【Steam】貴様は混沌を遊べるCritters for Saleで
これ
ゲームを遊ぶと 彼 が 出てきた。
誰 が ?
マイケル・ジャクソン。
名前はともかく、映る画像は間違いなく本人だ。点描風フィルターとエフェクトを通してなお見間違いようがない。
これは、使用許可を取っているのか?
いや、間違いなく取っていない。
そうして気づいて、他の場面を覗いてみると権利的に怪しい画像がちらほら用いられている。恐らくそのほとんどが限りなく黒に近いグレーだろう。
バカなゲームだ!
それに気づいてしまうともうダメだ。面白すぎる。バカバカしいという意味でも、興味深いという意味でも、面白すぎるではないか。
そもそもゲームを起動させた時点で異様だった。
タイトル画面とそこから選ぶ5つのシナリオ、まずこの時点で只者ではない。
シナリオを始めるとテキストアドベンチャーが始まるわけだが、見ろよこのUI!!大胆に枠取られた画面と左右の謎めく情報表示。そんなUI中にスチルが表示されるわけだが、出てくるのは絵よりも写真……画像のほうが多い。
モノクロの、点描風フィルターを通した画像が物々しい。画像を超えUIを侵食するレベルの過剰なエフェクトも備え付け、視界を通じて脳をハッキングしてくる。
こんなグレーな様子がもたらす下品さを補ってあまりあるセンスだった。
各種の演出はスタイリッシュ、アングラ、サイケデリック、ビビット、制作者のうちから溢れ出る情動だ。原液だ。浴びせかけてくる。冴えわたっている。
個々の演出を見るにつけ、悔しいが、制作者はカッコよさの作り方を理解している。
特に楽曲のチョイスといったら!!クールなロックで心を燃やしてくるかと思えば、CHILLなヴァイパーウェイブやサイケなEDMが酩酊に誘う。常に意表を突いてくる癖に場面によくマッチした選曲が憎たらしい。
一方で操作レスポンスは快感を押さえている。ポイントクリックの心地よさや謎解きの満足感は、ゲームとして極めて誠実だ。クリックの楽しさ+演出のヤバさがもたらす相乗効果はとてつもない。
そのうえ進めると分かってくるのだが、奇天烈に見えるUIも実は大事な情報表示を担っていて……ピエロのフリした仕事人め。
シナリオに関しては、言うまでもないだろう。
狂っている、と一言で言い表すべきではない。サタニズムを軸とした宗教思想、飛び交う世界、中東やアジア的な宗教、哲学的な思索にシュルレアリスム、陰謀論にSF。いうなればアングラ系ジャンルのごった煮。
かと思えばシナリオごとで遊べるミニゲームを巧みに変え、謎解きに別のシナリオが絡み、ギミックの楽しみを忘れていないところが手練れている。
しだいにゲームの輪郭が見えてきた。
グレーな素材をふんだんに取り込み、フィルターとエフェクトによって過激に装飾する。設定・シナリオ面ではあらゆる思想を貪欲に重ねて、混ぜ合わせ、深い混沌を演出する。
それら全てがゲーム構造のレールに乗ってプレイヤーにより操作されることで、ある種の即興的・動的なコラージュが駆動しはじめるわけだ。体感するコラージュ……とでも言おうか。
このゲームを日本語訳してくれた方や、勧めてくれた方には感謝したい。ひょっとすると今年一番の出会いかもしれない。
おまけ
今作に用いられた楽曲は複数のアーティストたちが提供したものらしい。さすがに楽曲は許可を取っていると思われるが……こんなゲームのことだから正直なところ分からない。
個人的に気に入ったアーティストを紹介。
VRTLHVN
恐らくネット活動中心のアーティスト。ダークアンビエント、ノイズ、EDMの楽曲は、デジタル・アングラ系ホラーの質感を伴っている。この手の曲が好きな人ならすんなり聴ける。
活動場所はbandcampがメインか?
Mong Tong
台湾のアーティスト。サイケデリックなEDMを基盤としつつ、土着的なサウンドを織り交ぜているのが特徴。新鮮さがありながら古風な呪術めいた空気感も強い。
作中では主に〔龍〕シナリオで流れる。
Утро(utro)
ロシアのインディーロック・パンクバンドらしい。日本語の情報がほとんどないが、配信サイトには流通しているので普通に聴ける。
陰気臭いロックにもかかわらずノリがいい。無機質なサウンドかと思えば情動が見え隠れする。ときおり中東アジアなテイストも感じられる。不思議だ。
作中とある場面で1曲のみ流れる。これが場面のインパクトと合わさって本当に印象深い。個人的に今回出会ったアーティストの中でいちばん気に入った。
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