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「どうお金を増やすか」だけでは豊かになれない。お金は、世を忍ぶ仮の姿だから。

大学卒業してから10年間、金融機関で働いていた。そこでの仕事は、一言でいってしまえば「どこにどう投資してお金を増やすか」だった。お金を預かって増やす立場でもあったし、投資に関してアドバイスをする立場でもあった。

かつては、銀行に預けていれば勝手にお金が増えた。しかしそんな時代は過ぎ、やがて銀行は、安全にお金を預けておける巨大な貯金箱となった。貯金箱に入れておくだけで将来は大丈夫なのか。少子高齢化で年金の先行きも見えない。そんなこんなで、「貯蓄から投資へ」の掛け声とともに、お金をいかに増やしていくかについて、あーだこーだが言われるようになった。

私自身も、そんなあーだこーだの中で、全国各地で投資に関する話をしたり、銀行や証券会社のセールスマンたちへの研修をしたりしていた。いまや、そうした「金融教育」の一部は、学校現場にまで広がっている。

そうした経験を経ていま思うのは、「お金をどう守るか/増やすか」だけでは、豊かにはなれないということ。その先の「お金をどう使うか」にもっと目を向ける必要があるということ。「お金の守り方/増やし方」はさんざん学んできたけれど、「お金の使い方」は、誰にも教えられなかった。


なぜ、お金を増やすのか

とはいえ、お金を守ったり増やしたりすることは、大事な問題だ。若いうちから知っているに越したことはない。

なぜそれが大事な問題なのかといえば、お金には、この2つの機能があるからだといえる。

1.いろいろなものと交換できる(交換機能)
2.置いておいても腐らない(価値保存機能)

つまり、お金を守ったり増やしたりするのは、いつか何かに交換するため。交換するときまで、一時的に、腐らない「お金」という形で置いておく。だから、お金は一時的な世を忍ぶ仮の姿なのだ。



「どう増やすか」だけでは、豊かになれない

少なくとも私が関わっていた頃の「金融教育」では、一時的な仮の姿までしか対象にしていなかった。でもお金は、守られたり増やされたりするだけでは、その役割が全うできない。いずれ何かに交換されたとき、はじめてその人の「豊かさ」となり、その役目を終える。そして今度は、お金を受け取った人の豊かさの「一時的な仮の姿」となる。

だから、一生懸命にお金を守ること、増やすことを学んで、お金をたくさん持つことができたとしても、それだけでは豊かにはなれない。それらを、自分を豊かにするものと交換できて初めて、人は豊かになるのだ。

でも、世の中では、守ること・増やすことの情報は交通渋滞を起こすほど出回り、一生懸命「教育」が行われていても、その後に、何にどう使えば自分が豊かになるのかについては教えてくれない。そこにセオリーがないからだ。自分で答えを探していくしかない。

答えがない。ノウハウがない。だから、若いうちから自分で考えて、経験して、自分なりの答えを少しずつ積み上げていくしかない。それこそ「教育」として必要なことなのではないか、と思う。

お金の3つめの機能

お金には、もう一つの機能がある。

3. ものの価値を表現できる(価値尺度機能)

①バラ1輪と、②同じバラ2輪なら、お金に換算しなくても、②の方が価値が高い(おそらく2倍)とわかる。では、①花束と②チョコレートの箱だとしたら、どうだろう。違うものを直接比べることは難しい。そこで、お金というモノサシを当ててみる。もし、①は3000円、②は3500円、だとしたら、そこで「花束<チョコレート」なのだとわかる。

でも実際は、ある人にとっては、花束の方がずっと嬉しいかもしれない。ある人はチョコレートが苦手かもしれない。だから、「お金」だって決して完璧なモノサシではない。最後は、一人ひとりの心のモノサシが価値を決めていく。

だから、お金を何かと交換することは、「私は、このものに、これだけの価値を感じていますよ」という、メッセージを送ることでもあると思う。「お金」という目に見えるものに乗せて、目に見えない気持ちを伝える。その相手は、お金と同時に、「自分の仕事が誰かの豊かさになっている」という幸福感や誇りを受け取る。


お金の何が人を豊かにするのか

こう考えていくと、お金を守る・増やすで終わるのではなく、その先に「自分を豊かにしてくれるもの」にお金を使うことで、はじめて人は豊かになる。それは、お金を使った人の豊かさでもあり、また、使われた人の豊かさでもある。「お金」を手にするのは片方だけれど、豊かさは双方に生まれる。そして、そのお金が次に使われたときに、またその双方に豊かさを生む。

だから、お金について考えるとき、どこに預けるか、託すか、だけではなくて、最後に自分を豊かにしてくれる何に使うのか、まで考える。自分の心のモノサシをもつ。それが、自分を豊かにし、人を豊かにし、社会を豊かにしていく。

金融機関にいたころ、ファイナンシャルプランナーや証券アナリストの資格をとり、お金を守る・増やすための勉強をいろいろしてきた。これからは、自分の心のモノサシを持って、お金の交換機能・価値尺度機能をフルに使って、自分を、人を、社会を豊かにするお金の使い方を、学んでいきたい。


#お金について考えていること

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