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初代ポケモンハックロムの話をしたい

ポケットモンスター赤緑青ピカチュウを独自に改造している者たちがいた。改造の種類や質は、単に性別選択機能をつけるだけのものから、次世代以降を基準としたバランスに大幅変更するものまで様々あった。そんな中からとある一つのハックロムについて語りたい。


※ハックロムは違法であり改造するのも遊ぶのも危険な行為です。またこの雑記はハックロムおよびゲーム改造を推奨するものではありません。


ハックロムにはそれぞれに呼び名がある。今回紹介するものにも名前はあるのだが、特定を避けるため「プスプス」と呼ぶことにする。ハックロムに詳しい人は、ひょっとしたらこれだけでピンと来るかもしれない。

プスプス概要 所感

初代ハックの中でも、このプスプスは特に大規模な調整を加えているものにあたる。膨大な調整内容をすべて挙げることは難しいので、とりあえず主要なものを列挙してみると
・グラフィックは全面的に金銀(2世代)基準
・金銀のポケモンを一部追加
・3世代目以降のポケモンをわずかに追加
・あく、はがね、フェアリーのタイプを追加
・それに合わせた技の追加と調整
・全面的なバグフィックス
・その他全体的に仕様変更と利便化

自分が特に気に入っているのは金銀基準グラフィックだろうか。グラフィック美化の類ではあるのだが、初代と同じGB基準のグラフィックであるため違和感がない。それでいて新鮮な初代を味わうことができる。

ポケモン追加は正直なところ中途半端で、金銀ポケモンが歯抜けで追加されているのが主となっている。ただし初代ポケモンのいくつかは進化先が増え、ブーバーンエレキブルといったやや真新しい顔を見ることはできる。

タイプと技の追加調整も一見するとボリューミーなのだが、これもまた万全とは言えない。例えば、バトンタッチちょうはつといった特殊な技は技術的に実装が困難なのか省かれている。もちものとくせいもないので、当然にそれらが引き起こす駆け引きも存在しない。ポケモン経験者ならば、これだけでバトルの味気無さを察することができると思う。

この発見はすこし面白いと思う。ポケモンは複雑なゲームという印象がある。元素周期表より複雑怪奇なタイプ相性表がその印象の主たる原因ではあるが、実のところいくらタイプが増えたところで複雑さには影響しない。タイプという土台の上に成り立つ、それ以外のシステム ルールこそが現代のポケモンバトルを形作っているわけだ。

というわけで、大改造が加えられていながらも根本は初代の性質がそのまま表れている。改造されたことによって、かえって初代のシンプルさが強調されてしまっているとも言い換えられる。

では、初代ポケモンの強さヒエラルキーも変わっていないのか?

ここは少々の変化が見られる。

バトルの仕様と変化

プスプス独自の解釈と調整がもたらした意外なヒエラルキー変化の話に進んでいこう。が、初代を知らない人と忘れている人にもこの話をなるべく楽しく読んでもらいたい。そのため、まず初代ポケモンのバランスや仕様を一部だけ伝えるので、どうか付き合ってほしい。

◆ステータスのとくしゅ◆
現ポケモンのステータスであるとくこう とくぼうは、初代ではとくしゅに代わっている。とくこう とくぼうはひとまとめにされていたのだ。とくしゅが高いポケモンはこの仕様により火力と防御力を両立しているため、基本的に強い。

◆はかいこうせんの仕様◆
はかいこうせんの〔相手に命中すると使用者は反動により次ターン動けない〕というデメリットは現在と変わらないが、その仕組みにすこし難があった。とりわけ対戦に影響を及ぼしたのが〔はかいこうせんで相手を倒すと反動を受けない〕というもの。これは内部処理の問題による。

はかいこうせんで相手を一撃すればデメリットを受け付けない。この仕様を利用して当時に猛威を振るったのがケンタロスとなっている。高いこうげきすばやさタイプ一致により、先制で高火力のはかいこうせんを撃って相手パーティをなぎ倒すわけだ。

「ちょっと待った!!はかいこうせんとくしゅ技だろ?ケンタロスとくこう(とくしゅ)が低いから高火力とはいえないよ!」

と、ポケモン経験者は思っただろう。ここにも初代の仕様が絡んでくる。

ぶつり技 とくしゅ技といった技の区分は、今でこそ技ごとになっている。しかし初代は技ごとではなくタイプごとに区分されていた。ノーマル技はすべてぶつりだったり、エスパー技はすべてとくしゅだったり。従って初代のはかいこうせんぶつり技扱いであり、ぶつり技の威力に影響するこうげきの種族値が高いケンタロスはまさしく適任だった。

◆タイプが少ない◆
途中の世代からポケモンに入った人には馴染みがないと思われるが、初代はタイプが少ない。具体的には15種類に限られていてあく はがね フェアリーの3種類が存在しない。

このため初代はエスパータイプが非常に強かった。弱点が虫タイプ1種類であり、その虫タイプは強いポケモンや技に乏しくバトルの選択肢に挙がりづらかった。上に説明したとくしゅの仕様もあり、エスパーは基本的に攻撃力が高くて硬いことも追い風となっている。



抑えておいてほしい情報はざっくり伝えた。初代は他にも面白い仕様がたくさんあるため、気になった人は調べてみてほしい。

ここからいよいよプスプスでの仕様の変化について話していく。

◆先祖返りするとくしゅによって起きるインフレ◆
とくしゅは第2世代の金銀以降とくこう とくぼうに分割され、ポケモンのステータスもそれらを基準として調整された。では、そうした金銀以降のステータスをむりやり初代の仕様に戻すとしたら?

プスプスではとくこう とくぼうとくしゅに先祖返りさせるにあたり、このような解釈をした〔いずれかの高いほうを基準にする〕

なぜそう考えたか自体は理解できる。低いほう基準では弱いポケモンが出てくる。平均値やそれに近い数値をとったら恣意的とみなされる恐れがある。本来は穏便を求めた解釈だったらしい。偶然か意図的か、この解釈によっていくつかのポケモンの種族値はちょっとおかしなことになっている。

◆はかいこうせんの現代化(ナーフ)◆
はかいこうせんにおいてもっとも強力だった反動の仕様は、プスプスでは残念ながら調整されてしまっている。現代ポケモンらしく敵を倒せば反動が発生するため、交代しない限り次ターンは必ず無防備になる。また、プスプスではぶつり技 とくしゅ技の区分がわざごとに変更にもなっている。

これにより、初代でもっともはかいこうせんを使いこなしていたケンタロスはその玉座から退く。とくしゅ70というやや物足りない値のはかいこうせんでは獲物を仕留めきれないし、仕留めても反動が残るからだ。

このハックロムにおいてケンタロスに代わりはかいこうせんを受け継いだ者は、恐らくハピナスだろう。

◆タイプの追加◆
金銀以降のあく はがね フェアリーが追加された。これだけで初代のヒエラルキーを変化させるには十分だ。最上位に位置していたエスパーの牙城が崩れる。

特にかみつきの存在は大きい。初代ではノーマルだったものが現代基準であくになる。初代の大抵のポケモンはかみつきを覚えるため、エスパー対策が容易になっている。

ヒエラルキーを変化させたポケモンの具体例

◆ハードパンチャーと化したハピナス◆
プスプスにはハピナスが追加されており、ラッキーから進化する。

本来のハピナスHP250 とくぼう135によってとくしゅ技をうけるのに強い。だがこうげき10 とくこう75と技の威力には欠けており、自分から攻めるのは苦手なポケモンとなっている。

これがプスプスのとくしゅ丸め処理によってとくしゅ135(とくこう135 とくぼう135)に変貌してしまったのだ。初代ポケモンにおいてとくしゅ135は相当に高く、2位フーディンのタイにあたる(ちなみに1位はミュウツーとくしゅ154

これだけ高いと自ら積極的に技を振るっていける。プスプスのハピナスはわざマシンによりとくしゅ技を覚えさせられるため、うまく技を構成してやればだいたいの相手と殴り合える。そして覚える技の中にはかいこうせんも含まれている。タイプ一致はかいこうせんとくしゅ135の値で放つことができるのだ。

自分が攻略時に実際に運用していたハピナス
はかいこうせん:メイン火力
10万ボルト:サブ火力 四天王対策
リフレクター:ぶつり受け対策
回復技:覚えるものならどれでもよい

開戦時はまずリフレクターを貼って守りを確保する。その後は基本的にはかいこうせんをひたすら撃ちまくり反動は気にしない。ある程度ダメージが蓄積したら回復技でケアをする。必要に応じてリフレクターを貼りなおす。はかいこうせんとサブ火力のPPが尽きるまでこれらを繰り返す。

ノーマルと相性が悪い相手でも薙ぎ払い続けるハピナスは痛快だった。

◆タイプ相性の寵愛を受けたマニューラ◆
実は、自分が攻略時にいちばんお世話になったのはマニューラ(および進化前のニューラ)だった。あく こおりの複合は初代ポケモンの狭いポケモンプールによく刺さる。エスパー対策はもちろん厄介なゴーストにも対応できる。こおりにしても初代では通る相手が多い。

多彩な弱点を突けるタイプに、こうげき すばやさの高さが合わさって、迷ったときはマニューラという構図になっていた。最後のライバル戦なんてマニューラだけで5タテできたほどだ。味気なさすぎたので最後の1匹はハピナスにゆずった。

自分が攻略時に最終的に運用していたマニューラ
かみくだく:メイン火力その1
れいとうパンチ:メイン火力その2
シザークロス:一部のタイプ対策
つめとぎ:いちおうバフ なくても強い

この他に、自分は使わなかったが、性能が面白くなったキャラは他にもいる。マニューラと同じくあくというタイプ有利がある上でぼうぎょ110 とくしゅ130という硬くて殴れるブラッキー。すばやさ以外の全種族値が実質100を超えることになったモジャンボ。

などなど。

余談 フェアリータイプは不憫
追加タイプ内だとフェアリーの活躍が難しく、攻略では圧倒的に立場がない。というのも、フェアリーの得意とするかくとう ドラゴン あくが少ない一方、苦手とするどく ほのおが初代では非常に多いためだ。序盤から中盤はくさ どく複合が、中盤以降はゴースト どく複合どく単 ほのお単が邪魔をしてくる。もうずっと肩身が狭い。

四天王ワタル戦を見越してタマムシシティ以降からニンフィアを育てていたのだが、これは苦労した。四天王に至るまでの間でニンフィアを使って有利になるような場面にはほとんど出会わない。肝心のワタル戦もハピナスマニューラで事足りる。

初代環境にフェアリーを追加するとどうなるか?という検証としては面白かったと思う。



結論すると良いハックロムだったと思う。

改造により初代の欠点を取り払いつつ、現代的な仕様を積極的に盛り込んでなるべく快適なゲームに。上にあげたバトル面はもとより、たとえばわざマシンが使い放題に変更されていたり、ひでん技がフィールドで直接使えるようにされていたり、細かやさが随所に光る。

だが、同時に初代の限界をも教えてくれる。タイプと技が増えた程度では拭い去ることのできない、初代のシンプルさを。

それに、プスプスで調整されてしまった初代ポケモンバトルのむちゃくちゃな仕様は、あんがい魅力的だったなと思えてくる。初代ねむりの強さを活かしたゆめくいゲンガーやスリーパーに、急所率の仕様を駆使した確定急所きりさくペルシアン、はかいこうせんケンタロス、無法する楽しさでいうと改造前のほうが上かもしれない。

とある初代ポケモンハックロムの話でした。

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