられたのか、をしっかりチェックしないと、いわゆる「二重弁済」のリスクがでてくることになります。

先の例でいえば、50万円の買掛金と70万円の買掛金のどちらも差押えらております。

例えば、支払先である滞納者Aから、「買掛金50万円だけでも支払ってほしい」などの依頼があって、うっかり滞納者Aに支払ってしまうと、後々、さらに徴収職員からの取立により、さらに50万円を徴収職員に支払わなければならない状況になってしまいます。

これを「二重弁済」といいます。

もちろん、滞納者Aから先に支払った50万円分を返してもらうという方法もなくもないですが、滞納者A自身も、資金繰りに困っている状況でしょうから、現実的にはなかなか難しいことだと思われます。

そうしますと、第三債務者としては、大きな損失となってしまうので、特に注意が必要なのです。

次回は、債権差押後の履行処分が禁じられている中、その履行処分の一つである「相殺」に焦点をあてて、考えていきたいと思います。










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