【コラム】MRI検査時の注意事項まとめ
MRI装置は非常に強い磁場を24時間発生しており、金属の持ち込みには十分に注意しなくてはいけません。
Twitterでのやり取りをまとめて一つのnote記事にしました。
元ツイートはこちら。
画像引用元:医薬品医療機器総合機構PMDAホームページ (https://www.pmda.go.jp/files/000144220.pdf)
まず少しこの写真の説明をすると、何らかの原因でMRIの部屋に医療用の大きなベッドが入ってしまい、強い磁場でベッドがMRIに引き寄せられてしまっている状況です。
MRIの磁力は非常に強く、重いベッドが吸着されて地面から浮いてしまっています。
この画像を見て寄せられた質問および意見は大きく分けると以下の5つでした。
1. 想像以上に強い力で驚いた。
MRIは超電導状態になっている電磁コイル(電磁石)に電流を流して磁場を発生させています。
理科の実験を思い出される方もいらっしゃるかもしれませんが、コイルの巻数を増やしたり電流を強めたりすると、磁力が強くなります。
右ネジの法則による電磁誘導ですね。
臨床的に用いられるMRIは1.5テスラや3テスラという強さのMRIが用いられることが多く、地球の本来の磁力(地磁気)はたったの0.000024~0.000066テスラ(Wikipediaより)しかないので、その強さが推し量れます。
人によっては「MRIに近づくとフワッとした感じがする」とおっしゃる方がおり、磁場酔いと呼ばれたりします。
一説には強い磁場で三半規管内の耳石が動いて、平衡感覚がズレるためと言われています。
2. こんなこと起きるの?
放射線科で仕事をしていると、大きな物から小さな物までMRIに金属が吸着してしまったという類の話を時々聞くので、ベッドが吸着している画像を見たときも、「こういうこともあるかもしれない」程度の感覚でした。
でも、普段何気なくMRI検査を受けていらっしゃった方には、衝撃的な写真だったようです。
全国で金属吸着事故がどのくらい起きているのか、改めて調べてみたところ、小さなものも含めると今でも年間に150件程度は発生しているようでした。
引用元: 日本画像医療システム工業会ホームページ (http://www.jira-net.or.jp/anzenkanri/02_seizouhanbaigo/02-03.html)
MRIの金属吸着事故に限らず、医療の現場でのアクシデントやインシデントは、普段仕事しているときは十分に注意しながらやっていて、「絶対起きるわけないじゃん」とすら思うのですが、色々な条件が偶然重なってふと起きてしまうことがあります。
リスク管理の概念の一つに、スイスチーズモデルというものがあり、穴の開いたチーズを何層も重ねた状態が組織のリスク管理体制で、万が一にも事象がその穴をすり抜けて危険が顕在化しないように気を付けなくてはいけない、というものです。
個々人が出来る限り注意するのも大切ですが、ひとたび事故が発生してしまった場合には、闇雲に悪者探しをするのではなく、チーズの穴をすり抜けて危険が顕在化してしまったシステム自体を改善しなくてはいけないとはよく言われることです。
3. 体の中に金属(銀歯、インプラント、ペースメーカー等)が入っているけど大丈夫か?
この質問が一番多かったかもしれません。
歯科治療用の金属(アマルガムなど)、インプラント、人工関節、動脈瘤コイル、血管ステント、ペースメーカー、人工内耳など、色々な医療用人工物での問い合わせを頂きました。
金属といっても、磁力に対する反応は実は様々で、磁力に引き寄せられるかどうかによって、
非磁性体:磁力に引き寄せられない
常時生体:磁力に引き寄せられる
強磁性体:磁力に強く引き寄せられる
反磁性体:磁力に反発して離れていこうとする(!)
という4つの性質に分けられます。
この中で、MRIの撮影を行うことが可能なのは、非磁性体で作られた人工物です。
ただし、金属が存在すると、その周囲の信号は上手く拾えず、人工物周辺にぽっかりと穴が開いたような画像になります。
最近の医療機器は将来的にMRIを撮像することを想定して、非磁性体で作られているものも多くありますが、個別に確認が必要なので、何らかの人工物が体の中にあるというときには、MRI検査を受ける際に必ず医療従事者にお伝えください。
4. メイクやカラーコンタクト、タトゥーがダメと言われるのも強い磁場が理由か?
メイク、カラーコンタクト、タトゥーはMRI検査の際、注意が必要です。
その理由は、色の中に金属成分が含まれることがあり、MRIの磁場によってその部分に電流が走って発熱し、火傷してしまうことがあるからです。
メイクは落とすことができるし、カラーコンタクトは外すことができるので、問題になることは少ないですが、タトゥーが入っている場合には、検査の重要性と火傷してしまう可能性を十分に説明する必要があります。
熱をもって火傷してしまう可能性があるという理由で、湿布やカイロ、ヒートテックもMRI検査には持ち込まないようにお願いしています。
あと、「ループを作るな」と言われていて、手を組んだり両足をくっつけたりすると、皮膚と皮膚が触れあっている部分に火傷を負ってしまう可能性があります。
これも検査中、避けて頂く必要があります。
引用元:医薬品医療機器総合機構PMDAホームページ(https://www.pmda.go.jp/files/000145029.pdf)
5. 一度こういう金属吸着事故が起きると、復旧までにすごい時間とお金がかかると聞いた。
先ほども述べた通り、現在主流のMRI装置は電磁コイルで磁場を発生させています。
液体ヘリウムで超電導状態にしているため、コイルの抵抗はほとんどなく一度流れ始めた電流は流れ続けることになります。
つまり、簡単には磁力を下げることができません。もし金属がしっかりと吸着してしまってどうしても取れない場合には、液体ヘリウム抜いて超電導状態を解除し、磁場を落とす必要があり、そうなると液体ヘリウムの再充填およびその一連の復旧作業に数百万単位でお金がかかります。
以上、MRI検査時の注意事項でした。
少しでも、参考にして頂ければ幸いです。
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