見出し画像

【土曜登校 −行きたくない気持ちを切り替えるまで−】

今日は初めての土曜登校。コロナが子どもたちの学校生活にも大きく影響している。

昨晩から小3の次男の表情がさえない。
「せっかくの週末なのに、ゆっくり出来ないなんて」とぼやいている。
「学校、休みたい」としきりに言うが、「明日の朝に考えようよ」と意にもない返事をしてその場を収める。

そして今朝。休日なのに目覚まし時計で起き、いつも通りに朝の支度を始める。その音で長男がもぞもぞ起きてくる。続いて起きてきた次男は朝のハグを求める。二人とも、憂鬱な顔で朝ご飯を済ませる。そのあと、長男はいつも通りに着替え、健康チェック、ランドセルの中身を確認し連絡帳を机に出す。保護者サインをして渡す。あれ次男は? 見るとまだパジャマのまま。いつもならマンガなのに今朝はハードカバーの児童書を本棚から取り出して読み始めた。

「学校に行く準備しないの?」
「・・・」
「え?学校休むの」
ウンと小さく頷く。
学校を休むという意思がこんなに強いとは。

「風邪の症状ないし、ママがお休み決められないな。学校の先生に電話して休むことを自分で伝えるのよ」。かなりプレッシャーを掛けたが、全く意に返さず。長男は7時25分に友だちと一緒にさっさと登校してしまった。

まだ朝の会まで時間に余裕がある。しばらく様子を見ることにした。家の前を、ランドセルをカタカタ鳴らしながら何人もの子どもたちが通り過ぎていく。

7時40分。パジャマ姿の次男が
「先生、学校に来たと思う」
とソファから立ち上がった。

「本当に学校休むの?どうして学校に行きたくないの?」
「だって、書写(習字)があるんだもん。片付けるの大変だし。しかも今日は清書なんだよ。」
「清書かあ。でもさ、書いた中で一番良さそうなのを出せばいいんじゃない。清書だからきれいに書かなきゃって緊張しなくても大丈夫だよ。」と励ましてみる。
「算数も、最近面倒なんだよ。」
「あれ、算数好きじゃなかったっけ?」
「計算が大変(4桁の足し算引き算の筆算に苦労している)」
「そっか。そりゃ大変だね。」
「それに、方面別下校もあるよ」
「あら、その訓練は大事だよ。東日本大震災の時にね、避難訓練をたくさんしていた学校や保育所では、みんな素早く避難できて命が救われたんだよ」と危機感を煽ってみる。少し興味を持ったように見えたが、でもまだ欠席の意思は固い。

「じゃ、自分で先生にお話してね」
仕方なく子機を手に取って小学校に電話する。担任の先生が電話口に出てくださった。次男が直接話す。
「おはようございます。今日お休みしてもいいですか?」
すると先生、事情を察して語りかけてくださる。

「ううん、パジャマ」
「書写で、筆で書くとき、ひじがブルブルしちゃう」
「うん」
「わかった」

次男の返答から想像するに、学校の準備はしたのか、なぜ学校に行きたくないのかを尋ねられた様子。最後に次男から子機を渡され先生にお詫びを申し上げた。
「学校に行きたくない理由も聞けましたし、大丈夫です。『おいで』って言っちゃいましたけど。遅くなってでも結構ですからいらしてください。」
と言ってくださった。お礼を伝えて電話を終えた。

すると次男、ソファーに寝転がって再び本を読み始める。
「その本を読み終えたら行こうか?」と声かけすると、
「2限目から行く」とぼそっとつぶやく。
「わかった、2限目からね」
再び学校に電話して2限目から登校することを伝える。

静かに本を読み続ける。何を声かけすれば良いかわからず、私も読みかけだった雑誌の記事の続きを読む。「今から行く」といつ声かけられても良いように。

2限目は9時25分から始まる。9時を過ぎた頃、次男に支度を促す。制服に着替え、歯磨き、ランドセルの中身確認と連絡帳へのサイン、健康チェック、いつもの手順で進める。9時10分になると、次男から
「もう、行くよ」
と声かけられた。

ああ。母はその言葉を待っていたのだよ。

次男が学校まで来て欲しいというので、一緒に登校した。雨がぱらつく中、水路の脇を通って、小公園の前を通る。行く途中、先生と何を話したかそれとなく聞いてみると「2限目からでもいいからおいで」と言われたそうだ。なるほど、そういうことだったのか。

学校に到着して、職員玄関に向かう。インターホンで名を告げると、
「お待ちしていました」
と、とびきり明るい声で返事があった。担任の先生の声だ。オートロックが解除され扉を開けて入ると、パタパタと階段を降りてくる足音が聞こえた。
「Fさん、おはようございます。」と担任の先生が出迎えてくれた。
「先生、インターホンの前で待っていましたよ」と次男の横に寄り添った。
「来る気持ちになったんだね。偉かったね。そして、来たくない理由もちゃんと伝えてくれたね」と言われて頷く次男は少し緊張気味だ。
そして、先生に促され教室に向かった。

正直、ここまでのオオゴトにする件ではなかったかもしれない。みんな学校に行くのだから、行っておいでと玄関からひょっと背中を押して送り出してしまえばすむことだ。あるいは、意思は固いみたいだから仮病を使って休ませる選択肢もある。このご時世、風邪の症状がありますと言ってしまえば出席停止になるだけだ。

だけど、それは大人の事情。次男の人生にはこれから先、たくさんの「やりたくないこと」、「気が進まないこと」が降りかかってくる。その時、自分の気持ちに無理に蓋をしてしまったり、あるいはウソついてやり過ごすようになっては、後々自分が苦しむことになるだろう。どこかで折り合いを付けて、それを周囲にも納得してもらって、自分ができる範囲でやっていく、そういうすべを身につけて欲しい。

朝の2時間をたっぷり使うことになったが、この経験で次男がまた一つ生きる力を身に付けてくれたなら掛け替えのない時間だ。大雨に濡れながら帰宅した玄関の前で
「ビッショビッショの〜 三年生」
と替え歌を披露する次男の笑顔を見て、大事な時間だったに違いないと、母は勝手に確信している。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?